2010年174通常国会:質問主意書及び答弁

出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度に関する質問主意書


質問第三七号

出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

 平成二十二年三月一日

小池 晃

 参議院議長 江田 五月 殿

出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度に関する質問主意書

 昨年九月、出産育児一時金等(出産育児一時金、家族出産育児一時金、出産費及び家族出産費をいう。以下同じ。)の医療機関等への直接支払制度(以下「本制度」という。)の導入によって資金繰りに支障が生じ閉院に追い込まれる産科医療機関及び助産所(以下「産科医療機関等」という。)が出かねないという声に応えて、私が提出した質問主意書に対する答弁書(内閣参質一七二第三号。平成二十一年十月一日付け。以下「答弁書」という。)において、鳩山内閣は「出産育児一時金等(中略)の医療機関等への直接支払制度(中略)の実施に当たっては、医療機関等に過度の負担を強いることのないようにすべき」という認識を示し、本制度の導入が難しい医療機関等について、本年三月まで、本制度の適用の猶予措置(以下「適用猶予措置」という。)をとった。
 しかし、その後の事態の推移を見ると、独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)の低利融資や適用猶予措置など政府が行った対策は非常に不十分であったと言える。妊産婦の出産時の負担軽減は必要だが、そのための制度が危機的な状態にある産科医療にさらに負担を強いるものであってはならず、現行制度の抜本的な見直しが必要と考える。

