Dr.小池の日本を治す!
公約違反 「うばすて山」廃止先送り
 4月から31都道府県で、「後期高齢者医療制度」の保険料が値上げとなりました。高齢者を強制的に別枠の医療保険に囲い込み、負担増と差別医療を押しつける制度の害悪が、いよいよ本格的に発動してきたといえます。

 民主党は野党の時にこの制度を「うばすて山」と批判し、即時廃止を公約していました。ところが、政権についたとたん、制度廃止を「4年後」に先送りしたのです。

 私の、昨年11月の参院予算委員会での質問に対して、鳩山由紀夫首相は「私も信じられない発想だと思う」と答弁しながら、すぐ廃止しないことに「ご理解願いたい」と。私は「信じられない制度を続けることが信じられない」と応じました。長妻昭厚労相は、「制度の被害を広げない措置をとる」などと弁明に追われましたが、この弁明までほごにし、保険料値上げの被害を広げたのです。まさに、国民に対する"二重の裏切り"にほかなりません。


 ◆「入山年齢」引き下げ

 しかも、厚生労働省の「高齢者医療制度改革会議」で検討が始まった制度が大問題です。

 形式上は4案が併記されていますが、ただ一つ、財政試算がつけられ、新聞各紙も「厚生労働省案」と報じているのが、65歳になったら、現役で働いている方も、サラリーマンの扶養家族になっている方も、それまでの保険から強制脱退させて、市町村国保に加入させるという案です。

 国保だったら差別はないのかと思ったら大間違い。この案では、「65歳以上」と「64歳以下」とが別勘定にされ、独立採算となります。病気にかかりやすい高齢者だけの独立保険では、保険料はグングン引き上がらざるを得ません。なんのことはない、「うばすて山」の入山年齢を、「75歳」から「65歳」に引き下げるだけです。

 "定年退職と同時にうばすて山に直行"-。こんな「新制度」は到底、認められません。

 小泉内閣以来、「医療改革」が繰り返されてきましたが、その中身は、窓口負担増、保険料値上げ、高齢者への差別医療の導入、入院患者の病院追い出しなど、国民に痛みを押しつけるものばかりでした。診療報酬の大幅削減で医療機関も経営難に追い込まれ、地域から病院や診療科がなくなる事態も拡大しています。"痛みの分かちあい"の名で、健保組合や協会けんぽに過大な拠出金が課され、健保財政も赤字にあえいでいます。その一方で、医療にかかる国の予算だけは確実に抑制・削減されました。また、大企業の雇用破壊により、医療費に占める事業主負担も減りつづけています。

 日本の公的医療費は先進国で最低レベルです。医療・社会保障の予算を削減から拡充へと転換し、だれもが保険証一枚で医療を受けられる国民皆保険を再建することこそ、真の医療改革ではないでしょうか。


 ◆国民皆保険と「社会主義」

 「構造改革」が声高に叫ばれたころ、日本の国民皆保険を「社会主義」だと言った人たちがいました。先ごろ、無保険者の解消をめざす法案がとおった米国でも、「国民皆保険は社会主義」というキャンペーンが展開されたようです。

 2001年にノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のJ・E・スティグリッツ教授は、近著「フリーフォール」(徳間書店)で、世界の大半の国々では、国民の生活・人権を守るため、政府が責任を果たすべきというコンセンサスがあるとし、そうした制度や理念を「社会主義」と決めつける宣伝は、「不当な蔑称に過ぎない」と批判しています。
「世界のあちこちで、資本主義と社会主義-というより、多くのアメリカ人が社会主義のレッテルをはりたがるもの-が今でも激しいたたかいを続けている」という同氏の言葉は、なかなか示唆に富んでいます。

(フジサンケイビジネスアイ 2010年4月19日掲載)


アーカイブ