私は、苫小牧で病院を経営している苫小牧東病院の橋本と申します。このような意見を述べる機会を与えていただきましたことに対しまして、深く感謝申し上げる次第でございます。
さて、私の方からは、民間中小病院の一経営者及び毎日、直接患者と接している一医師として、このたびの健康保険法等の一部を改正する法律案の医療費適正化推進の中で、特に療養病床の再編とそれにかかわる今年四月の診療報酬改定につきまして、やや具体的な内容となりますが、意見を述べさせていただきます。
まず初めに、当院の紹介をさせていただきます。
「私たちは、医療サービスを通じ、地域社会に安心・安全を提供します」を理念として、平成元年、北海道苫小牧市の東部住宅街に開院し、今年十月には満十七年を迎えます。急性期、亜急性期、慢性期の領域に対応する二百六十床の内科・リハビリテーション病院ですが、平成十六年十一月には、日本医療機能評価機構の病院機能評価をバージョン四・〇で新規取得しております。
当院の特徴といたしまして、開院当初よりリハビリテーションの充実を図ってまいりました。回復期リハビリテーション病棟は、平成十二年十二月、北海道内の第一号の認定を受け、平成十五年八月には、東胆振地域リハビリテーション推進会議の事務局病院として指定、平成十六年七月、日本リハビリテーション医学会研修施設に認定、今年一月には、日本医療機能評価機構のリハビリテーション付加機能の認定を全国七番目、道内二番目で取得するなど、東胆振地域、日高地域におけるリハビリテーションの中核病院としてリハビリ機能の向上に努めています。
さて、今般の医療制度改革関連法案の全体について整理いたしますと、昨年十二月、政府・与党医療改革協議会で決定された医療制度改革大綱で、国が進める今後の医療制度改革の方向性が明示され、柱として、一、安心・信頼の確保と予防の重視、二、医療費の適正化の推進、三、新高齢者医療制度の創設、四、診療報酬の引下げの四つが掲げられました。
これは、中長期的な改革の展望というよりは、当面、二〇〇六年から二〇〇八年の三年間の予算対策の色彩が強く、以上の二から四においては財政問題が直接的に扱われたものとなっており、中でも、四の診療報酬の引下げについては、マイナス三・一六%、本体部分一・三六%という過去最大の下げ幅で決定し、実施されたことは周知のとおりでございます。
この医療制度改革大綱に基づいて、医療制度改革関連法案が今般の健康保険法等改正案と良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等改正案、いわゆる第五次医療法改正の二本立てで審議されているところですが、健康保険法等改正案の中で、医療費適正化につきましては、中長期の対策である在院日数の短縮と生活習慣病予防など、短期の対策では、患者負担の見直し、括弧、自己負担等ですけれども、引上げ等ですが、と診療報酬改定、療養病床の患者分類に基づく評価導入等などを組み合わせ取り組むことで医療費の伸びを抑えることを主眼としております。
また、医療法等改正案につきまして、目玉としては医療計画制度の見直しがあり、一、医療機能の分化、連携を推進し、切れ目のない医療を提供すること、二、早期に在宅生活へ復帰できるようリハビリテーション及び在宅医療の充実を図ることを二本柱としております。
これらの制度改革は、医療保険だけでなく医療提供体制、診療報酬、介護保険、健康増進などの対策を一体的に推進するものですが、そうした中で、特に療養病床の再編とそれにかかわる診療報酬の改定に絞って意見を述べたいと思います。
療養病床を抱える民間病院として、今回の改定は、地域に良質かつ安定的な医療を継続的に提供し、社会に還元していくには余りにも厳しい改定内容であり、経営に大きな打撃を与えることはもちろんのこと、淘汰される病院の続出が予想され、医療業界は戦後最大の転機と言っても過言ではありません。
先般、診療報酬と介護報酬の同時改定が実施されました。慢性期入院医療については、病態、日常生活動作能力、ADLですね、それから看護の必要度等に応じた包括評価を進めるとともに、介護保険との役割分担の明確化を図るという平成十五年三月の閣議決定を受け、その後の各種審議会等の議論、昨年十月、厚生労働省の医療制度構造改革試案及び医療制度改革大綱を踏まえ、今回の改定がなされましたが、療養病床すべてを介護保険適用にすべきとの考え方が強かった中で、突然、六年後に介護保険適用の療養病床を廃止し、療養病床を医療保険適用に限定、さらには、北海道でも地方において在宅分野の整備が不十分な中で、介護を含む療養病床三十八万床を十五万床まで削減すると打ち出されたことは誠に寝耳に水の感があり、十分に審議を尽くす必要があると考えます。
導入当時から物議を醸していた療養病床の医療保険適用型と介護保険適用型の問題が未解決のままであったことに対し、療養病床を医療保険適用に限定することは一つの決着には違いありませんが、今回の療養病床にかかわる診療報酬改定の特徴と問題点について申し上げたいと思います。
