質問第七二号
圏央道八王子城跡トンネル建設と国指定史跡八王子城跡の環境保全に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成十九年十二月三日
小池 晃
参議院議長 江田 五月 殿
圏央道八王子城跡トンネル建設と国指定史跡八王子城跡の環境保全に関する質問主意書
平成十一年十月に、圏央道八王子城跡トンネル工事が着工された。それに先立ち建設省相武国道事務所は「国指定の史跡である八王子城跡の下をトンネルで通過することから、工事前及び工事中に詳細な水文・地質調査を行い、必要に応じて適切な止水対策等を図ることで地表面の水環境を保全する」と発表した。その後、八王子城跡「御主殿の滝」の滝涸れ、城山川の表流水の減少など、トンネル工事による水環境の変化が繰り返し明らかになった。そして、地下水位についても急激な低下が起こり、トンネルの完成・供用開始後も水位の回復は頭打ちの状態で推移し、工事前の水位であった三百四十八メートルに対して三百三十九メートル前後のところにとどまったままである(本年十月十四日時点)。八王子城跡を管理する八王子市教育委員会は、東京都、文化庁とも協議し、「(八王子城跡の水環境が工事の)施行完了後も復することのない場合」は必要な対策を講ずるよう求めている。
そこで、以下質問する。
- 一
- 平成十七年五月に八王子城跡「御主殿の滝」が涸れた後、同年六月三日、国土交通省のトンネル技術検討委員会(以下「トンネル技術検討委員会」という。)は、「(城山川下流の)『御主殿の滝』の河川水が涸れたのは、平成十七年春季の少雨傾向によるものであり、八王子城跡トンネル掘削の影響ではないと考えられる」との見解を示した。そして、「八王子城跡は地山浅部と岩盤深部が不透水層により遮断されているため、トンネル掘削が地域の水文環境に与える影響は少ないと考えられる」とし、その根拠に「坎井」(浅部地下水位)と「観測孔2」(深部地下水位)との非関連性をよりどころにしていた。しかし、平成十八年四月二十六日のトンネル技術検討委員会は、「現時点において『御主殿の滝』の流量に対するトンネル施工との関係について明確に説明できないため、さらに原因を検討するための調査・整理を行う必要がある」と見解を変更した。そうであれば、「水涸れ、滝涸れ」とトンネル掘削工事の因果関係の当否を見極めるには、坎井と観測孔2の関連性を見るだけでは足らず、他の要因の存在にも目を向ける必要性を示しており、その解明こそが求められている。原因を検討するための調査・整理はどのように行われたか。具体的資料・データを基に明らかにされたい。
- 二
- 平成十七年十月十九日から拡幅掘削工事に進んだとき、観測孔2の地下水位が三十五メートルも急低下した。その際、城山川の流量計に大きな変化が見られた。この原因についてどのような調査を行い、どのような結果が得られたか。具体的資料・データを含めて明らかにされたい。
- 三
- 平成十八年四月に立ち上げられた国土交通省の八王子城跡水環境保全施工対策チームは、「御主殿の滝の水涸れ」、「城山川の表流水の減少」について、どのような事実を把握し、どのように原因調査を行ったのか。その結果どのような結論に至ったのか明らかにされたい。また、その際、「トンネル施工に当たり、監視項目と施工管理項目について管理値を定め監視をしっかり行う」とされたが、監視を行ったにもかかわらず表流水の減少原因が明確にできない場合には、どのような対策を講じるのか明らかにされたい。
- 四
- 八王子城跡トンネルの完成・供用開始後も、観測孔2の深部地下水位は工事前の水準に回復していないことについて政府の認識を示されたい。また、この事態に対しどのような対策を講じているのか明らかにされたい。
- 五
- 文化庁は、平成十年四月二十八日付けで、「1、工事に際しては、八王子市教育委員会職員(埋蔵文化財担当)の立会いを求めること。2、その他、実施にあたっては、東京都教育委員会の指示を受けること」の条件を付して八王子城跡トンネル掘削工事に同意していたが、この条件はどのように実行されたか明らかにされたい。
- 六
- トンネル技術検討委員会の議事録が公開されていない理由を明らかにされたい。また、客観的な判断を仰ぐためにも公開すべきと思うが、政府の認識を示されたい。
右質問する。
答弁書第七二号
内閣参質一六八第七二号
平成十九年十二月十一日
内閣総理大臣 福田 康夫
参議院議長 江田 五月 殿
