息子が過労自殺もう二度と...
2003年5月29日、参院厚生労働委員会―。これまで禁じられてきた製造業への派遣を解禁する労働者派遣法改悪案の審議が始まっていました。
当日、国会のインターネット中継から流れる小池晃議員の質問をパソコン画面で見つめたのが、岩手県一関市の上段のり子さん(61)です。過酷な働かせ方をされて自殺に追い込まれた次男・勇士さん=当時23歳=の写真も側に置いていました。「何年たっても、遺体の表情はくっきり浮かび、頭の芯がぴりぴり痛みます」
各党に手紙
勇士さんは光学精密機器メーカー・ニコン熊谷製作所(埼玉県熊谷市)に業務請負会社(ネクスター、現アテスト)から請負労働者として送り込まれ、死亡1カ月前は1日16時間働き詰めという長時間労働で自殺(1999年3月)に追い込まれました。
裁判で、勇士さんの働き方は、実質は違法な派遣労働である「偽装請負」だったと知った上段さん。製造現場への派遣で、これ以上犠牲者をだしたくないという思いにかられ、当時の小泉純一郎首相(自民)、坂口力厚生労働大臣(公明)、各党党首などに長い手紙を出しました。「死んだ例がここにあります」という命の叫びでした。
思いもかけない速さで、共産党国会議員団からの返事が届き、小池さんの国会質問へとつながりました。
委員会室で上段さんの手紙を読み上げた小池さん。「偽装請負」の規制強化を求める質問に、厚労省は初めて公式に「派遣法違反だった」と認め、小池さんは、坂口厚労相に「厳正に解決する。調査もする」と約束させました。
「脱法行為を合法化することなど許されない」と製造現場への派遣解禁の撤回を迫る小池さん。一人ひとりの苦しみに寄り添い、その思いを代弁する声が響きわたりました。
上段さんは、「小池さんの追及が『派遣法違反でございます』という答弁を引き出しました。後の勝利判決に大きく影響しました」と話します。
05年3月、東京地裁は損害賠償と実質的な派遣労働者の過労自殺を認めた判決を下します。09年7月には東京高裁が違法派遣を認め、企業責任をより鮮明にし、損害賠償を大幅に引き上げる判決を下しました。会社側の抵抗で、いま最高裁で争われています。
「『望んで派遣になる人がいるからいい』のではなく『法で認めた働き方で犠牲が多発する』ことが問題なのです」
問題は山積
人間らしい雇用のルールを求める上段さん。新政権で派遣法見直しがどうなるか。関心を向けざるをえません。「派遣法改正論議で、労働者保護がうたわれたことは感慨ひとしおでしたが、問題は山積です。政府の改正案では何も変わりません」といいます。
今回の改定法案に盛り込まれた、派遣使い捨ての大穴を追及する日本共産党。上段さんは、「小池議員にはますます大きな期待を寄せ、応援させていただきます」と話します。
( 2010年04月20日・しんぶん赤旗)