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日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008] 日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008] 日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008]

163特別国会 参議院厚生労働委員会

  • 参院委で可決 労安法等改悪案/過労死予防の大幅後退/労働行政の責任を放棄(関連記事

2005年10月25日(火)


小池晃君

 日本共産党の小池晃です。

 年間総実労働時間千八百時間というのは国際公約で、十九回も閣議決定をされながら一度も実現しなかった。それどころか、正社員の労働時間は逆に伸びております。ところが今回、時短促進法をなくしてしまい、改善を労使の現場に任せるというわけですね。日本のように過労死が世界語として通用するような異常な働き方が蔓延している社会で、政府が千八百時間の目標を投げ捨てるというのは、私は労働行政の責任放棄になると思いますし、断じて認められないというふうに思います。加えて、労働安全衛生法の改正で過労死防止の通達まで後退させられようとしていますので、その問題を今日はちょっと取り上げたいと思うんです。

 これまで月八十時間だった面接指導の基準を、先ほども議論ありましたが、百時間にするというわけですね。局長、これは八十時間を百にするということですから、これは幾ら過重労働対策の充実といっても、これはどう考えたって、これ後退だということになるんじゃないですか。

政府参考人(青木豊君)

 今回、百時間、月百時間を超えた時間外労働を行った者については医学的所見に基づいて、これは、これ以上の者については極めて脳・心疾患の発生が高くなるということに基づいて努力義務にしようということであります。

 今、お触れになりました八十時間ということでありますけれども、これまで、過重労働による健康障害を防止するために平成十四年二月に策定いたしました過重労働による健康障害防止のための総合対策というものがございます。これは通達でそういうことを、総合対策をするということでありますけれども、この中で、時間外労働が月百時間を超える者か、あるいは二月から六月間の月の平均の時間外労働が八十時間を超える者について、事業者に面接による保健指導を行わせるというようなことをやっておりました。そのことをおっしゃっていることだと思います。

 これについてでありますけれども、これは法律に基づかない行政指導でありましたために、すべての事業場に対して指導を徹底するというのはなかなか難しくて、その効果も限られたものでございました。今回は面接指導を法制化するということで、面接指導について事業者が果たすべきそれは社会的責任であるということを明確にするということだろうというふうに思っておりますし、法律を根拠とした指導を可能として、全事業場に対しましてその実施を図ろうというものでございます。

 それで、現行の通達において面接指導の対象としている者につきましては、今度のスキームにおきましても義務又は努力義務でカバーをすると、その上でいろいろな対策を講じていこうということで考えているものでございます。

小池晃君

 しかし、面接指導の基準というのは八十から百時間になると。もちろん、法的に事業主の責務を明確にしたことはいいと思うんですよ。じゃ、なぜそのときに今までの八十時間の面接指導の基準をそのまま義務化しなかったのかと。

 過労死や過労自殺で亡くなられた家族の皆さんは、過労死してからでは取り返し付かないんだと、自分たちのように悲しむ家族をもう増やしてほしくないんだと、こういうふうにおっしゃっているわけです。

 百時間の時間外労働というのは、これは過労死認定基準の八十時間を大きく上回るわけで、私は過労死を防止するというのであれば、当然八十時間を超える前の段階で是正の措置を義務として求めるというのが、私は当然の過労死防止対策ではないかと思いますが、いかがですか。

政府参考人(青木豊君)

 過労死をしたら取り返しが付かないというのはおっしゃるとおりだと思います。私どももそういうことで、労災の認定というのは不幸にも労働災害によって被害を受けたという方に対しまして補償しようということであります。

 我々は今回の法案でお願いをしておりますのは、やはり未然にできるだけ災害を防止していこうと、そのためには平生の健康管理というのが大切だということだというふうに思います。そういう意味で、月百時間については、先ほども申し上げましたように、飛躍的に違うと、脳・心臓疾患に陥っていく危険性というのが飛躍的に高まるということから、医学的にそういう知見が得られているということで、これはそういうことにいたしたわけであります。

 ただ、おっしゃったような八十時間につきましても、努力義務の中で十分カバーをして、それについても面接指導を受けさせるように努めるようにさせるということを考えているところでございます。

小池晃君

 医学的に脳・心疾患の可能性が飛躍的に高まる時点で本格的な措置をするというのでは対策にならないと私は思うんです。

 しかも、八十時間前提になっているけれども、もっと別の数字も出てきていて、社会経済生産性本部が今年の八月に産業人メンタルヘルス白書というのを出していまして、ここで何と言っているかというと、月六十時間の残業を超えると、六十時間ですよ、六十時間超えると正常な家族関係に問題が出て、自殺念慮が起こってくるということを報告をしております。

 具体的にイメージしていただきたいんですが、月六十時間の残業というと、毎日三時間程度残業することになる。通勤時間片道一時間当たり前、二時間もまれではない、そういう実態の中で朝七時に出て家に帰るのは夜の九時か十時だと。もう一杯飲みに行くとかそういうのは別にして、仕事だけでそうなると。実に十四、五時間拘束されるわけです。八十時間というふうになればプラス一時間、百時間となればプラス一時間また拘束時間が増えていく。

 私、大臣にちょっとお伺いしたいんですが、社会経済生産性本部、労使官入った組織ですわね、ここが六十時間で自殺念慮が起こるという報告を今年出しているんですね。私、深刻な内容だというふうに思うんです。