参議院議員小池晃君提出圏央道八王子城跡トンネル建設と国指定史跡八王子城跡の環境保全に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員小池晃君提出圏央道八王子城跡トンネル建設と国指定史跡八王子城跡の環境保全に関する質問に対する答弁書
一について
御指摘の平成十八年四月二十六日のトンネル技術検討委員会(以下「委員会」という。)の意見を踏まえ、国土交通省においては、委員会の意見を聴きながら、八王子城跡トンネルの施工と城山川の表流水及びその流域にある御主殿の滝の流量が減少する傾向との関係について、トンネルの施工の状況や覆工の止水効果、城山川流域の岩盤の透水性の確認等の検証を行ってきた。このうち、トンネルの施工の状況と覆工の止水効果の検証では、城山川の表流水及び御主殿の滝の流量の減少が顕著となった平成十七年五月前後の期間における、施工中のトンネルの坑内における湧水量と城山川の表流水及び御主殿の滝の流量との関係について比較検討を実施したが、トンネルの坑内における一日当たりの湧水量が四百七十立方メートルから五百十立方メートルの範囲で大きな変化がないにもかかわらず、御主殿の滝の水涸れが生じたこと等、城山川の表流水の流量が明らかに減少していることから、トンネルの施工と城山川の表流水及び御主殿の滝の流量の減少する傾向との間に明確な関連性が見られず、現在のところ、城山川の表流水及び御主殿の滝の流量が減少する傾向の原因を明らかにすることはできていない。
二について
観測孔2の地下水位について三十五メートルの低下を観測した平成十七年十月十九日には城山川の表流水に大きな変化は生じていないが、その後、徐々に表流水が減少傾向を示し、平成十八年一月二十三日には一時的に城山川の表流水がゼロとなり、その後も平成十九年三月頃まで城山川の表流水が通常に比較して少ない状態が継続した。この原因については、平成十七年十月二十一日から同年十二月二十日までの累計降水量が約五十ミリメートルと平年の三分の一しかなく、このような少雨の傾向が城山川の表流水が減少した一因と考えられるものの、その後雨量が平年並みとなった期間においても城山川の表流水が通常に比較して少ない状態が継続しており、現在のところ、原因を十分には解明できていない。
三について
八王子城跡水環境保全施工対策チームは、八王子城跡トンネルの施工時における水環境を保全するための観測体制の強化を目的として国土交通省関東地方整備局相武国道事務所職員及び施工企業を構成員として同事務所に設置したものであり、観測孔2の水位、坎井の水位及びトンネルの坑内における湧水量について施工管理上の管理値を設定し、監視を行い、これらの指標が管理値を超えて変動した場合には、トンネルの掘削の速度を調整すること等により水環境への影響を抑制するなどの取組を実施することとしていたものであり、お尋ねの「御主殿の滝の水涸れ」及び「城山川の表流水の減少」についての原因調査を目的としたものではない。
なお、同チームにおいて観測を開始した平成十八年四月からトンネルの本体構造が完成した平成十九年二月までの間、観測を行った指標が管理値を超えることはなかった。
四について
観測孔2の地下水位は、平成十九年二月八日以降上昇傾向を示しており、今後も徐々に上昇し、将来的には安定するものと考えている。
五について
御指摘の条件のうち、「工事に際しては、八王子市教育委員会職員(埋蔵文化財担当)の立会いを求めること」については、八王子城跡トンネルの掘削が史跡八王子城跡の範囲において開始された平成十六年一月十四日に、東京都教育委員会及び八王子市教育委員会の埋蔵文化財担当者が工事に際し立会いを実施したのをはじめ、これまでに計四回にわたり、文化庁、東京都教育委員会及び八王子市教育委員会の担当者が工事の立会いを実施した。
また、「その他、実施にあたっては、東京都教育委員会の指示を受けること」については、東京都教育委員会より地下水位等の情報提供等に関する指示があり、国土交通省において適切に対応している。
六について
国土交通省においては、委員会で示された主な意見と会議資料を公開している。詳細な議事録については、委員会における自由な発言、議論等が妨げられる懸念があることから、委員会の議決により非公開とされている。
なお、首都圏中央連絡自動車道建設事業に関する情報提供については、今後とも、一層の充実を図ってまいりたい。
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