質問第一七七号
圏央道高尾山トンネル工事に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成二十年六月十九日
小池 晃
参議院議長 江田 五月 殿
圏央道高尾山トンネル工事に関する質問主意書
昨年五月、圏央道高尾山トンネル工事が開始され、一年が経過した。高尾山トンネル施工区間は、明治の森高尾国定公園に指定されている。高尾山は、先に工事が終了した八王子城跡に比べ、一層水涸れを招きやすい地質構造であり、高尾山トンネル工事による高尾山の地下水脈や生態系に及ぼす影響が強く懸念されている。昨年十月には、自然公園第一種地域でも沢涸れが発生する事態も起こった。
さらに、本年三月二十六日、圏央道城山八王子トンネル北側坑口で土砂崩落事故が発生した。事故後、自然保護団体の代表らとともに崩落の原因について、トンネル付近の沢涸れなど地下水の変動との関連をただすと、国土交通省側は「まだ調査中で、分析できておらず、沢涸れとの関連も説明できる状態にない」と述べた。城山八王子トンネルをめぐっては崩落調査委員会が原因の究明を始めているが、結論がでないまま、トンネル工事は今も続いている。
そこで、明治の森高尾国定公園特別地域を貫く圏央道高尾山トンネル工事に関連して、以下質問する。
- 一
- 高尾山・八王子城跡を守る自然保護七団体の調査によれば、圏央道高尾山トンネル南坑口付近の沢の下流部での沢涸れは、昨年十月十五日、東京都収用委員会による現地調査の際に初めて確認され、その後四月までに五度にわたって発生しているが、政府は把握しているか。
また、妙音谷にある前の沢の支流でも三月、降雨後もわき水が出てこないという水涸れが起きた。同団体の調査によれば、トンネル掘削が進む現場と沢涸れ地点がほぼ一致しているとしている。政府はこの問題を把握しているか。それぞれの沢涸れの原因として考えられるものは何か。原状回復の方策とあわせて見解を明らかにされたい。
- 二
- 高尾山トンネルの現在の掘削進度を明らかにされたい。
- 三
- 高尾山トンネル工事現場における湧水量の測定を行っているか。現在の一日あたりの湧水量と、これまでの湧水量の総計を明らかにされたい。また、行っていないとすれば、その理由を明らかにされたい。
- 四
- 高尾山深部の地下水位について、私が提出した圏央道高尾山トンネル掘削に伴う国定公園への影響に関する質問主意書に対する答弁書(内閣参質一六八第七三号)で、「現在は、地山の深部における地下水位については、観測を行っていないが、今後、トンネルの施工に伴い必要な地質データを把握するために実施するボーリング調査と併せて、観測を行うことについて検討したい。なお、トンネルの施工による影響を受けない九箇所の地下水位の観測孔においては、今後とも継続的に観測を行うこととしている」と答弁している。
ボーリング調査と併せて行う観測についてはどのように検討されたのか。観測が行われていれば、その結果とともに明らかにされたい。また。「九個所の地下水位の観測孔」の観測データについて、観測開始時から直近に至るまでのデータを明らかにされたい。
- 五
- 高尾山トンネル工事の前提となる八王子城跡トンネルの地下水位の回復について、私が提出した圏央道八王子城跡トンネル建設と国指定史跡八王子城跡の環境保全に関する質問主意書に対する答弁書(内閣参質一六八第七二号)で、「観測孔2の地下水位は、平成十九年二月八日以降上昇傾向を示しており、今後も徐々に上昇し、将来的には安定するものと考えている」と答弁した。そこで、前回答弁後の観測孔2の地下水位についてすべてのデータを明らかにされたい。
また、その結果が「今後も徐々に上昇し、将来的に安定する」という答弁内容に沿うものとなっているのか、政府の見解を明らかにされたい。
- 六
- 相武国道事務所が公表しているデータによれば、八王子城跡トンネル工事による観測孔2の地下水位は、いまだに原状回復ができていない。答弁内容と異なる結果になっていることについて、政府の見解を示されたい。また、八王子城跡トンネル工事実績を前提にした高尾山トンネル施工方法の前提が崩れたことを意味するのではないか。高尾山トンネル工事については、八王子城跡トンネルの地下水位の現状をふまえた新たな対応が求められていると考えるが政府の見解を明らかにされたい。
- 七
- 圏央道城山八王子トンネル抗口崩落調査委員会の調査で、崩落の原因は解明されたのか。原因及び今後の対策について、明らかにされたい。
- 八
- 二〇一〇年には生物多様性条約第十回締約国会議が愛知県で開催されようとしている。高尾山には、樹齢百年にも及ぶブナをはじめ、植物種は千三百二十余、昆虫は実に五百種を数えると言われている。また、野鳥は百五十種、日本に生息或いは渡来する野鳥のうち三十パーセントを高尾山で見ることができる。まさに貴重な、世界でも希有な生態系と言える。
このような高尾山は、生物多様性の上でも貴重な自然環境であるという認識が政府にはあるか。COP10開催国としても、生物多様性の宝庫である高尾山の自然に大きな影響を与えるトンネル工事の見直しが求められているのではないか。
右質問する。
答弁書第一七七号
内閣参質一六九第一七七号
