最近、民主党、自民党などの各政党が、競い合うかのように「法人税率引き下げ」を主張しはじめています。しかし、この主張には、首をかしげざるを得ません。
◆利益と内部留保は増えている
第1に、日本の大企業は、すでに巨額の余剰資金をためこんでいます。さらに法人税率を引き下げて減税するということは、この「ため込み」をいっそう促進することにしかならないということです。
最近発表された2009年度の決算では、利益を増やした企業がたくさんありました。09年度の上場企業連結経常利益上位200社について集計してみたところ、連結経常利益の合計額は16.4兆円で、前年度に比べて1.5倍以上に増えています。
これに対して、200社が当期に納税する法人税等(単体ベース)は2.4兆円にしかなりません。この結果、当期純利益は8.3兆円と、前年度の4倍近くにもなっています。
株主には3.4兆円の配当をしていますが、最終的には巨額の資金が内部留保として積み立てられることになります。この1年間に、利益剰余金だけでも4兆円、株式の含み益や引当金なども含めた広義の内部留保は10兆円近くも増加した結果になっています。
◆「大企業は空前のカネ余り」
このコラムの1回目(3月22日)でも紹介しましたが、日本共産党の志位和夫委員長が鳩山由紀夫首相に「企業の内部留保の還元」を求めたとき、これに反発したマスコミ報道がかなりありました。とくに日経新聞は、「内部留保といっても設備投資などに充当されているから取り崩せない」ということを強く主張していました。
その日経に、最近、興味ある記事が載っていました(5月24日付)。上場企業の3月末の現預金と短期保有の有価証券を合計した手元資金が63兆円に達し、00年3月期以降で過去最高を記録し、「企業は空前のカネ余り状態にある」というのです。
いま大事なことは、この大企業の余剰資金をどのように経済発展につながるように活用するかということであって、さらに減税しても「カネ余り」をひどくするだけではないでしょうか。
第2に、「日本の法人税は外国に比べて高い」ということが、法人税減税論の根拠になっていることです。
たしかにアジア諸国と比べれば日本の方が高いかもしれませんが、少なくともヨーロッパ諸国と比較した場合、大企業の公的負担(税および社会保険料)は決して高くはありません。
最後に、前述の各政党にせよ、日本経団連にせよ、法人税減税論の多くが、消費税増税とセットになっていることです。もちろん、「法人税減税の財源づくりのために消費税増税を」と、あからさまに主張する人はほとんどいません。みな「財政が大変だから消費税増税が必要」「社会保障の財源のために消費税増税はやむを得ない」などというのです。
しかし、その一方で法人税減税をいうのでは、結局、所得低下で苦しい国民の家計に消費税増税をおしつけ、それを財源にして、「カネ余り」の大企業に減税するということになります。
◆消費税でツケ回しはダメ
消費税が導入されてから今年で22年になりますが、この間の消費税収は、累計で224兆円になります。ところが、くり返された法人税減税と景気悪化によって、企業が納める法人3税の税収は1989年度をピークにして、その後はずっと下回ったままです。21年間に減収額の累計は208兆円になる見込みです。
何と、消費税収の93%までが、法人3税の減収の穴埋めに使われてしまったのです。さらに、その過ちを拡大することなど到底許されません。
(フジサンケイビジネスアイ 2010年5月31日掲載)
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