『世界がもし100人の村だったら』再話 池田 香代子
参院議員・参院選東京選挙区予定候補 小池 あきら
●"100人"だと他人事でない
小池 『世界がもし100人の村だったら』は8年前に発行されて以来ミリオンセラーですね。ふだんはよく知らない世界のことが可視化された、ぼくたちの目に見えるようにしてくれたという点で衝撃的でした。こんなに貧しい人がいる一方で、ごく一部に富が集中していることを初めて知ったという人がたくさんいたのではないでしょうか。
池田 地球の人口を「100人」におきかえると、他人事ではなくて自分もそのひとりという気になるんですね。実は100人村の原案は「1000人村」だったのです。それがインターネットで流れていくうちに「100人」になって、その途端ものすごく広がったのです。
小池 たしかにオフィシャルな関係をのぞいた知り合いや友達ってせいぜい100人くらいですよね。年賀状を出す人もそれくらい(笑い)。1000人はいないでしょう。
池田 統計学的には100人だと大ざっぱすぎるので、1000人村のほうが適切なのですが。
●国会議員は多い?
池田 ところで小池さん、参議院は何人ですか?
小池 242人です。
池田 ちょっと多くないですか(笑い)。減らそうという案もありますが。
小池 日本の国会議員の数は、世界の国々と比べると少ないんです。
池田 『100人村』の印税をもとに「100人村基金」をつくって、その一部を使って、森住卓さんの写真集『湾岸戦争の子どもたち』を全国会議員に配りながらイラク戦争反対を訴えました。2002年のことです。アメリカの「平和を求める退役軍人の会」をまねたのですが、国会議員はアメリカより日本のほうが200人くらい多い。だから大変でした(笑い)。
小池 アメリカは連邦国家なので、連邦議会のおもな仕事は国防と外交くらいで、社会保障や教育は各州政府の仕事ですから、日本の国会とは事情がちがいますよね。
議員の数は、国民と国会とのパイプの太さなんですね。ですから、議員数が少なくなればそのパイプが細くなる。結局、少数意見が切り捨てられていくことになります。国会での"少数意見"といっても、たとえばぼくらが主張している憲法9条守れという意見は、国民の世論調査ではけっして少数意見ではない。議員の数を減らすというのは民主主義にとって大きなマイナスです。
池田 日本に二大政党制はなじまないことを考えれば、定員は削れないかもしれません。
●戦争被害のすさまじさ
小池 ところで、池田さんが『100人村』をつくるきっかけになったのは、やはり、2001年の9・11アメリカ同時多発テロですか?
池田 はい。正確にいえば、そのあとアメリカがアフガニスタンへの報復攻撃をいいだしたときに、これは大変ととびあがって...。
小池 2001年10月にアフガニスタン攻撃が始まりましたが、アメリカの空爆によってどんな被害が出ているか調査するために、ぼくは10月末からアフガニスタンの隣国パキスタンを訪問したんです。アフガニスタンの激戦地のカンダハルから被災者が国境を越えてくるクエッタという町に行きました。10日間くらいでしたが、ものすごい数の負傷者に出会いました。日本では見たこともないようなケガなんです。かかとの骨がちぎれて、足の裏を骨と肉ごともぎ取られているような状態だったり、傷口が細菌感染して高熱が出て抗生物質の投与もできないでいたり。戦争被害のすさまじさを感じました。しかも、子どもたちがその被害にあっていました。
池田 マスメディアは、そういう生々しい現実を伝えませんでしたね。
●「信頼」という外交カード
小池 そのときに驚いたのは、日本から来たというとアフガニスタンの人たちは「ヒロシマ・ナガサキ」というんです。とてもよく知られている。そして、「日本はヒロシマ・ナガサキの被害にあった国なのに、なぜアメリカと組んでいるのだ」ともいわれました。アフガニスタンの人たちにとって日本は特別の国なのです。ヨーロッパ諸国もソ連もアメリカもイスラムの国を攻撃した歴史がある、でも日本は攻撃したことがないからと非常に信頼が厚い。
池田 なぜ日本はその信頼を外交カードとして使わないのかといらだちます。
小池 外務省の人に聞いたのですが、9・11までは日本とアフガニスタンは特別な関係があったそうです。西側諸国はタリバン政権とまったく接触できなくて、日本だけはタリバン政府とも反タリバン勢力とも窓口をもっていた。和平交渉の下準備も日本でやっていたそうです。日本はものすごくいい仕事をしていたんですね。
池田 "お座敷を貸す"というのは、素晴らしい外交ですよね。
小池 ただアメリカがひとたび方針を変えると、日本の外交方針まで変更になり、一生懸命現場でやっていた努力が水の泡になってしまう。
池田 なぜなのでしょう。
●日本外交の基軸は...
