大阪・泉南地域にあったアスベスト(石綿)工場の元労働者らが健康被害を受けたのは国が規制権限を行使しなかったからだとして、国に損害賠償を求めた訴訟で、国は1日、国の権限不行使を違法として賠償を命じた大阪地裁判決を不服として大阪高裁に控訴しました。原告側も控訴します。
この訴訟は、石綿肺などを患った元労働者や周辺住民ら29人が国に計9億4600万円の損害賠償を求めていました。先月19日の判決は、旧じん肺法が制定された1960年以降について、元労働者ら26人への計約4億3500万円の支払いを命じました。周辺住民については訴えを退けました。
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「怒りでいっぱいです」。原告団・弁護団は1日、東京・霞が関の厚労省内で記者会見して「命を守る政治に期待したが裏切られた」と抗議しました。
「右の肺を半分切除し、いつまた爆発(再発)するか分かりません」と話した原告の蓑田努さん(67)は、元アスベスト関連工場労働者です。
担当の厚労相、環境相ではなく、仙谷由人国家戦略担当相が控訴を決めたことに「怒りを感じる」と述べ、命より金を優先した国の決定に「最後までたたかっていく」と語気を強めました。
原告共同代表の佐藤美代子さん(65)は「夫を亡くして6月で一周忌を迎えます。判決を聞いたときには『パパ良かった』と仏壇に報告したのに、何と報告したらいいのか言葉が見つかりません」と、流れる涙をぬぐいながら話しました。
「明日をも知れぬ人もいます。時は待ってはくれません。望みをどうして打ち消してしまうのですか。(控訴を決めた大臣は)大阪の泉南にきて自分の目で被害の実態を見てください」と、原告との面談もせずに控訴を決めたことに抗議しました。
「負けません。向かっていきます」と、控訴審でもたたかう決意を述べたのは岸秋江さん(62)。「鳩山由紀夫首相から『悪かった』と言ってほしかった。アスベスト被害は私たちの代でなくしてほしい」
原告らは同日、東京・永田町の首相官邸前にも座り込んで訴えました。
国に抗議声明
泉南アスベスト国賠訴訟原告団・弁護団は抗議声明を発表しました。
声明は「鳩山政権は『いのちを守る』ことを公約に掲げていた。今回の控訴は、原告被害者らの期待と信頼を裏切るものであり、絶対に容認することはできない」と批判。「原告の命のあるうちの救済を実現するため、一刻も早い政治による解決を求めて全力をつくす」と表明しています。
「控訴撤回を」
参院委で小池議員
日本共産党の小池晃議員は1日の参院厚生労働委員会で、「命を守るという政権のやることではない」と批判し、控訴撤回を強く求めました。
小池氏は、政府が戦前から危険性を指摘していたこととともに、政府が規制を強化したとされる1987年に岸和田労働基準監督署が策定した「石綿(アスベスト)紡織業指導計画」のなかでも、「行政指導にかかわらず...新規のじん肺有所見者も後をたたない」と指摘していることを示し、規制権限を行使しなかった国の責任は明確だと強調しました。
長妻昭厚労相は「現場の人の苦しみは分かるが、法的整理が必要な面もあり控訴することになった」などと述べました。
小池氏は「控訴を断念して被害者と協議するなかで解決すべき問題だ。被害者の命あるうちに救済せよ」と重ねて控訴撤回を迫りました。