 しかし、今度のやり方というのは、正に致死的な脳・心疾患が飛躍的に起こる時点で初めて本格的な対策を打つ、百時間超えないと面接を義務付けない。これでは過労死してから相談に来いということになるんじゃないですか。私はこれ、根本的に考え直すべきだと思いますが、大臣、いかがですか。大臣。ちょっともういいですよ、何度も答えたんだから。大臣。

委員長(岸宏一君)

 まず、じゃ局長から答えて、大臣答えてください。

政府参考人(青木豊君)

 現行法との、現行のやり方との違いは、通達で八十時間を超えた者については面接による保健指導をやるということを指導しているわけであります。今度のお願いをしておりますのは、百時間は、これは法律上の義務ということにするわけでありますけれども、それ以下の人たちにつきましては、もちろん八十時間超の人が入るわけでありますが、これは面接指導して、そして必要な措置を講じてもらうと、そこまでが努力義務としてやってもらうということでありますので、少なくとも八十時間を超えた者だけを見ても決して現在の制度が後退するものというふうには思っておりません。

国務大臣(尾辻秀久君)

 今の局長の答弁の繰り返しになるようでありますけれども、今回、まず法律できっちり義務付けたということは、これは先生御自身も評価をしていただいております。ただ、これは百時間。

 それでは、その後どうするかということで、今お話いただいておりますような八十時間とかそうしたところは努力義務にしておるわけでございますから、そこも後退していない、前進をさせたというふうに理解をいたしております。

小池晃君

 これは前進ではないと思いますね。しかも、実態から比べれば、私は過労死防止に基づかない、結び付かない措置だというふうに思うんです。

 もう一つの問題点としては、労働者本人の申出を要件としていることです。これは現行、現状では会社側の有形無形の圧力で労働者が申し出ることができない事態というのは起こり得るわけですね。また、疲れ切ってしまって申し出るような気力もないようなケース、うつ病になって申出が困難というケースもあると思うんです。

 私は、本人の申出というのを要件にすれば、医師による面接指導が必要な場合であっても、本人の申出がないために必要な措置が取られないという事態が起こりかねないんじゃないかと思いますが、参考人、いかがですか。

政府参考人(青木豊君)

 月百時間を超える時間外労働につきましては、それに伴って疲労が蓄積した労働者について面接指導の対象としているわけですけれども、疲労の蓄積は通常、体調不良とか気力減退ということでほかの人には認知しにくい自覚症状として表れるものでございます。

 この要件に該当するか否かの一義的な判断については、やはり労働者本人からの、労働者にゆだねざるを得ないということを前提にいたしまして、労働者本人からの申出という手続を設けるものとしたものでございます。逆に、この手続は面接指導を確実に行う担保となるものだというふうに考えております。

 確かに、申出が適切になされなければ、これは問題だというふうに思います。したがって、この申出が適切になされるように、改正法が成立した際には、事業者等に対しまして改正法の趣旨を周知徹底いたしまして、また同時に、労働者に対しましても時間外労働が月百時間を超えた場合には面接指導を受けるよう様々な場面でパンフレットなどを用いながら周知、啓発を行うということにいたしております。

小池晃君

 いや、現場の実態は大分違うと思うんですね。いろいろとお話をお聞きすると、例えば、過労自殺した二十四歳男性の方ですが、残業で一日の勤務が約十七時間になる。過酷な労働で精神的、肉体的な疲労が蓄積して、何度も上司に退職を申し入れたが慰留され働き続けたと。ノイローゼかもしれないというふうに周囲に漏らしながら、自殺をされている。あるいはホテルの料理長をしていた男性ですが、脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血で亡くなっていますが、倒れる一か月前からほとんど眠れない、毎日会社に殺される、会社を辞めたいとうわ言のように言っていたというんですね。

 私、本当にぎりぎりまで追い詰められて、過労死、過労自殺に追い込まれる人の状況というのは本当に過酷な状況にあるというふうに思うんですね。そういう人たちが、これは担保だとおっしゃるけれども、果たして自らの疲労状況を非常に困難な職場の中で進んで上司に申し出ることが果たしてできるのか。そこのところ、本当にできるというふうにお考えなんですか。

政府参考人(青木豊君)

 先ほど申し上げましたような周知を図ると同時に、やはり周りの状況といいますか、そういったものも整えるということは必要だというふうに思っております。やはりきちんと申出ができるような環境を整えるということは大切だというふうに思っております。

 事業場におきましても、過重労働対策、メンタルヘルス対策を衛生委員会の審議事項に追加をして、そこで労使共々十分留意をしながら審議をしてもらう、あるいは産業医がいる場合には、産業医が面接指導を受けさせる必要があると判断した者に対して申出を勧奨することができるというようなことを明示するというふうなことを考えております。そのほか、事業場において確実に労働者が申し出ることができるように、労働者が時間外労働時間数を確認できる仕組みを整備するとか、あるいは申出をする様式でありますとか、申出窓口を設定するとか、そういう申出手続を事業場に整備をさせるとか、あるいは事業場内における面接指導の実施方法、具体的な実施方法を周知をするというようなことについて事業主の方に対しても指導をしていきたいというふうに思っております。

小池晃君

 いろいろおっしゃいましたけれども、労働者が申出を行った場合に心配なのは、不利益取扱いを受けるのではないかということなんですね。不利益取扱いをしないことは明文化されていないんですね。なぜなんですか。

政府参考人(青木豊君)

 面接指導を受ける旨の申出をしたということで労働者が不利益な取扱いを受けるようなことはあってはならないと思います。過労死を防止するためにもそのようなことがあってはならないというふうに思います。

