「医薬品の安全性強化に逆行する」と薬害被害者らから廃案を求める声が上がっている医薬品医療機器総合機構法案。五日に予定されていた参院厚生労働委員会での採決は見送られましたが、与党からは会期末(十三日)直前の十二日にも採決すべきだとの声が上がっています。しかし、審議のなかで所管大臣の坂口力厚生労働相も「整理が必要」と認めるほど重大な問題点が明らかになっており、採決などもってのほかです。
今月四日、法案の廃案を求めるサリドマイドやスモンの薬害被害者が、坂口厚労相に面会を求めました。しかし同相は拒否しました。
その理由を五日の参院厚生労働委員会で問われた坂口厚労相は、法案に対し、▽医薬品の規制と開発振興が同じ機構になって大丈夫か▽製薬メーカーからの拠出金に頼ることで審査が甘くならないか、という二つの心配が出されていると指摘。「(その問題を)整理したところで会っていきたい」と答えました。
野党側は「法案を通してから問題点を整理するというのは筋違いだ」と強く批判。審議は中断し、採決は見送られました。
医薬品機構法案は、医薬品の承認審査、安全対策、開発振興、被害者救済という四つの業務を、同じ独立行政法人に統合するものです。いまは厚労省が担当している新薬の承認審査や、副作用の調査など安全対策の業務が新しくできる独立行政法人に移され、安全で有効な医薬品を国民に供給するという国の責任を大幅に後退させることになります。
坂口厚労相も薬害被害者の「心配」を認めざるをえないように、医薬品の開発振興というアクセルの部分と、審査・安全監視というブレーキの部分を一つの機構に統合することは、過去に繰り返されてきた薬害事件の教訓に逆行するものです。
製薬業界からより強い影響
新法人の運営が製薬会社の拠出金や手数料などでまかなわれることも重大です。今後、医薬品の審査手数料の引き上げも予定されており、人材や財政面で企業頼みとなり、製薬業界からより強い影響を受けることになります。
審査の迅速化のため、すでに手数料を値上げしたアメリカの食品医薬品局では、企業への資金依存が高まったことが医薬品の審査を甘くし、問題を引き起こしていると指摘されています。日本でも同様のことを行えば、企業のいいなりになりかねません。
しかも、日本共産党の小池晃議員が厚労省の内部文書を示して暴露(十一月二十六日、参院厚生労働委員会)したように、法案のねらいは、一日も早く新薬を世に出したいという製薬業界の要求にこたえ、承認審査のスピードアップをはかるところにあります。
そのモデルケースともいえる、異例の速さで承認された抗がん剤イレッサ(アストラゼネカ社)が発売後四カ月半の間に副作用による死亡者を八十一人も出すという重大な事態も判明しています。
「審査のあり方に問題があったのではないか」。小池議員の追及に、坂口厚労相は「(問題があったという)認識を持っている」(五日、参院厚生労働委員会)と認めざるをえませんでした。
こうした問題の真相解明さえせずに、医薬品の承認をいっそう早める新たな仕組みをつくるわけにはいきません。法案はきっぱり廃案にすべきです。
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