3月10日に、米誌「フォーブス」が毎年まとめている世界長者番付が発表されました。資産10億ドル(約950億円)以上の「ビリオネア」は世界で1011人。昨年の793人に比べ、大幅増加となっています。リーマン・ショック後の世界的な株価低迷の打撃から、富裕層はすでに立ち直ってきているようです。日本在住のビリオネアも、今年は23人と、昨年の17人から大幅増です。庶民の懐がいっこうに回復しないのとは対照的です。
米英では、公的資金で立ち直った金融機関が役員への巨額の報酬を復活し、国民の批判を浴びました。こうした中で、「富裕層に応分の税負担を」という動きが強まっています。
たとえば、英国ではこの4月から、所得税の最高税率を40%から50%に引き上げます。株式配当への最高税率も、32.5%から42.5%に上がります。米国では、オバマ政権が2011年度から富裕層の課税を強化する方針を打ち出しています。連邦所得税の最高税率を35%から39.6%に、株式配当やキャピタルゲインへの最高税率も15%から20%に引き上げるという内容です。米国では、このほかに住民税(ニューヨーク市の場合、最高12.618%)が課税されます。これは、サッチャー政権やレーガン、ブッシュ(子)政権時代に富裕層への減税が進行し、それが投機的な経済活動に拍車をかけたことへの反省を踏まえた動きです。
◆所得1億円超で下がる負担
日本はどうでしょうか。
昨年の政府税制調査会の議論を見ていると、世界の流れから大きく立ち遅れていると感じます。たとえば、「所得税の最高税率を引き上げたら」という意見に対して、「そんなことをしたら、金持ちは外国へ逃げていってしまう」という議論がまじめにされています。英国も米国も日本以上に税率を引き上げようとしているのに、いったいどこへ逃げてゆくというのでしょう。税金逃れのためだけに、中国や東南アジアに引っ越す人が、心配しなければならないほどいるとは思えません。
日本では、所得税の最高税率は40%です。しかし、実際の納税者の所得税負担率(税額÷申告所得額)を計算すると、所得が1億円を超えると逆に負担率が下がってしまうことがわかります。
これは、富裕層ほど株や土地取引の所得が多くを占めていて、こうした所得には低率の分離課税が適用されているからです。とくに、株取引への課税は、03年以来、税率わずか10%(所得税7%、住民税3%)という優遇税制が実施されています。欧米では20~40%ですから、日本の税率の低さは異常です。
◆大企業株の配当は依然高水準
大企業は利益が大幅に減っても、株主への配当は維持ないし微減です。昨年末に決算期を迎えた大企業を見ても、たとえばキヤノンは連結当期純利益1316億円を上回る1358億円の配当を維持し、ブリヂストンは連結純利益は10億円しかないのに125億円もの配当をしています。ブリヂストンの株主である鳩山由紀夫首相も5000万円の配当を受けた計算です。こうした大株主の配当への税金が、諸外国に比べても異常に低いのは、国民の目からみて納得できないことです。
最近、民主党政権の中でも、「所得税の最高税率を見直そう」とか「証券優遇税制を見直そう」という意見が、遅ればせながら出てきました。どうも、「子ども手当の財源が見つからないから、背に腹は代えられない」というのが本音のようで、どこまで本気かよくわかりませんが、真剣な検討がされるよう、動きを注視していく必要があると思っています。
(フジサンケイビジネスアイ 2010年4月5日掲載)