 そこで以下質問する。

 1 日本産婦人科医会が本年二月十日に記者会見して発表した、本制度に関する日本産婦人科医会の医療機関に対するアンケート(日本産婦人科医会の全国施設情報登録の分娩取扱い施設(病院・診療所)二千八百六か所に対して実施したもの。以下「医会アンケート」という。)によれば、本制度の導入によって経営に影響が出なかった医療機関は全体の三十一%(診療所においてはわずか十五%)、逆に経営に何らかの影響を受けた医療機関は全体の六十九%(診療所においては八十五%)となっている。特に金融機関からの借り入れがなければ経営困難におちいる可能性があると答えた医療機関は全体では十五%、診療所に限れば二十一%にものぼる。
 また、経営的な理由によって本制度の導入を見送った産科医療機関等は相当数にのぼる。一方で、これらの産科医療機関等の中には、本制度の導入延期によって必要となる大きな窓口負担ゆえに妊産婦から敬遠され分娩数が減少し経営的に苦境に立たされている施設も多い。
 政府は本制度の導入が産科医療機関等の経営に与えた影響をどのように認識しているか。
 2 医会アンケートが示すように産科医療機関等の経営に与えた打撃を回復するために本制度の見直しも含めて抜本的な対策が必要であると考えるが、政府の基本的認識を明らかにされたい。
 本制度の導入による影響は産科医療機関等側から見ると出産育児一時金等相当額の入金が突然二か月遅れるという事態となって現れている。これは、妊産婦健診助成の十四回への拡大措置(以下「妊産婦健診助成拡大」という。)による入金遅延と相まって、産科医療機関等の経営に深刻な影響を与えている。さらにそれは売掛金として計上されるため、税会計上は課税対象となることから、産科医療機関等に一層の負担増をもたらしている。
 妊産婦の負担軽減は必要であるが、この間、妊産婦健診助成拡大と本制度の導入が重なったことで産科医療機関等の資金繰りを悪化させているという認識はあるのか。また、本制度の対策を進めるにあたって妊産婦健診助成拡大による影響も考慮に入れる必要があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい
 1 二で述べたように本制度導入にともなって退院直後に入金されていたものが、最短で一か月、最長で二か月の入金遅延が突然発生することが、最大の問題点である。政府は、答弁書において、支払に要する期間について出産育児一時金等は診療報酬と比較して一か月短縮した旨の答弁を行っているが、医会アンケートの結果を見れば、私が指摘したとおり不十分であったと言わざるを得ない。支払に要する期間を一層短縮すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 2 出産育児一時金等は、妊娠十二週以後の分娩であれば必ず支払われる。妊産婦があらかじめ手続をしておくことで、出産直後に支払われる仕組みも検討すべきではないか。
 1 本制度の導入にともなう資金繰り悪化に対応するため、政府は機構による三千万円までの無担保の低利融資を始めている。同融資に関し相談のあった件数と、実際に融資が実行された件数について、全体数と病院、診療所ごとの数を明らかにされたい。また、相談件数と融資実行件数との乖離の理由について、政府の認識を明らかにされたい。
 2 相談件数と融資実行件数との乖離の理由について、機構は民間金融機関と比較して融資条件が厳しいこと、融資相談の際に院長が高齢であったり、債務が多かったりすると融資は厳しい旨の回答をする場合が多いことから、産科医療機関等の側が融資を受けることをあきらめてしまうためではないかという産科医療機関等からの指摘もある。産科医療機関等に全く責任がない、本制度導入にともなう出産育児一時金等相当額が二か月分入金遅延することによる資金繰り対策と、通常の設備投資や運転資金の融資とを同列に扱うべきではないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 3 本制度導入と妊産婦健診助成拡大にともなって発生する資金需要は、産科医療機関等に全く責任がなく発生している。また、出産育児一時金等で融資額の相当部分が事実上担保されていることを考えれば、経営体力に応じた返済可能な金額や期間、融資の必要額について十分な相談と審査をする必要がある。院長の年齢やこれまでの債務額の多寡とは無関係に融資されるべきであり、少なくとも従前の設備投資や運転資金貸付と比較して融資の条件を大幅に緩和すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 1 政府は答弁書において、「医療機関等の資金面での負担の軽減については、引き続き検討してまいりたい。」と述べているが、答弁書の閣議決定以降に政府が新たにとった「資金面での負担の軽減」策について明らかにされたい。
 2 機構の無担保・低利融資について、四で述べたように融資条件を緩和するとともに、無利子とすべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 1 本制度の適用猶予措置によって本制度をいまだに導入していない産科医療機関等の数及びその産科医療機関等全体に占める割合を明らかにされたい。
 2 医会アンケートによれば、本制度の段階的導入を図っている施設から本制度の導入を拒否している施設まで含めて、全面的に本制度を導入していない分娩取扱い医療施設は十五%になり、診療所においては二十%にまでこの比率は高まる。このような状況をかんがみれば、本年四月からの全面実施に向けた条件は整っていないと言える。日本産婦人科医会が要求しているように適用猶予措置のさらなる延長を行うべきではないか。政府の見解を明らかにされたい。
 一で指摘したとおり、経営的な理由によって本制度の導入を見送った施設では、いまだに経営的に苦境に立たされている施設も多い。これらの施設に対する無担保かつ無利子融資など経営支援も必要ではないか。
 本制度の導入は産科医療機関等の請求事務を増大させている。請求事務を一層簡素化すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。例えば、請求書について、日本産婦人科医会が要求しているように専用の様式の使用をやめ、出産証明書など産科医療機関等がすでに使用している書類の利用なども検討すべきではないか。
 1 医会アンケートによれば、本制度がもたらした借入金の利息や煩雑な手続にともなう事務費用の増大によって分娩費を引き上げたもしくは今後の引き上げを検討している医療機関が全体の七十一%にのぼる。これは本制度の導入にともなう煩雑な事務手続によって生ずる事務処理費用、借入金の利息、借入金返済にともなって積み増しする必要のある資本相当額など産科医療機関等に発生する新たな費用に産科医療機関等が耐えきれないためであり、国がとった産科医療機関等の経済的負担の軽減措置が極めて不十分であったためと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 2 政府の政策によって妊産婦の負担が増えるという、本末転倒した結果となっている。本制度導入にともなう分娩費の増加を考慮に入れて、出産育児一時金等の増額が必要となっていると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。


答弁書第三七号

内閣参質一七四第三七号

 平成二十二年三月九日

内閣総理大臣 鳩山 由紀夫

 参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員小池晃君提出出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

参議院議員小池晃君提出出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度に関する質問に対する答弁書

一の1について

 御指摘の出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度(以下「直接支払制度」という。)においては、医療機関等からの申請から支払までに一定の期間を要することから、医療機関等の資金繰りに一定の影響があるものと認識している。