 改正法が成立した際には、事業者等に対しまして改正法の趣旨を周知徹底いたしまして、長時間に及ぶ時間外労働は極力避けるよう指導を行いたいと思っておりますし、労働者に対しましても周知啓発を行うということで、我が国のすべての事業場に対しまして、月百時間を超えると面接指導を受けるのが当然であるという認識をあまねく定着させるように努力をしてまいりたいというふうに思っております。

 個々の、個別の事業場に対しましても、衛生委員会等で面接指導の申出を理由として労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないこと、あるいは労働者が申出を行いやすい環境をつくることについて審議するよう指導してまいりたいというふうに思います。

小池晃君

 いや、だから、それだけやるのであれば、あってはならないことまでだと言うんだったら、何でそれは禁止すると、不利益取扱いしないと明文化しないのかと私聞いているんです。あってはならないことだったら、しっかり法律にしっかり書き込むというのは当然じゃないですか。

政府参考人(青木豊君)

 今申し上げましたように様々な労働者自身あるいは事業者に対しまして、あるいは事業者における事業場の中の環境につきましても申出を、百時間も超えて時間外労働を行った労働者については申出をして面接指導を受ける、面接指導を受けさせるのが当然であるという認識を定着させるということがまずもって大事だというふうに思っております。

 そういうような中で不利益取扱いがもし仮にあるようなことがあれば、それはあってはなりませんので、そういったことのないように個々の事業場で労使で様々な衛生に関する協議をし、具体的なことについても審議をする、衛生委員会等でもきちんと定めて、事業場の中にそういったことについての言わば考え方が定着するようにしていきたいというふうに思っております。

小池晃君

 今の説明では納得できません。

 百時間超えないと面接指導しないという基準も、本人の申出が必要だという基準も、これは過労死を増やすことすらあれ減らすことにはならないというふうに思いますし、不利益取扱いしないという当然のことすら法文化されておりません。本人の申出という要件は撤回すべきであるというふうに思いますし、この問題はあくまで客観的に判断できる基準を明確にしなければ義務付けの意味はないというふうに思います。

 引き続いて、現行の過労死防止通達では、月四十五時間を超える時間外労働をさせた場合に、事業主は産業医の助言、指導を受けるとなっておりますが、この四十五時間と定めた根拠は何でしょうか。

政府参考人(青木豊君)

 この四十五時間については、一つには、これ今現在そうでありますけれども、時間外労働については労働基準法の三十六条で労使協定があれば行うことができるわけでありますけれども、そうはいいましても、非常に長時間にわたって時間外労働をするというのは好ましいことではありませんので、一応私どもとしては上限を定めて指導しているところでございます。それが月四十五時間ということで指導しているところでございます。

 これは、これと同様でありますが、四十五時間を超えるとやはりそういった脳心疾患の危険性が高まっていくということから、四十五時間を超えた場合についてもきちんと事業場においてその面接指導を受けられるようにしていくことが望ましいというふうに考えております。

小池晃君

 だから、私はこの四十五時間というのが出発点になるべきだと思うんですね。現実には、じゃ、その四十五時間の段階でどれだけの措置が行われているのか。月四十五時間を超える時間外労働の場合の様々な今までの措置の実施率の調査、簡単に報告してください。

政府参考人(青木豊君)

 月四十五時間を超える者について、現在、産業医による助言、指導を受けた事業場割合というのは、平成十五年度の調査によりますと一八・八%ということでございます。

小池晃君

 月八十時間を超えた場合の医師面談と両方やった場合が一七・五%あると思うので、要するに四十五時間で何らかのことをやっているのは三六%、四割弱の事業場で極めて不十分なわけですよ。

 局長ね、過労死の防止というのであれば、正にこの四十五時間というのが、脳心疾患の発症との関連性強まるということで基準も設けているわけですから、私はここを超えた段階で対応することを義務規定とするというのが当然の措置ではないかと思いますが、いかがですか。

政府参考人(青木豊君)

 月四十五時間を超える時間外労働を行った者についても、先ほど来申し上げておりますように、事業主による面接指導を受けさせる努力義務としてそういう措置の対象となるように勧奨したいというふうに考えております。

小池晃君

 何かよく分からないのですけれども、努力義務とするよう勧奨するというのは、かみ砕いて言うとどういうことなんですか。

政府参考人(青木豊君)

 月百時間を超えた者につきましては、法律上の義務ということであります。それ以下の者については、一つには、八十時間を超える者について努力義務とするということでありますけれども、もう一つは、事業場内の労働者について基準を個別に設けまして、それで面接をさせるように努力義務を課したいというふうに思っているわけでありますけれども、対象としたいというふうに思っておりますが、その際、その基準、個々の事業場で定める基準の中にその四十時間を超えるものについても入れるようにということで勧奨していきたいというふうに考えております。

小池晃君

 要するに、分かりやすく言うと、事業主にそうしてくださいとお願いするというだけの話でしょう、四十五時間のところは。イエスかノーかで言ってください。

政府参考人(青木豊君)

 事業主に対しまして勧奨していきたいというふうに考えております。

小池晃君

 それは、お願いするだけで何の保証もないんですよ、ここは、四十五時間というのは。

 大臣、これ時間外労働、月四十時間を超えて長くなるほど業務と脳・心疾患の発症の関連性強まると判断されるからこそ、過労死防止通達でも四十五時間以上で医師の助言、指導を必要にしたんですよね。過労死した家族の願いに本当に正面からこたえて、本当に過労死をなくす、あるいは減らす、本気で取り組むのであれば、私はこの四十五時間以上で医師の面接指導を法律で義務付けるというのは原点ではないかと、そこからやるべきではないかというふうに考えますが、大臣、いかがですか。

