|
臓器移植法改正案の三つの案が13日の参院本会議で採決されます。人の生死にかかわる重要法案であるにもかかわらず、審議は尽くされていません。議論を置き去りにしたままの採決は重大な禍根を残します。
審議打ち切り
参院の臓器移植法改正案の審議は、6月26日の本会議での趣旨説明から始まりました。それから、事実上の審議の打ち切りである10日の本会議での「中間報告」(結論を出さないまま委員会審議をやめて、本会議で採決するやり方)まで、厚生労働委員会での審議はわずか9時間でした。
衆院では厚労委の下に小委員会も設け2年以上にわたり多様な立場からの意見聴取を行っていました。これと比べて参院審議はあまりに短か過ぎます。
修正A案が提出されたのは、「中間報告」の前日。しかも「自由質疑」1時間というスピード審議でした。
提案者も混乱
議論自体も混乱したままです。A案提出者同士でも解釈はそろっていません。冨岡勉衆院議員(自民党)は、「脳死を人の死」とするのは臓器提供時に限るという現行法と同じ概念と説明。一方、河野太郎衆院議員(自民党)は「脳死は一般的に人の死であるという考え方」と述べ、A案は現行法の概念と異なると明言しました。
さらに「『脳死を一律に人の死』とする考えは前提としない」とする修正A案の提出者も"死の概念"はA案も修正A案も「変わらない」と説明するなど混乱を露呈しました。
情報提供のあり方も問題になりました。A案提出者は、小児の長期脳死(心臓が30日以上動き続ける)の例では法的脳死判定が「実施されたことはない」と強調していました。しかし、日本共産党の小池晃議員が、厚労省の研究報告を示し、法的脳死判定が行われている事例があることを指摘すると、A案提出者はその事実を認めました。
また、脳死判定された人からの臓器摘出時には「筋弛緩(しかん)剤を投与することはあるが、痛みをとるための麻酔とは異なる」との説明も、小池氏の指摘を受け、誤りを認め訂正する異例の措置をとりました。
「脳死は人の死」とする考えが欧米では見直しが始まっているとの提起もされました。
参考人からも「脳死となって臓器を提供する側と家族のことが忘れられていないか」(脳死状態を経て亡くなった息子の腎臓を提供した経験のある評論家・柳田邦男氏)との意見も出されました。
論点が積み残されたままの採決にマスメディアからも「人の死 議論深まらず」(「毎日」10日付)、「『改正ありき』急いだ審議」(「朝日」11日付)と危ぐの声が出ています。
正確な情報を
日本共産党と野党議員有志が提出したE案は、内閣府に「子どもの脳死臨調」を設置し、専門家の間でも意見が分かれる子どもの脳死判定基準や、自己決定権や親の関与の範囲、被虐待児からの臓器摘出の防止などについて1年間の検討を行うことを盛り込みました。
E案の意義について、小池氏は「ドナー(提供者)の数の増加には国民の理解が深まることが重要だ。丁寧に国民的な合意をつくっていくことが多くの命を救っていくことにつながる」と強調します。
国民に正確な情報を提供し、十分な国民的議論による合意形成こそが必要です。
■関連キーワード