Dr.小池の日本を治す!
デフレに苦しむ農業救え
 「1本のペットボトルに入るコメの値段は、同じペットボトルに詰めて売られる水より安い」。このことをご存じでしょうか。

 日本経済をむしばむデフレの被害は農業にも及んでいます。コメも長年にわたって価格の下落を続けています。いまの米価のままだとして、投下した労働時間で計算すると、労賃は時給325円にしかなりません。これでは法定の最低賃金の半分にも足りない低水準です。さらに値下がりが続けば、労賃分が出ないどころか、物財コストまで割りかねません。

 「もう続けられない」「これでは、地方の経済が落ち込むのは当然だ」「農地の相続税が払えない。自分の代で終わりにする」-。農山村から都市部まで、どこでも農業経営は危機にひんしています。


 ◆低すぎる補償水準コメ

 民主党政権は、総選挙のマニフェスト(政権公約)で公約した「戸別所得補償」を、4月から始めました。ところが、所得補償の水準が低すぎます。計算の根拠になっているコメの生産コストは、60キロ当たり1万3703円。これは農水省自身が公表した実際の生産コストと比べて、約2800円も低いのです。しかも、全国一律の補償水準なので、もともと生産コストが高い四国や中国、九州、近畿の各地方では、補償されても赤字の一部を穴埋めするだけにしかなりません。

 今年2月の、国によるコメの買い入れ価格は、驚くほど低いものでした。これでは、コメの売買業者が「先行き、米価はもっと下がるぞ」と思ったのは間違いありません。その結果として、米価の暴落を促進することにもなりました。

 米価暴落を野放しにしたまま、所得補償でカバーしようとすれば、必要な予算は際限なくふくれあがります。このままの民主党政権のやり方では、制度の破綻(はたん)は目に見えています。

 しかも、この「戸別所得補償」は、農産物の輸入自由化と一体不可分のものです。鳩山内閣は、WTO(世界貿易機関)農業交渉やFTA(自由貿易協定)交渉に対して、自民党政府時代よりも積極的。そのための「戸別補償」というのが政策上の位置づけです。輸入自由化の方向に「世界は流れている。だから、畜産でも、畑作でも、所得補償を急いで整備しなければ」(山田正彦農水副大臣)というわけなのです。

 しかし日本の農産物の関税率は、途上国はもちろん、EU(欧州)と比べてもきわめて低いのです。野菜をはじめとして関税ゼロのものが多く、コメなどごく一部の品目に高い関税がかけられているだけです。

 これ以上輸入自由化がすすみ、安い海外農産物が入ってくれば、国内農業には計り知れない打撃となります。しかも、WTO農業協定が認めた国内農業の支持水準と比べても、日本は85%も余計に価格支持施策を削ってしまったのです。農産物輸出国である米国、EUと比べても、日本の削減ぶりは異常です。協定に照らしてもなお、支持を強める余地は十分にあるのです。


 ◆食料自給率を高めよう

 日本の食料自給率は40%で、先進国のなかでは異例の低さです。2008年の世界的な食糧高騰のさいには、自国の需要に充てるため、輸出を規制・禁止する国が相次ぎました。「食料は外国から買えばいい」ですむ時代ではなくなってきています。民主党は食料自給率を高めようといいますが、一方で輸入自由化を促進するのであれば、日本人がそろって大食漢にでもならない限り達成は困難です。

 日本から農業がなくなれば、消費者が安全でおいしい食料を手に入れることも困難になります。食料はエネルギーとともに経済・社会の存立の基盤であり、自給率の引き上げこそ、国政の最重要課題です。

 私たちは、農業の再生をめざす提案を4月26日に発表し、(1)生産コストをつぐなう価格保障を中心に、所得補償を組み合わせる(2)「食料主権」を保障する貿易ルールをめざす(3)新規就農者支援法の制定など担い手の確保・育成に全力をあげる(4)農水予算の予算にしめる割合を10年前に戻せば、自給率50%を実現できる-と提起しています。

 農林水産業の再建は、食料自給率を高め、国民のいのちと健康を守ります。「成長戦略」と言うなら、こうした課題こそ中心部分にすえるべきではないでしょうか。
(フジサンケイビジネスアイ 2010年5月10日掲載)

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