国務大臣(尾辻秀久君)

 できるだけ一番いい姿に向かって努力をしていく、私どもは絶えずそれをやらなきゃいかぬのだと思います。

 そこで、今回の改正では、もう先ほど来何回も申し上げておりますように、まず百時間を超えたら義務付けるということできっちり法律に定めた。これは今まで法律にきっちり定めるということはなかったわけでありますから、前進させた。さらに、努力義務も課す。そして、今局長からも申し上げておりますように、四十五時間を超える時間外労働を行ったものも努力義務としての措置の対象となるように勧奨したい、こうお答えを申し上げておるわけでございますから、一歩一歩近づけていく努力をしておるというふうに御理解いただきたいと存じます。

小池晃君

 私は、本当に、過労死した家族抱えた家族から見れば、一歩一歩というけど何と遅々とした取組なんだというふうに、本当に怒りといら立ちを覚えていらっしゃると思うんです。こういうやり方では本当に過労死なくすということにはならないというふうに思うんです。

 ちょっと、更に今日突っ込んで、何でこんな事態になっているのか。そもそも労基法三十二条というのは週四十時間労働と決めているわけですよ。で、時間外労働は三六協定、年間三百六十時間で厚労大臣告示ですね、これは。この範囲で労使協定を結べば残業できるという例外規定になっている。私は三百六十時間も長くて、残業時間の上限百二十時間にすべきだということを我が党はこの間提案をしてきておりますが、少なくとも三百六十時間守れば、残業は月平均三十時間なはずなんです。ところが、はるかに超える残業時間で過労死が発生している。

 なぜかといえば、この例外規定である三百六十時間の上に特別の事情が生じた場合に限りということで、特別条項付き協定を結べば三百六十時間を超えて更に時間外労働ができる仕組みになっているわけですね。

 局長、お聞きしますが、この特別条項付き協定では三百六十時間を超えてどこまで働かせることができるとなっているんですか。限度が設けられているのかいないのか、それはなぜかをお示しください。

政府参考人(青木豊君)

 これ、今お話しになりました特別条項でございます。これは、労使当事者間で手続を定め、その手続を経て限度時間を超える一定の時間まで延長することができるというふうにされておりますので、上限時間については労使の自主的な協議にゆだねられているというものでございます。

小池晃君

 結局、労使合意すれば何時間働かせてもいいということになるわけですね、これ。これ、実際に厚労省の資料を見ると、一千時間を超えているところが〇・四%ですが存在しています。正に青天井ですよね。

 更にお聞きしたいんですが、直近の調査でこの特別条項付き協定を結んでいる事業場、事業場の規模別に、百人未満、三百人未満、三百人以上で三百六十時間以上の協定を結んでいるところが何%あるか、お示しください。

政府参考人(青木豊君)

 平成十四年度に厚生労働省で実施をいたしました労働時間等総合実態調査でございますが、これでよりますと、特別条項付きの協定を締結している事業場は全体の一四・六%でございます。事業規模別の割合を見ると、三十一人から百人が二五・〇%、百一人から三百人までが三五・九%、三百一人以上が五三・八%となっております。

小池晃君

 正に大きい企業ほど特別条項付き協定を結ぶ率が増えるわけなんですね。三百一人以上ではこれ半分以上ですから、例外でも何でもない。

 局長、こうした実態を少しでも改善するということで通達出されたと思うんですが、通達出された理由とその後の状況を簡潔に御説明願いたいと思います。

政府参考人(青木豊君)

 平成十五年に、この上限特別条項が入っている告示の改正をいたしました。特別条項付き協定が臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行うことが予想される場合があるために設けられたにもかかわらず、恒常的に時間外労働が行われている事業場がございました。そういったことからこういった改正を行いまして、特別の事情を、特別条項付き協定が必要となる特別の事情というものを臨時的なものに限るということを明確にする通達を発出いたしたものでございます。

小池晃君

 その後の実態どうかというのはちょっとお答えなかったんですが、まあ、今調査中だというふうに一応事前にはお聞きをしているんですね、結果出てないと。

 私、現在どうなっているか幾つかの大企業で調べてみました。驚くべき結果なんですね。これはその通達出た後の協定ですよ。出た後結ばれた協定で、石川島播磨重工業、八百時間、スズキ自動車が五百四十時間、JFEの京浜製鉄所は八百四十時間、新日鉄の八幡製鉄所は七百五十時間、マツダは八百七十四時間、三菱電機伊丹が七百二十時間。これ、一か月協定で見ますと、石川島播磨が二百時間、JFE京浜が百時間、新日鉄八幡が八十時間、マツダが九十二時間、三菱電機伊丹が八十時間。正に世界的に有名な大企業が過労死の認定基準を超えて働かせるような協定を結んでいる。石川島播磨に至っては、月の時間外労働二百時間。一日残業十時間ということですからね。この基準は、もう驚くべき延長ができる仕組みになっているんですよ。

 石川島播磨の職場では、十四年度、原因別疾病休業の四七%、これはメンタルヘルスであります。ある技術系の労働者は、もう夜眠れない、家族から命危ないからもう会社辞めてもいいと言われているという声も聞きました。ある家族は、娘はいつも深夜に帰って、最終に間に合わない日もあると、半病人のようだ、伴侶を見付ける時間もないと、こう言っているんですね。