小池 やはり、日本の外交が日米安保条約、軍事同盟を基軸に動いているからじゃないでしょうか。それは最近の鳩山内閣の米軍基地問題での迷走を見ても同じことがいえます。
池田 でも私は、日本の首相がアメリカにたいして、しかも軍事で粘っているのを見たのは初めてなので、とても新鮮な思いで応援しているんです。私は政権交代政権としての鳩山政権に期待していますし、新政権は対米外交では、のらりくらりと時間をかせぎつつ、普天間基地の問題をいい方向にもっていこうとしているんだと思っているの。
小池 いままでの自公政権とちがうから、期待するのはわかります。昨年の総選挙は、自民党が長い間、外交ではアメリカが右といえば右を向くような政治、国内では人をモノのように使い捨てにするような政治をおこなったことへの国民の怒りの審判がくだされた、これは日本の政治にとってものすごく大きな進歩だと思います。多くの人が期待をもってみていますよね。
それだけに、新しい政権は国民から託された願いにこたえるかどうかが問われていますが、この間出てくる政策を見ていると、疑問を感じます。普天間基地の問題でも、無条件撤去ではなく、名護市の辺野古沖に代替基地をつくる選択肢はいまだに否定していませんし。
池田さんも辺野古には行かれたと思いますが、言葉にできないくらい美しい海ですよね。そもそもあそこに米海兵隊の基地キャンプ・シュワブがあること自体が許せないし、さらに海上に飛行場を建設するなんて言語道断です。
ぼくが一番思うのは、日本にアメリカの海兵隊がいることの異常さです。世界で海兵隊の拠点を置いているのは、沖縄と岩国だけです。「思いやり予算」で、アメリカ本国にいるより居心地がいい基地をつくってあげている。世界中どこでも受け入れない軍隊と基地を、いつまでも抱えていていいのかと思いますね。
池田 海兵隊は日米安保とも無関係な存在です。
●米軍は日本の平和のため!?