平成二十年六月二十四日
内閣総理大臣 福田 康夫
参議院議長 江田 五月 殿
参議院議員小池晃君提出圏央道高尾山トンネル工事に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員小池晃君提出圏央道高尾山トンネル工事に関する質問に対する答弁書
一について
御指摘の高尾山トンネル南坑口付近の沢においては、国土交通省において、平成十五年九月より一か月に一回、平成二十年一月十五日より一日一回の沢水の流量観測を実施しており、平成十五年には一回、平成十六年には六回、平成二十年には三回、合計で十回にわたり流量が零であったことを確認しているが、これまでの観測結果から、当該沢においては、降雨量の影響が沢水の流量に直接現れると考えられ、現時点で、その流量に顕著な変化が生じているとは認識していない。
また、御指摘の妙音谷にある前の沢の流域にある湧水については、新聞報道等を通じて、御指摘の自然保護団体が沢の水が涸れているとの発表を行ったことを承知しているが、国土交通省において、平成十六年一月より一年に一回実施している湧水量の観測においては、湧水量が零であったことはなく、また、前の沢の沢水の流量観測においても、観測を開始した平成四年二月十二日以降、特段の変化は確認していない。
二について
平成二十年六月十日時点において、高尾山トンネルの上り線トンネルについては、全長千三百四十八メートルのうち南坑口から六百四十四メートル、下り線トンネルについては、全長千三百二十九メートルのうち南坑口から六百五十五メートルの位置まで掘削が進んでいる。
三について
高尾山トンネルの工事現場では、掘削した区間の壁面を鋼製ブロックで覆工する等しており、現在のところ、湧水の流出がほとんどないことから、湧水量の観測は実施していない。
四について
地山の深部における地下水位の観測孔については、高尾山トンネルの施工に伴う周辺の水環境への影響に対する関心が高いことを踏まえ、現在、新たな観測孔の設置に向け、自然公園法(昭和三十二年法律第百六十一号)第五十六条第一項に基づく東京都知事との協議等、ボーリング調査の実施に必要な関係機関との調整を実施しているところである。
また、お尋ねの既設の九か所の観測孔の地下水位について、観測開始後最初の六月三日の観測値と平成二十年六月三日の観測値は以下のとおりである。
- 涸沢流域に設置した観測孔9 平成七年六月三日の水位三百八十一メートル 平成二十年六月三日の水位三百九十メートル
- 涸沢流域に設置した観測孔3.3 平成七年六月三日の水位三百六十四メートル 平成二十年六月三日の水位三百六十五メートル
- 前の沢流域に設置した観測孔井戸A 平成四年六月三日の水位四百九十六メートル 平成二十年六月三日の水位 四百九十八メートル
- 前の沢流域に設置した観測孔井戸B 平成十年六月三日の水位百九十七メートル 平成二十年六月三日の水位百九十七メートル
- 前の沢流域に設置した観測孔井戸C 平成十年六月三日の水位百九十三メートル 平成二十年六月三日の水位百九十三メートル
- 高尾山トンネル南坑口付近に設置した観測孔ID‐4 平成十六年六月三日の水位二百二メートル 平成二十年六月三日の水位二百三メートル
- 高尾山トンネル南坑口付近に設置した観測孔ID‐5 平成十六年六月三日の水位二百一メートル 平成二十年六月三日の水位二百二メートル
- 裏高尾に設置した観測孔1 平成十年六月三日の水位百九十七メートル 平成二十年六月三日の水位百九十八メートル
- 裏高尾に設置した観測孔井戸4 平成十五年六月三日の水位百八十九メートル 平成二十年六月三日の水位百八十九メートル
五及び六について
前回答弁書(平成十九年十二月十一日内閣参質一六八第七二号)を閣議決定した平成十九年十二月十一日における観測孔2の地下水位は、三百三十六メートルであった。その後のデータは膨大なものになることから、網羅的にお答えすることは困難であるが、平成二十年三月八日に三百三十三メートルまで一旦水位が低下した後、上昇に転じ、同年六月三日に三百三十九メートルとなっている。
現時点では前回答弁書四についてで述べたとおり、今後もこの水位は徐々に上昇し、将来的には安定するものと考えている。
なお、高尾山トンネルの工事においては、八王子城跡トンネルの掘削において採用したトンネルの周辺の岩盤に止水剤の注入等を行う止水工法を改良し、工事に伴う地下水への影響を可能な限り低減するよう努めているところである。
七について
御指摘の城山八王子トンネルの北坑口で発生した土砂崩落の原因については、現在、地質学及びトンネル工学の専門家から成る「圏央道城山八王子トンネル坑口崩落調査委員会」において調査及び検討が進められているところであり、原因は明らかになっていない。
八について
高尾山は、東京都に残された貴重な自然環境であると認識しており、高尾山トンネルの施工に際しては、工事に伴う地下水への影響を可能な限り低減するよう努めるとともに、周辺の水環境の状況についてのモニタリングを行う等、自然環境の保全に万全を期しているところである。
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