 大臣、これ是正の通達、告示の改正した後でも、こういうちょっと本当に異常とも言えるような、例外と言うけれども、こういう特別協定が結ばれている。こういう時間外労働がまかり通っている現実を、大臣、これ率直に、大臣、人間として、政治家としてどう思われるか、私、ちょっとお聞き、大臣、ちょっとこれは政治家として聞いているんだから、いいですよ、大臣、ちょっと答えていただきたい。ちょっと率直にどう思うか是非お答えいただきたい。

国務大臣(尾辻秀久君)

 今、局長からもお答えいたしておりますように、この特別条項に基づく時間外労働が行われるというのは臨時的な場合に限られることと、これをいたしております。

 そしてまた、その通達で臨時的なものとは、一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として一年の半分を超えないことが見込まれるものであって、具体的な事由を挙げず、単に業務の都合上必要なとき、又は業務上やむを得ないときと定める等、恒常的な長時間労働を招くおそれがあるもの等については臨時的なものに該当しないものであることということを明確に述べておるわけでございますから、そうなされておるというふうに理解をいたしておりますし、また、その周知に徹底してまいらなきゃならないというふうに考えておるところでございます。

小池晃君

 いや、現状はそうなっていないんですよ。

 私、持っている資料では、ある事業場のある企業、大企業ですが、その資料の中には、この特別条項付協定のことをエスケープ条項って書いてあるんですよ。要するに、特別な事情に限るっていうけれども、現場では正にエスケープ、残業やり放題のための抜け道条項としてまかり通っているという実態があるんです。実態なんですよ、もう否定のしようのない。実際に過労死の認定基準をはるかに超えるような時間外労働の協定が結ばれている。私は、こういうことを認めないというのが本当に第一歩ではないかというふうに思うんです。

 私は、その特別条項付きの協定については、災害あるいは事故とか通常予測できない場合のみに限る。あるいは生産調整のためと、こういう理由は認めないようにしないと、どんどんどんどん野放しになると思うんです。理由が不確かな協定はこれ受理しないという厳しい対応が必要だというふうに思うんですね。

 大臣、抜け道つくらないように厚労省は責任ある対応をしていただきたいというふうに思いますが、大臣、いかがですか。

国務大臣(尾辻秀久君)

 私ども通達で述べましたことは、述べておりますことは、今も読ませていただいたとおりでございます。したがいまして、この通達、厳守してもらわなきゃいけないわけでございまして、今お話しのようなことがあってはならない、まさしくあってはならないと考えておりますので、厳しく指導をしてまいります。

小池晃君

 是非、私が指摘した事業場については調査をしていただきたいというふうに思いますが、局長、約束していただけますか。

政府参考人(青木豊君)

 必要に応じ、調査なり指導なりをしてまいります。

小池晃君

 改めて、本当に過労死なくすために、過労死基準のところで縛りを掛ける以前の問題として、抜本対策として労働基準法を改正して時間外労働の上限規制に踏み切るべきだということを重ねて主張をしたいというふうに思います。

 引き続き、労働安全衛生上に重要な問題でありますけれども、アスベストの対策についてお聞きをしたいというふうに思うんです。

 健康管理手帳が非常に重要な役割を果たすというふうに思うんです。これがあれば年二回無料で健診を受けたり健康管理が行われる。ところが、手帳を保持している人は、昨年新規に交付を受けた人で九十二名、トータルで五百九十二名にとどまっております。中皮腫だけを見ても、亡くなった方は昨年だけで九百五十三名、九五年以来七千名にもなるのに、余りにも手帳保持者は少な過ぎるというふうに思うんです。

 大臣にお聞きしたいんですが、七月に通達出されて、今年は手帳保持者以外も健診を受けてもらうということになったと思うんですが、これアスベスト発病まで期間長いわけですから、今回の健診だけでは私は十分とは言えないというふうに思います。そこをどう考えるのか。恒久的に対応する必要があると思いますが、その点はいかがですか。

国務大臣(尾辻秀久君)

 石綿作業に従事をしていてその後退職した者の継続的な健康管理のために健康管理手帳制度を設けて、一定の要件を満たした者は手帳を交付し、毎年健診を受けられる仕組みとしておるところでございます。

 また、厚生労働省では、今般の状況を受けまして、石綿を取り扱う作業に従事した者に対する健康管理として、在籍中の労働者はもとよりでありますけれども、元従業員に対しても健康診断を実施するよう事業者に対して要請を行っておるところでございます。

 こうしたこととともに、廃業等で事業場が存在しなくなった者等も考えられますので、平成十八年度予算要求におきましては、これらの者を対象とした無料の健康診断を実施する経費を計上しておりまして、石綿作業に従事した者がすき間なく健診を受けられる対策を講じるようにいたしております。

小池晃君

 いや、それは今やっていることで承知しているんですが、要するに一年だけじゃ駄目なんじゃないですかと、今後のことをどうお考えなんですかと。来年の健診の問題であるとか、あるいは手帳の交付要件の問題等、やはり恒久的な対策が必要ではないかというふうに考えておりますが、大臣、いかがですか。

国務大臣(尾辻秀久君)

 今申し上げたのは現在やっておることでございますが、最後のところで申し上げましたように、石綿作業に従事した人がすき間なく健診を受けられるような対策を講じるということは、何も今後はやらないということではございませんで、今後とも引き続きそのことは当然私どもやらなきゃならないというふうに考えております。

委員長(岸宏一君)

 ちょっと局長、特に実務的な問題ですから、局長答えてください。

政府参考人(青木豊君)

