厚労省は、要介護度が悪化する原因は家事代行だといって、家事援助を制限し、介護予防(介護の必要がないよう予防する)のために筋力トレーニングを導入しました。
筋トレの効果は証明なし
しかし筋トレの有効性は科学的に証明されているのでしょうか。
厚労省の『介護予防についてのQ&A』に紹介されている海外の31文献のなかには、筋トレをしても歩行機能や日常生活動作に改善がなかったというのが6つもあります。残りも、「筋力の向上が認められた」(当たり前)というだけで、「日常生活動作や生活の質が改善した」という文献は一つもありません。
厚労省が紹介していないもので、高齢者への筋トレの効果について、世界から182の文献を集めて検討した重要な論文があります(注1)。
182のうち62の文献(対象総数3674人)が、筋トレの効果を対照群と比較した研究だったので、これを分析したところ、筋トレによって日常生活動作や生活の質が改善した証拠はまったくなかったというのです。一方、筋トレの危険性は、ほとんどの試験で生じていた!
結論は「筋トレは、高齢者の筋力増強や歩行速度の低下の改善には効果的だが、日常生活動作や生活の質を改善する効果は不明である」。
この研究は、厚労省の主張を根底から覆すものです。
悪化の最大の理由は病気
一方、介護度の軽い人が重くなる原因について、新しい研究結果が出ました(注2)。それによると、重度化した100例のうち、最も多かったのは脳血管障害やがんなどの病気で44件、ついで認知症が39件、加齢のためが23件、転倒は14件。
厚労省がいうように、過剰な家事援助や、介護者などへの依存が重度化の要因となっていないか調べたいと、「介護過剰」というチェック項目もつくったとのこと。しかし結果は該当者ゼロだったので、分析の段階では項目から削除したそうです。
介護度が悪化する最大の要因は病気。「介護過剰」によるものは一例もなかったのです。厚労省の説明を完全に否定する結果です。
重度の人の在宅介護こそ
介護保険施行後、重度要介護者は在宅の比率が減り、施設入所者の比率が増えています。在宅サービス利用の増加は3万7200人なのに施設利用の増加は8万8800人。
軽度では圧倒的に在宅が増えていますが、重度では正反対。重度の方が在宅を維持するには介護保険の利用料が高すぎる上、決められた利用限度額ではカバーしきれません。
5年目の見直しでは、重度の方も在宅で介護できるよう、利用料を軽減する、支給限度額を撤廃する、在宅を支えるヘルパーの労働条件を改善する。こうしたことこそが必要だったのです。それらをすべて積み残したいつわりの「改革」。
自公が提案、「政権準備政党」民主が賛成。こういう人たちに付ける薬は、選挙での審判しかありません。
注1 “Systematic review of progressive resistance strength training in older adults”
注2 NPO法人地域保健研究会がまとめた「軽度要介護高齢者の介護度重度化要因調査研究報告書」
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