小池 この問題で議論すると、自民党の議員はアメリカの基地がなくなったら他国が攻めてくるといいます。「他国とはどこだ」と聞くと、北朝鮮だとか中国だという。しかし、防衛省が作った防衛白書でさえ「日本にたいして組織的な攻撃をかける国はない」と書いている時代なのに、いまだに「オオカミがくる」みたいな話をしているのです。「戦後65年たっても外国の軍事基地を置いているなんておかしいじゃないか」というと、「アメリカがいなくなったら憲法変えて武装するのか」という議員は、自民党にも民主党にもいます。
池田 鳩山さんは、いまは9条には手をつけないといっているとはいえ、民主党は改憲政党だということは忘れてはいけないですね。
小池 昨年、共産党の志位委員長と鳩山首相が党首会談をおこないましたが、鳩山さんは、米軍は日本の平和を維持する「抑止力」だという。志位さんは、沖縄の基地は移設ではなく無条件撤去だ、それが一番現実的な解決策なのだから、腹を固めてアメリカと交渉することをもとめました。「抑止力」の呪縛にとらわれている限り、日本側がその移設先を提案しなければならないという袋小路に陥ってしまうのです。
●まず基地返還を
池田 移設先探しばかりが先行していますが、95年の米海兵隊員による少女暴行事件をうけて、日米間の協議で普天間基地を日本に返還すると約束したのだから、それをまずやるべきですよね。
実は鳩山さんもそうやって共産党にがんがんいってほしいんじゃないかしら。それがアメリカとの交渉力になると思うんですよね。私たち市民も声をあげつづけます。
小池 それに、そもそもアメリカの海兵隊というのは、日本を守る部隊じゃないしアメリカを守る軍隊でもない。世界をまたにかけてアメリカが影響力をひろげる、率直にいえば侵略していく殴り込み部隊ですね。
池田 10月に来日し、北沢防衛相と会談したゲーツ米国防長官は、アジアにとって最大の脅威は自然災害だといったんですって。つまり戦争の脅威はないってことですよね。だったら海兵隊の存在意義もないじゃないですか。
小池 それなら米軍よりも消防署のレスキュー隊が一番役に立ちますね。
池田 05年のパキスタン大地震のときに日本の自衛隊もアメリカの海兵隊も緊急援助にいきました。自衛隊は活躍したけれど、海兵隊は人殺ししか教えられてないから何の役にも立たなかったそうです。ムシャラフ大統領からも自衛隊は感謝されたけれど、海兵隊のキャンプは素通りしてしまった。海兵隊は人の命を守るのには役に立たないんです。
日本のメディアはこういうことは報道しないで、たとえば1991年に湾岸戦争が終わり、クウェート政府が多国籍軍に感謝する新聞広告を載せたときに日本の名前がなかったということは、何年たってもしつこくいうわけです。日本は130億ドルも拠出したけれど感謝されない、だから軍隊を出せ、と。
日本のマスメディアは作為的に世論操作をしているのではないかと思いますね。政治を後ろに引き戻す一大勢力ですよ。これはどうしたらいいのかと途方に暮れます。
●"メディア対策"は?
池田 小池さんはよくテレビに出ていますが、いろいろご苦労があるのでは? メディア対策はどうしているのですか。
小池 とにかく出演することですね(笑い)。基本的にメディアはあまり共産党をとりあげようとしませんから、少しでも可能性があれば出ていきたい。
池田 小池さんもそうだけれど、最近の共産党の人は、テレビで見ると、"正しいことをいうのは正しいことなんだ"というドグマチック(独善的、教条的)な感じがなくなりましたね(笑い)。親しみやすいキャラの人が増えました。(笑い)
小池 共産党のことが視野に入ってない人や「しんぶん赤旗」を読んでいないような人も、ちょっと聞いてみようかなと思ってもらえるように話してはいるつもりです。
池田 小池さんは、「あの人は共産党だけど面白い」と思われているんじゃないですか。
小池 みんな面白いですよ(笑い)。でも大事な原則をはずした話をするわけにはいきませんから。
池田 信念は固く、アタマは柔らかく、感性はもっと柔らかく、ですね。
私はテレビは苦手です。本を出したときは宣伝のつもりで半年は出演しているけれど、私、テレビに出ると文章が荒れるんです。小池さんはほんとうにお忙しくて、テレビ出演は負担でしょうし、とくにバラエティー政治番組なんて、ろくにしゃべらせてくれないし、しゃべれば茶々入れられるでしょ。いじられるのを覚悟で(笑い)出演されてえらいわ。