 今、今後の考え方については、大臣がおっしゃったとおりだというふうに思いますけれども、この十八年度の予算に関して申し上げれば、この健康管理手帳の支給要件については、やっぱりその在り方も含めて見直さなくちゃいけないということで、言わばそれまでの緊急避難的措置として今年度やってみようということであります。

 したがって、この要件の見直しがどのタイミングでいろんな実情を把握した上でできるかにもよりますけれども、それによってそういったことを踏まえて新しいいろいろなやり方というのを検討していく必要があるだろうというふうに思っております。

小池晃君

 その要件の見直しに当たって、例えば有機溶剤の被曝、ベンジジンは三か月以上、クロロメチル、ベンゾトリクロリド、舌かみそうですけれども、これ三年以上作業に従事したことで交付されるわけです。ところが、アスベストはレントゲン上の病的所見がある場合だけ交付するというふうになっているわけですね。

 その交付要件の考え方として、アスベストというのは影響出てくるまで時間も長いわけですから、病的所見が現れていない段階で見逃されるとその後重大なことになる危険があるわけで、私は、有機溶剤は従事していたというだけで交付しているわけですから、やはりアスベストを使う仕事に従事していたことというのを要件にするというのは一つの見直しの考え方としてあり得るのではないかと思っているんですが、大臣、いかがですか。

国務大臣(尾辻秀久君)

 基本的なところは、私どもはもうすき間なく健診を受けていただけるようにするというふうに考えておりまして、そのようにいたしたいと思っております。

 具体的には、したがって、先ほど局長がお答え申し上げておりますように、健康管理手帳の交付要件の見直しも含めて、石綿作業従事者の健康管理の在り方については早急に検討してまいるつもりでございますから、その中でしっかり検討させていただきます。

小池晃君

 局長に、ちょっとそれは一つの考え方として、こういう従事歴だけということを基準にしていくというのも一つの考え方としてはあり得るかどうか、ちょっとお答えいただければと思うんですが。

政府参考人(青木豊君)

 これについては、今大臣からもお話がございましたように、今その要件というのを見直しをするということも含めまして研究をすると、研究班は専門家の研究家の研究班を立ち上げてお願いをしております。その結果を踏まえて検討したいというふうに思っております。

小池晃君

 それから、その健康管理手帳の保持者、これから増える、増やす方向でやられるんだろうと思うんです。その場合、指定病院で健診を受けるわけですが、数が現状では非常に少ないと。既に治療の実績がかなりあるような医療機関から指定病院にしてほしいという要望も上がっているんですね。

 大臣、これ考え方としてで結構なんですが、実績のある医療機関であれば、やはり指定病院になってもらうように厚生労働省としても働き掛けしていく方向でやるべきだというふうに思うんですが、その点いかがでしょうか。

国務大臣(尾辻秀久君)

 健康管理手帳所持者の受診可能な医療機関については、これまでも健康管理手帳所持者の利便性に配慮した医療機関を必要に応じて選定するよう各労働局に指示してきたところでございます。

 今後、石綿については、健康管理手帳の交付数が、今先生も言われましたけれども、増えることが当然予想されますことから、必要に応じて指定医療機関を増やすなど弾力的に対応してまいります。要するに、弾力的に対応しますということをお答え申し上げます。

小池晃君

 これは、退職者の健康管理というのはアスベスト被害を救済する上でも非常に重要な役割を果たすので、やはり使う仕事に従事していた方すべて健康管理手帳の対象にする、それ以外の周辺住民の救済などももちろんですが、そういう方向で改善するように求めたいというふうに思います。

 次に、労災保険法に係る労災申請についてお聞きをしたいと思うんですが、厚労省はアスベストによる疾病の労災請求の事務処理の迅速化を進める通達を出しました。

 そもそも、行政手続法では請求から決定までは六か月というふうになっておりますが、局長にお聞きしたいんですが、昨年度に出されたアスベストの労災申請の受理日から給付日までの平均処理期間というのは何か月になるんでしょうか。

政府参考人(青木豊君)

 石綿による肺がん、中皮腫の事案について、平成十六年度における状況でございますけれども、受付から決定までの平均の処理日数は集計をしておりません。

 なお、この十七年度において既に決定を行った石綿による肺がんと中皮腫の事案の仮集計においては、平均の処理期間はおおむね六か月ということになっております。

小池晃君

 いや、集計しておりませんということは、要するに、アスベストによる労災保険の請求日というのは、受理日等ですね、厚労省としては調査していないということなんですか。

政府参考人(青木豊君)

 標準処理期間を私ども定めておりますのが、療養給付とか休業補償給付とかということで六か月というふうに標準処理期間を定めておるんですけれども、石綿による肺がん及び中皮腫についてだけ取り上げて集計をしていないということで、十六年度は分からないと。十七年度だけが既にあるものについて仮に今集計をしてみたところ、六か月ということだということでございます。

小池晃君

 要するに、そういうのを調べてないんですよね、いろいろお聞きすると。過労死や過労自殺については一応これは受理日と給付日ということでデータを取っているようなんですが、アスベストについてはデータない。平成十七年度については、これだけ問題になったので、まあちょっと言葉悪いですけれども、慌てて調べているということのようなんですが、法律上六か月を目安にするというふうになっているのに実際にはいつどれだけ申請があったのかすら集計していないというのは、私は本当に怠慢だというふうに言わざるを得ないと思うんです。これでは幾ら迅速化の通達を出しても、元々何日だったのか分からないんですから、迅速化して何日になったのか分からないんですよ。これ本当にまずいと思うんですね。やっぱり実態をまともにつかんでいなかった。本気で解決する姿勢があるのかということを疑わざるを得ないというふうに思うんですが。