まず、今回の療養病床にかかわる診療報酬改定の最大の特徴は、入院基本料を看護職員の配置による評価から患者の医療必要度やADLに応じて点数を付ける、主に医療必要度ですが、患者分類による包括評価に転換したことと、患者分類の適用に伴い、重度障害者など向けの特殊疾患療養病棟入院料が七月から廃止、一般や精神病床を除きますが、廃止される点です。
お手元の資料三ページを御参照ください。
患者分類による包括評価は、医療療養病棟で医療区分、ADL区分に基づいて九分類、認知機能分類を加えて十一分類に患者が分類されていますが、医療必要度のないかあるいは少ない人、医療区分一、これはすべて介護保険でといった考え方が適切であるかどうか。特に、医療区分の一の範疇には医療必要度の少ない人も入るという点で疑問を持たざるを得ません。
また、医療区分の分類について、資料四ページにございますが、かつて特殊疾患療養病棟入院料一の範疇であった医療必要度の高い神経難病、一般に進行性であり、原因不明か原因が究明されていても根治療法がないか、あっても効果が限定されている特徴を有する神経・筋疾患や脊髄損傷、主に頸髄損傷で四肢麻痺による著しいADL障害のみならず、神経因性膀胱、知覚障害を有する等に加えて、一般病棟での治療対象である肺炎、尿路感染症等が医療区分三ではなく医療区分二に含まれていることは理解し難く、一方、医療区分三は医師及び看護師による二十四時間体制での監視、管理を要する状態とされ、さながらICUを思わせる極めて重篤な病態とされている点も同様に理解し難いと考えます。病院機能の分化という過程が平成になってからの医療改革の柱のはずが、一般病棟で対応するような患者を療養病棟入院基本料の医療区分に入れるのは病院機能分化の面でも逆行と言えるのではないかと思っています。
また、一般病棟、精神病棟の特殊疾患療養病棟については、資料六ページにございますが、三か月の猶予ではなく二年間の経過措置を設けた点について、一般と療養の病床区分の違いはあったとしても、今年三月までは同じ施設基準での特定入院料として算定し、患者状態も同様のはずなのに、病床区分の違いのみをもって経過措置に格差を付けるのはいかがなものかと考えます。現に、病床区分を療養から一般へ移行し、その上で特殊疾患療養病棟を届け出直すことを検討している医療機関もあります。
最大の問題として、従来の特殊疾患療養病棟入院料と新しい医療区分における新点数との差が余りにも極端過ぎる点が挙げられます。
当院は、一般病棟、回復期リハビリテーション病棟、特殊疾患療養病棟一が二病棟、二が一病棟の合計五病棟を有していますが、中でも特殊疾患療養病棟は三病棟あり、特殊疾患療養病棟を運営している病院には一層深刻な改定となっています。特殊疾患療養病棟入院料一と比較して、医療区分三のケースで約一二%減、医療区分二のケースでは実に約三二%減の点数となっております。特殊疾患療養病棟入院料二でも、医療区分二のケースで約一六%減、医療区分一のケースに至っては約五二%減と制裁的な点数設定であり、六年後の療養病床十五万床達成のため、あるいは医療必要度の低い患者の療養病床から介護保険施設又は在宅へシフト促進のためとしても、民間病院が地域医療を支え健全経営を維持していくには、減少幅をせめて閣議決定した三・一六から五%程度とするか、又は段階的な引下げをするなどの対応が不可欠と考えます。
この間、全国各地からの同様の声があり、厚生労働省も四月に入ってようやく特殊疾患療養病棟入院料等の見直しに伴う措置として、医療区分における経過措置を通知しました。資料の七ページです。これは神経難病等に該当する患者を二年間に限り医療区分三にみなす措置ですが、これにつきましては是非とも期間限定をせずに対応すべきであり、今後も強く主張していきたいと考えております。
非常に時間が差し迫ってますが、看護師の問題、医師の問題については、今、北海道医師会の山本先生からもお話がありましたので、割愛させていただきます。
最後になりますが、当院の場合、第一段階での収入シミュレーションでは、神経難病等に該当する患者の経過措置が不明であったため、暫定数値で年間二〇%を超える減収でした。いずれにしても、特殊疾患療養病棟三病棟だけでこれほどの減収となれば、民間病院として収益維持・確保の限界を超えており、経営の大幅見直しを余儀なくされるものでした。
今般の改定及び制度改革は、リハビリテーションや在宅医療の重視、療養病床の削減などの方向性が打ち出されていますので、この方向性を十分に踏まえ、当院の機能、特色を生かし、二つ目の回復期リハビリテーション病棟を特殊疾患療養病棟から移行を予定しております。
当院といたしましては、今後も地域及び患者の医療ニーズにこたえ、質の高い医療を安定して提供し、地域医療に貢献していきたいと考えております。
御清聴ありがとうございました。