小池 番組内では右翼的なほうが勇ましいという論調が主流になるけれど、見ている人は決してそういう人ばかりではないんですね。ディレクターからは一方向になると番組としてつまらなくなるので、共産党の立場できちっと発言してもらうと議論が成り立ってくるという話をよくされます。
●参院選でがんばるために
池田 今年の参院選挙ではやっぱり共産党や社民党にがんばってほしいの。私は鳩山政権に期待はしていますが、民主党が大勝して単独過半数を取ってしまったらとても怖い。共産党はもう一歩踏み出すために、どんなことをお考えになっているのですか。
東京・杉並区在住ですが、昔は松本善明さんがトップ当選していました。うちの母も含めて熱狂的な女性ファンがいましたよね。そこまででなくても、やはり議席を取れるようにならないと。
小池 一歩踏み出すためにも、日本共産党の政策と値打ちを広げに広げて、比例代表選挙で必ず前進をしたいと思います。そして、ぼくも東京選挙区で3期目に挑みます。
池田 もし小池さんが東京選挙区で落ちても比例区で復活当選という"安全ネット"はあるんですか。
小池 ないです。衆議院は比例で復活当選がありますが、参院はまったく別ですから。
池田 背水の陣じゃないですか。小池さんが落ちたら困ります。勝算はあるんですか。
小池 東京都民は、雇用の問題でも生活の問題でも、とりわけ矛盾の真っただ中に置かれている人たちだと思います。それだけに、いまの政治をどうにかしたいと思っているということをひしひしと感じます。この間の都議選や総選挙でも日本共産党は得票を増やしてきているんです。
東京選挙区は定数が5ですが、5つの議席の中に「憲法9条守れ」「国民の生存権を保障した25条を暮らしに生かそう」と確固たる立場でがんばる議席が必要だということは、多くの方に共感していただけると思います。
池田 一方で東京には富裕層もいますよ。生活に余裕のある方はむしろ客観的に政治を見つめて共産党を選ぶかもしれません。
小池 たしかに、政治にたいする関心の高さとか未来への展望をもちたいという選択肢としても選んでいただきたいですね。
●イラク戦争は何だったの?
池田 せっかくの政権交代なので、これまで自民党がやってきたことをすべて"棚卸し"したいです。
日本はイラク戦争に加担したのですから、あれはなんだったのかあいまいにしてはいけないと思って、「イラク戦争何だったの!?―イラク戦争の検証を求めるネットワーク」を昨年秋に立ち上げました。私は呼びかけ人代表で、いま賛同者を募っています。キックオフの院内集会には議員さんが14人参加してくださいましたし、NHKニュースでも報道されました。滑り出しは上々です。
小池 一昨年には、名古屋高裁で、航空自衛隊がイラクでおこなっている武装した米兵の輸送活動は憲法9条1項に違反するという画期的な判決も出ましたしね。
池田 私も原告のひとりで、原告席で「9条1項に違反」っていう判決をこの耳で聞いたんですよ。でも、判決に喜んでいるのではだめで、政治の場面できちんと検証していただこうと思っています。だからぜひお力をかしてください。
小池 小泉首相がイラク戦争を支持するといったこと、自衛隊を戦地に派遣したこと、そしてサマワで何をやったのか、きちんと検証することはとても大事なことだと思っています。
イラク戦争だけでなく、日本は太平洋戦争の検証もできてないですよね。
●今を生きる私たちの問題
池田 従軍「慰安婦」も、中国・朝鮮人強制連行もいまだ解決していません。これは今を生きる私たちのモラルが問われる問題だと思って、私も花岡事件※にかかわっています。
小池 戦争反対はぼくの政治活動の原点です。小学生のときに、ベトナム戦争でアメリカ兵が体がちぎれたベトナム人をもちあげている写真を見て、眠れないくらいショックを受けました。戦争は絶対にしたくないし、させたくない。日本共産党に入党したのも、命をかけて戦争に反対した歴史を知ったからです。戦争はしない、命を守る、という憲法9条と25条が日本の政治の大原則ですから、そのために国会でがんばっていきたいです。
池田 戦争を知らない私たちだからこそできることもたくさんありますね。ぜひひきつづき国会で活躍してください。