菅直人首相は今国会の施政方針演説で、冒頭からTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について、「明治の開国」「戦後の開国」に続く「平成の開国」だとぶち上げました。そして、TPP交渉参加について、「6月に結論を出す」と意気込みを見せました。
民主党政権は昨年3月に、いま40%の食料自給率を2020年度までに50%に引き上げる目標を閣議決定したばかりです。しかし農林水産省の試算では、例外なき関税撤廃のTPP参加で逆に自給率は13%へと低落するといわれています。「関税撤廃」と「自給率向上」をどう両立させるのか、政権からはまともな説明がありません。
1000を超える自治体からは、TPPへの参加反対、慎重対応を求める意見書が突き付けられています。医師会からもTPPで米国流の営利医療が持ち込まれることへの懸念の声が上がっています。
TPPの「バスに乗り遅れるな」という声が財界などからあがっていますが、日本は9カ国交渉会議へのオブザーバー参加すら断られました。そのため、日本政府は交渉参加国から個別に聞き取りせざるをえなくなりました。しかし、「TPPバス」は、乗客が満員で乗れなかったのではありません。それどころか座席はがら空きなのです。
◆"丸のみ"を迫る米国
「ASEAN(東南アジア諸国連合)+日中韓」のアジア13カ国の中で交渉に参加しているのはたった4カ国にすぎません。「環太平洋」という壮大な名前にもかかわらず、中国も韓国も参加せず、ASEANで1位、2位のGDP(国内総生産)を誇るインドネシアやタイも、「すべてのセクターを開放するのは厳しい」(インドネシアのマリ商業相)、「ASEANが一体となった戦略的アプローチをとるべきだ」(タイのアピシット首相)と、TPP参加に一線を画しています。TPPは、米国がアジア諸国を分断するものと警戒されているのです。
政府が個別の交渉国から聞き取りを行った結果、日本が参加するには、(1)すべての交渉国9カ国の同意が必要であり、とくに米国からは「米議会の同意を取り付けることが必要」(2)コメのような「センシティブ品目」についても、原則として関税を撤廃し、除外や再交渉は認めず(3)関税撤廃だけでなく非関税障壁の改革に取り組む-ことが必要なことが明らかになりました。
これでは、「早く参加して、日本に都合のよいルールをつくる」どころか、参加のためには農産物の関税の撤廃はもちろん、BSE(牛海綿状脳症)対策のための肉牛の月齢規制の緩和、郵政の民営化など、米国が「非関税障壁」と認定している多数の規制の「撤廃・緩和」を、丸のみしなければならなくなります。
◆その実態は日米FTA、日豪EPA
もしも日本が参加してTPPの交渉国が10カ国となれば、GDPでみると、日本と米国で91%をしめ、オーストラリアも合わせると96%となります。TPPへの参加とは結局、自民党政権でさえ頓挫した日米FTA(自由貿易協定)、日豪EPA(経済連携協定)を一気に推し進めるものにほかなりません。
いま日本に必要なことは、米国に追随して、アジアの分断と経済主権の喪失につながるTPPに参加することではなく、東アジア諸国と共存共栄を図りながら、平等・互恵の経済関係を発展させることです。
グローバル化がすすむ世界経済の中で、貿易の拡大は当然ですが、食料、環境、雇用など、市場まかせにしてはならない分野まで自由化一辺倒であってはなりません。とりわけ食料については、世界の大きな流れとなりつつある「食料主権」--自国の食料は自国で生産するという立場にたった貿易ルールの確立こそ強く求められています。そのことは地球的規模での食糧不足と飢餓が広がる中で、いっそう切実になっているのです。