一の2、三の1及び六の2について

 御指摘の日本産婦人科医会が医療機関に対して行ったアンケート(以下「医会アンケート」という。)の結果や、本年四月以降も直接支払の実施を義務化しないようにとの医療関係者からの要望等も踏まえ、現在月一回となっている申請及び支払を複数回とすることによる支払までの期間の更なる短縮並びに独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)における低利融資の条件の更なる緩和による医療機関等の資金面での負担軽減並びに直接支払制度の適用猶予の延長について早急に検討してまいりたい。

二について

 妊婦健康診査の費用の公費負担分については、各市町村において医療機関等への支払方法等を決定しており、医療機関等における資金繰りへの影響について一概にお答えすることは困難であるが、出産育児一時金等と比較して、妊婦健康診査の平均的な公費負担額が少額であることから、妊婦健康診査の公費負担の拡充の影響は限定的であると考えている。したがって、妊婦健康診査の費用の公費負担の拡充と直接支払制度の導入が重なったことによる医療機関等の資金繰りへの影響についても限定的であると考えるが、いずれにしても、一の1についてで述べたとおり、直接支払制度については、医療機関等の資金繰りに一定の影響があるものと認識しており、医療機関等の資金面での負担軽減について早急に検討してまいりたい。

三の2及び九の2について

 直接支払制度は平成二十二年度までの暫定措置としているところであり、平成二十三年度以降の出産育児一時金制度の在り方については、御指摘の点も含め、検討してまいりたい。

四の1について

 出産育児一時金等の制度の見直しに伴う機構による経営安定化資金(以下「本件経営安定化資金」という。)の融資について、本年二月二十六日現在、機構に対して相談があった件数は、病院が四十四件、診療所が二百四十八件、助産所が十二件の合計三百四件であり、そのうち同日までに融資が行われている件数は病院が三十一件、診療所が百十七件、助産所が二件の合計百五十件である。また、同日までに機構に対して相談のあったものについて融資が行われていない理由としては、機構によると、同日時点で機構が融資の審査中であったこと、病院等が機構に対する申請の準備中であったこと、病院等が他の資金で対応した結果、本件経営安定化資金の申請を取り下げ、又は申請を行わなかったことなどがある。

四の2及び3について

 本件経営安定化資金については、既存の債務の額等を踏まえた弁済の可能性について審査の過程において勘案されることとなるが、既に機構が行う通常の経営安定化資金に比べ、償還期間、金利、担保等の条件を緩和するなどの措置を講じているところである。
 なお、本件経営安定化資金の融資の審査に当たっては、御指摘のように「院長の年齢」を理由として融資を行わないことはない。

五及び七について

 本件経営安定化資金の融資に係る条件について、昨年十月八日に、金利を更に引き下げるとともに、無担保で融資することのできる額の上限を引き上げるなどの対応を行ったところであるが、一の2、三の1及び六の2についてで述べたとおり、医療機関等の資金面での負担軽減について、早急に検討してまいりたい。

六の1について

 昨年十二月に実施された医会アンケートによれば、直接支払制度を実施していない医療機関の割合は全体の七パーセントである。また、医療機関の数としては、調査対象医療機関数二千八百六にこの割合を乗じて計算すれば、約二百となる。

八について

 御指摘の請求書については、直接支払制度の導入に当たって、分娩費用の内訳について透明化を図るべきとの指摘がなされていることを踏まえ、日本産婦人科医会の御意見も伺いながら、医療関係者、医療保険者、支払機関等の了解を得て定めたものでもあり、御指摘の出産証明書等の書類をこれに代えることは困難であるが、医療機関等の請求事務の簡素化に資するよう磁気媒体での申請への支援などについて検討してまいりたい。

九の1について

 直接支払制度については、一の1についてで述べたとおり、医療機関等の資金繰りに一定の影響があるものと認識しているところ、一の2、三の1及び六の2についてで述べたとおり、医療機関等の資金面での負担軽減について、早急に検討してまいりたい。

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