国の予算のうち医療にかかる費用を削減するために導入したのが、75歳以上の高齢者に重い負担と差別医療を押し付ける後期高齢者医療制度(2008年4月スタート)です。自公政権退場の大きな国民の怒りの源の一つになりました。新政権はこの制度の廃止を明言しています。ここまでおしあげた力はなにか、今後なにが大切なのか、考えてみます。
先延ばしの恐れ
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新政権の長妻昭厚生労働相は、「民主党のマニフェストでも廃止すると明言している。年齢で区分して、医者にかかりやすい方を一つの保険制度に入れていくというのは無理がある」(17日未明)とのべ、廃止方針を明言。「廃止をして保険料があがる方がいないよう財政上の措置をする」(18日)とものべました。
同時に、長妻厚労相は「廃止して元に戻して、また別の制度にするとステップが三段階になり、混乱が起こる可能性がある。もう一つは廃止をして速やかに新しい制度に移行すれば一つのステップですむわけで、そのメリット、デメリットも十分検討する」(17日午後)とものべています。後者になれば、新制度の設計がすむまで後期高齢者医療制度の廃止が先延ばしされかねません。
後期高齢者医療制度廃止をいますぐ実現できるかどうか、運動と論戦の正念場です。
元の制度に戻す
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制度廃止を先延ばしにすることは、旧野党4党で築いた一致点にも反します。
「うば捨て山の制度だ」と後期高齢者医療制度への怒りで、列島騒然となるなか、当初から反対していた日本共産党だけでなく、民主党、社民党、国民新党も反対を表明。当時の野党4党共同で08年2月に廃止法案を衆院に提出しました。
廃止法案の審議では、自民・公明両党が「民主党もこれまでいろんな機会に老健制度(老人保健制度)は廃止だとはっきりいってきた。その老健制度にもう一度戻す法案を出したのにびっくりした」(自民・尾辻秀久参院議員)などと、民主党や社民党をしきりに批判しました。
しかし、提案者の小池晃参院議員(日本共産党政策委員長)は、"老健制度の問題点は改革する必要があるが、年齢で差別する後期高齢者医療制度とは本質的に違う"として、「間違った制度はただちにやめていったん元の制度に戻す」と明確に主張。他の野党も「老人保健制度の足りない部分をもってしても、とにかくいったん元に戻すことが非常に重要な課題だと4野党で認識を共有させていただいた」(民主・福山哲郎参院議員)と主張しました。
当初から見抜く
当時の4野党でここまで一致点をかちとったのは、国民世論の力と日本共産党の論戦でした。
日本共産党は、制度の原型が現れた当初から危険な本質を見抜き、たたかいの先頭にたってきました。
2000年11月30日の参院国民福祉委員会。「老人保健制度に代わる新たな高齢者医療制度等の創設」を盛り込んだ健康保険法改悪案の付帯決議の採決が、日本共産党以外の各派共同提案で決議されました。このとき反対したのは日本共産党だけでした。
制度の創設を直接決めた06年の医療改悪法案には民主党も反対したものの、「後期高齢者医療の新たな診療報酬体系」を求める付帯決議に賛成。付帯決議も含めて反対したのは日本共産党だけでした。
日本共産党は、07年10月に、制度の中止を求めるアピールを発表。全国の草の根の運動と共同して撤回を求める運動を繰り広げました。「赤旗」も、制度についての連載・特集記事などでキャンペーン。制度のひどさ、政府の狙いを知らせました。
いっそうひどく
後期高齢者医療制度の廃止を先延ばしすれば、害悪はいっそうひどくなります。来年4月には保険料の値上げが予定され、前期高齢者(70歳から74歳)の窓口負担も2割へと倍になります。重い負担による受診抑制も続いています。
こうした事態を改めるには、ただちに廃止しかありません。
上がり続ける保険料
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放置するほど増す害悪
小池政策委員長に聞く
後期高齢者医療制度の廃止が急がれます。なぜ今すぐ廃止が必要なのか、日本共産党の小池晃政策委員長に聞きました。
後期高齢者医療制度は、年齢だけで区切り、別の制度に囲い込んで重い負担と差別医療を押し付ける世界に例を見ない仕組みであり、そこに国民、高齢者の怒りが集中しました。こういう差別医療の仕組みは、一刻も放置できない。すぐ廃止しなければならない根本的な理由がここにあります。
しかも、この制度は、放置するほど害悪が増します。2年に1回、高齢者人口の増加や医療費増に応じて保険料が値上がりします。最初の値上げは、来年の4月です。東京都の広域連合の試算では、平均的な年金生活者の例で、単身者で年間9600円、夫婦2人世帯で1万2400円保険料が上がります。
70歳~74歳の窓口負担の1割から2割への引き上げ凍結などの負担軽減措置も、来年3月までです。一刻も早い廃止は、待ったなしの課題です。
混乱は起きない
自民、公明の両党は、「元の老人保健制度に戻せば混乱する」などと制度廃止に反対していますが、老人保健制度は、高齢者が国保などの保険に入り続けたままで、現役世代よりも負担を軽減する財政調整のための仕組みです。年齢だけで別の制度にする後期高齢者医療制度とは決定的に異なります。昨年4月までは混乱なくおこなわれていた老健制度に戻して「混乱」など起きるはずがありません。
自公両党は「元に戻すと負担が増える人が出る」とも言いますが、昨年5月に日本共産党をはじめ当時の野党4党が参院に提出した廃止法案では「負担が増える場合は国が手当てする」となっています。
昨年4月の野党4党の合意では「ただちに廃止して、いったん老人保健制度に戻す」としていました。この合意に照らしても「新制度ができなければ、後期高齢者医療制度は廃止できない」となればこれは課題の「先送り」ということになります。
窓口負担ゼロへ
国民の願いにこたえて、一刻も早く後期高齢者医療制度を廃止するために、さらなる運動が重要です。日本共産党は先頭に立って取り組みたいと思います。
私たちは後期高齢者医療制度を廃止した後の制度についても提案しています。ひとつはヨーロッパでは当たり前の医療費窓口負担ゼロをめざし、高齢者と子どもの医療費を国の制度で無料にすることです。高速道路無料化に必要な年間1兆3000億円をふり向けるよう求めていきたい。日本医師会など医療団体も、窓口負担軽減を打ち出しています。
もうひとつは、高すぎる国保料(税)を下げることです。国保は加入者に高齢者や失業者、非正規雇用労働者など所得の少ない人が増えてきたにもかかわらず、1984年以来国庫負担を削ってきたため、保険料が払えない水準に上がっています。今こそ国庫負担を元に戻して、国保の保険料を下げるべきです。保険料を払えない人から保険証をとり上げることをやめることとあわせて実現させましょう。