認定判断の誤り見つけ突破口に
「部屋の中にじっとしていればいいけど、最近は、ちょっとトイレに行くだけで動くとハア、ハアと呼吸が荒くなるんですよ」
埼玉県蓮田市の月輪(つきわ)忠義さん(67)は肺炎を発症して以来、酸素ボンベが手放せません。
粉じん吸い
45年間ずっと左官・大工。現場で長年にわたりアスベスト(石綿)をはじめとする粉じんを吸い込み、2002年、じん肺と認定されます。じん肺認定から3年後に肺炎発症。せきやたんがおさまらないので労災として補償してもらうため、苦しい体で芝病院(東京都港区)に通い、藤井正實医師はじん肺合併症の続発性気管支炎と診断しました。
妻の美恵子さん(63)は、「夫も苦しくて働けず、ピタッと生活がとまってしまいました」といいます。
医師の判断をもとに労災の療養給付と休業補償を申請したのに、労働基準監督署はじん肺による労災とせず、休業補償は不支給と決定しました。埼玉労働局への不服申し立ても棄却され、国に再審査を請求しました。
なぜ労災と認定されないのかと、不支給の根拠とされた診査医の所見を開示請求。しかし、所見の大事な個所は墨塗りで真っ黒でした。美恵子さんは「あぜんとしましたね。これはもうだめだなと思いました」と振り返ります。
あきらめかけた労災認定をたぐりよせたのが、小池晃さんの行動力と藤井医師の励まし、埼玉土建の支援です。藤井医師が研修医の時に、同じ病院で先輩医師だったのが小池さんです。
月輪さんは藤井医師に「普通にいけば労災認定される状態。苦しいでしょうけど、後に続く人のために、もう少し頑張ってください」と激励されました。
じん肺後に発症した月輪さんの呼吸困難(続発性気管支炎)を労災とするかどうかの基準(じん肺診査ハンドブック)は、たんの量・色にもとづく判断となっていました。ところが月輪さんは、胸部レントゲンにもとづく所見で不支給と決定されていたのです。
小池さんは07年4月、厚労省交渉で「じん肺診査ハンドブックの基準にない条件を持ち出し不支給にしている」と指摘。同省は「診査医が判断基準を誤解していた」と認め、認定の突破口が開かれたのです。04年にも東京土建渋谷支部で同様のケースがあり、小池さんが厚労省と交渉し、改善を図っていました。
通知に感激
厚労省交渉直後の07年4月末、労基署から認定通知(不支給決定の取り消し)が届きました。月輪さん夫妻は「小池さんに助けていただきました。本当に困っている人に手をさしのべてくれる。すごい力があると感じました」と語ります。
いま月輪さんは、アスベストによる健康被害について国や企業の責任を追及し、再発防止、被害者全員の救済を求める裁判の原告(埼玉原告団副団長)となって先頭にたってたたかっています。美恵子さんは、被害者への補償と被害根絶を求める国会への請願署名を1000人を超える人から集めました。
月輪さん夫妻は「小池さんの活躍で、命と健康を守る世の中に変えていってほしい」と期待をよせます。
小池さんの国会質問
05年10月 アスベスト健康被害者に対する健康管理手帳交付が極めて少ないと参院厚労委でとりあげ、交付要件の緩和と無料検診の拡大を要求。厚労省は07年10月から無料検診を受けるのに必要な健康管理手帳の交付要件を緩和し、無料検診を受けられる対象を大幅に拡大。
06年2月 政府が提出したアスベスト健康被害救済法案について参院環境委で質問。国と企業の責任があいまいで、対象疾病が中皮腫と肺がんに限定されていると指摘。石綿肺、びまん性胸膜肥厚(きょうまくひこう)等を追加するなどを内容とする修正案を提案。
(2010年04月23日・しんぶん赤旗)