 大臣、私、こういう事態になっているわけですから、現在労災申請が出されている全例について、本当に迅速化しているのかどうか、六か月で処理されているのかどうか、全部調べる責任あると思うんです、私、迅速化の通達出した以上。申請時期は一体いつだったのか、六か月たっても認められていないものがどれだけあるのか、調査して報告していただきたいというふうに思うんですが、この点、大臣いかがですか。

委員長(岸宏一君)

 青木局長。その後で大臣に。

政府参考人(青木豊君)

 ちょっと、十七年度の件数については仮に集計をいたしましたのでやりましたけれども、できるだけさかのぼってできるものについては集計をしてみたいというふうに思います。

小池晃君

 これ実態をいろいろと紹介したいと思うんですが、東京土建一般労働組合のまとめでは、東京土建にかかわった昨年度の、昨年度のですよ、昨年度の申請数が十七あるんです。ところが、処理が終わっていないのが五件もあるというんですね。昨年度ですから、要するに、もう最後に、例えば今年の三月に申請したとしても、もう六か月たっているわけです。それが、処理が終わっていないのが五件もあるんですね。既に一年以上経過した案件もあるというんですね。

 迅速化しますと通達出しながら、昨年度に申請したのに未処理の案件が今も残っている、こういう実態があることを局長はお認めになりますか。

政府参考人(青木豊君)

 先ほど仮に集計した数字をお話ししましたけれども、それは平均でございます。もちろん短いものもあります。肺がん、中皮腫全体でいえば最短一か月ぐらいでやっているものございますが、長いものは六か月よりかなり掛かっているというものもございますので、委員がおっしゃったように、今まだ処理をしていないものについてさかのぼっていく場合にはそのようなものもあろうかと思います。

小池晃君

 それでは、労災認定迅速化するといっても、実際は平均でやるんだと、長くなるものは置いておいていいんだというのでは私はまずいというふうに思うんです。実効性のある通達にならないと思うんですね、そういう姿勢では。本当に迅速化するためには、私はやはり一つは体制の強化もこれどうしても必要だと、現場のお話聞くと思うんですね。そこはしっかりやる必要があるのと、やっぱり労災認定基準の緩和だというふうに思うんです。

 通達では、これ暴露歴を証明するために厚生年金保険等の記録を活用するというふうになっているんですが、これ実際お聞きをすると、これ会社勤めの人はそれでもいいんですが、国民年金の方は対象になってこないわけですね。やはり建築現場なんかでは、特に一人親方であるとかあるいは職場転々するとかいうケースが多くて、やはり十年以上の暴露歴の証明が本当大変だと。労災に特別加入、一人親方でしていても、やっぱり建設業転々としている人はなかなか暴露が証明できないというお話もお聞きしています。

 私は七月の当委員会で、遺族が製造中止になったパイプのカタログをどこからか一生懸命探してきて、それを見せることでようやく労災認定されたという事例を紹介したんですけれども、今回の迅速化通達では、厚生年金の問題はありますが、国民年金の加入者に対して手だてが講じられていないというふうに私は思うんですね。

 大臣、やっぱり国民年金の加入者を救済するためにも何らかの手だてというのを考える必要があるのではないかというふうに思っているんですが、その点はいかがですか。

政府参考人(青木豊君)

 今委員がお話しになりましたように、厚生年金保険の被保険者であった者につきましては、その被保険者記録から石綿暴露作業に従事したことの事実認定ができることとしたわけであります。しかし、お話しになりましたように、国民年金保険に加入している労働者等の職歴につきましては、これは国民年金保険の記録からでは会社が特定できないというようなこともございますし、作業歴がなかなか把握し難いということでございます。したがって、私どもとしては、事業主やその同僚関係者等から聞き取りを行うことにより事実関係を確認するということにいたしております。

 お話ありましたように、転々労働者の場合というのは非常に困難を伴うわけであります。あるいは事業場廃止労働者についてもなかなか石綿暴露従事歴の把握については難しいわけでありますが、監督署の職権等を行使しながら関係者をたどって事業主あるいは同僚労働者等を探し当てて聞き取り等を行って、事実関係の把握に努めているところでございます。

小池晃君

 私は是非ちょっとそれだけじゃ不十分だと思いますので対策考えてほしいと。しかも、十年というこの期間の問題がやっぱり決定的に大きいというふうに思うんで、そのことをちょっとまた後で聞きたいんですが、その十年というのが問題になってくるのは肺がんの場合なんですね。

 私は、アスベストのやっぱり中皮腫については大臣もかなり踏み込んで、疑わしきは救済するというふうにしていただいたのは、それは歓迎をしたいと思うんですが、肺がんの問題がやはり重大だというふうに思うんです。実際はアスベスト肺がんがかなり見逃されている可能性がある。

 例えば、海老原勇医師の調査によれば、建設作業者の肺がん、七十七人をこの海老原先生検討した。そうしたらば、そのうち七割を超える五十七名がアスベスト肺がんの特徴を持っていたというんですね。海老原先生というのは労働衛生、アスベストの問題を専門にやってきた先生ですから、そういう目で見たら五十七名そうだった。しかし、この五十七人全員がアスベスト肺がんだと診断されたことはなかったと。職歴も聞かれたことなかったと。たばこをどれだけ吸っていたかしか聞かれたことがなかったというんですね。現場ではきちっと診断されず、アスベスト肺がんが見逃されているという可能性が非常に高い。

