政府は来年度の税制改正に「法人税実効税率の5%引き下げ」を盛り込みました。政府の試算では、地方税を含めて初年度で8354億円、平年度ベースでは1兆5000億円程度の減税とされています。減税の「財源」として、課税ベースを拡大する内容も盛り込まれていますが、減税額の半分程度にすぎず、差し引きで大幅な減税となっています。
◆経済効果なきバラマキに
政府は、減税によって国内投資が促進されたり、雇用が増えたりして景気にプラス効果が生まれるかのように宣伝しています。しかし、これにはまったく根拠がありません。
たとえば、昨年の政府税制調査会に経済産業省が提出した資料では、5%の引き下げによって最大121万人の雇用維持効果が生じ、国内総生産(GDP)押し上げ効果が14.4兆円に達するなどとされていました。しかし、海江田万里経済財政担当相(当時)が昨年末の記者会見で明らかにした内閣府の試算では、初年度の効果は「雇用創出は2万人、GDP押し上げ効果は0.1%(0.5兆円程度)」にすぎず、平年度ベースでも「9万人、0.2%(1兆円)」にしかならないとされています。
減税額と同程度の押し上げにしかならないというのでは、政策効果なきバラマキといわれても仕方ありません。
大企業は、それでなくても「カネ余り」が激しくなっています。法人企業統計の直近のデータ(昨年7~9月期)で計算すると、資本金10億円以上の大企業は最近1年間で24兆円もの経常利益をあげており、その1年前が10兆円だったのと比べると、利益を大幅に回復しています。この結果、内部留保の累積額も、この1年間で6.4兆円も増えています。
資産内容を見ると、設備投資が低迷しているために有形固定資産は減少する一方で、現金預金や、公社債、投資信託などで運用されている手元資金が、内部留保の増加額をさらに上回る勢いで増えています。
こうした内部留保の増加分の一部をあてるだけでも、雇用の増加や大幅な賃金引き上げが可能です。それをしない大企業にさらに減税することに、いったいどんな意味があるというのでしょうか。
◆財政危機をますます深刻に
民主党政権は、昨年6月に閣議決定した「財政運営戦略」で、「ペイアズユーゴー」の原則を掲げています。これは、新たな施策には同規模の財源をセットにするということです。ところが、法人税減税についてはその例外とし、財源もないまま減税に踏み切りました。
日本の税制は、自公政権のもとで繰り返された大企業・大資産家への減税の結果、税収の対GDP比がOECD(経済協力開発機構)諸国で最低の水準となるなど、空洞化が進んでおり、それが財政危機の大きな原因になっています。大企業への減税は、これをますます深刻にすることになります。
経済産業省などは「減税すれば景気がよくなって、数年後にはかえって税収が増える」かのように言いますが、これも幻想です。1998年、99年にも法人税率が引き下げられましたが、法人税収が引き下げ前の97年度の水準に戻ったのは2006年度、税収の回復まで9年を要しました。それも2年間しか続かず、その後は減ってしまっています。こうしたバラマキによって財政危機を悪化させれば、消費税増税で国民にツケが回されることになることは目に見えています。実際、財界は法人税減税と消費税増税をセットで要求しています。消費税増税は、さらに消費を冷え込ませます。「景気がよくなり雇用が増える」どころか、まったく逆のことになってしまいます。
経済も財政も壊す法人税減税など、愚の骨頂というべきものではないでしょうか。(日本共産党政策委員長)