 それから、一方で、ちょっとこれも傍証のようなことになるかと思いますが、アスベストの労災認定に一生懸命取り組んでいる労働組合の取組の状況を聞きました、神奈川県建設労働組合連合会の取組。ここでは、八九年以降、今年七月までにがんで労災認定された二十七人のうち、アスベスト肺がん二十名、中皮腫は七名なんですね。中皮腫よりアスベストの方が多いんですよ。それから、東京土建一般労働組合では、肺がん十七名、中皮腫五名、中皮腫の約三倍の肺がんが見付けられている。中皮腫の認定数より肺がんの認定数がはるかに多いんです。ところが、厚労省の労災補償状況を見ますと、肺がん五十八名に対して中皮腫百二十八名。オールジャパンでいうと中皮腫が圧倒的に多い。しかし、一生懸命このアスベストの被害を掘り起こしているような労働組合から上がっている数字は逆に肺がんの方が多いという実態がある。

 これだけでどうかというふうに、科学的にじゃ根拠あるのかと言われると、例えばほかにも、ILOのデータでは、実際はアスベストの被害というのは中皮腫よりも肺がんの方が多いのではないかという、ILOはそういう統計も出しておりますし、いろんな研究結果でも、今後の推計として、肺がんの死亡者数は中皮腫の二倍になるのではないかというような推計も出されているわけです。

 私は、こういう一連の状況を見ると、果たして、アスベスト起因の肺がんで適切な労災認定がなされていないものが埋もれている可能性あるんじゃないだろうか。そういう可能性も念頭に置いて、大臣は中皮腫の問題については踏み込んだ対策をおっしゃられているんですが、私はアスベストの対策をする上で、この埋もれているアスベスト肺がんのことをしっかり念頭に置いて対策を考えていくことが本当に今大事になっているんではないかというふうに思うんですが、大臣の認識をお伺いしたいと思います。

国務大臣(尾辻秀久君)

 私も認識はそのとおりに持っております。

 ただ、肺がんが難しいのは、途中で先生もお述べになっておられるように、アスベストが原因なのか、あるいはたばこが原因なのか、いろんなその他の原因も考えられるものですから、そこのところをどう判断するかというのは非常に難しい。その問題をどう解決するかだと思っておりまして、これは新法を作る際にもこの辺のところをよく検討しなきゃいけないと今考えているところでございまして、検討させていただきたいというふうに考えております。

小池晃君

 この点で、たばこの問題もあるんですが、それだけじゃなくて、私、肺がんのやっぱり労災認定基準の見直しがどうしても必要なのではないかというふうに思っているんです。

 やはり、十年という暴露期間を証明するというのは本当に私は大変なことになっているというふうに思いますので、やはり建設業に従事していたということ、それから、アスベストによる肺がんというのはやはり臨床的な所見があるわけですね。例えば、胸膜肥厚斑があるというような所見があるわけですから、やはり建設業に従事していたということが証明でき、アスベストによる肺がんだということが医学的に証明できれば、十年という暴露期間を問わずに労災認定していくという、そういう考え方でいくべきではないかと、前回もそういう主張をしたかと思うんですが、改めてお伺いしたいと思います。

政府参考人(青木豊君)

 大臣からもお話ありましたように、石綿による肺がんについての判断というのは非常に難しいわけでございます。そういうことで、石綿暴露従事歴を十年以上としているわけですけれども、これは昭和五十三年に認定基準を策定したわけでありますけれども、その際に専門家会議で議論をしていただいて、その報告において石綿暴露期間がおおむね十年を超える労働者に発症したものが石綿による肺がんが多いとされたことによるものでございます。平成十五年に認定基準を改正した際にもこのことに関して検討されまして、新たな医学的知見が得られていないということでございました。

 そういうことで、労災認定基準の改正につきましては、基準を改正すべき医学的知見が得られた場合に行うというものでございますが、石綿による肺がんについては、まだ現時点においてそのような知見は得られていないというふうに理解をいたしております。

小池晃君

 私は、疫学的に十年が発症の転機になるかどうかという問題と、十年間の暴露歴を被害者に証明させるという問題は、これは別問題だと思うんです。そこのところは柔軟に考えるべきだと思うんですよ。

 大臣、やっぱりどんどん病状は悪化しているし、本当に、言わばある意味じゃ肺がんというのは頑張ればこれ助けることができる。中皮腫というのはそういう意味では非常に過酷な病気ですが、肺がんの場合は治療可能なケースもたくさんあるわけですから、やっぱりこれ救済するということを全力でやるべきだと。中皮腫ももちろんですよ、でも肺がんについて考えるべきだと。やっぱり肺がんの労災認定基準、見直しの対象に私は当然なるというふうに思うんですが、大臣の基本的な認識を是非お聞かせ願いたいと思います。

国務大臣(尾辻秀久君)

 先ほど来申し上げておりますように、私どもはやはりすき間なく対策を取らなきゃいけない、すき間をつくっちゃいけないと思っておりまして、それが基本的な今後の姿勢でございます。

 その中で、具体的にどの問題をどうするかということになるわけでございますけれども、確かに肺がんの問題というのは難しいところはありますけれども、そこを乗り越えてできるだけきっちりした救済をしなきゃいけない。今後、いろんな皆さんの御意見、専門家の皆さんの今御意見も伺っておりますから、よくお聞きした上で、私どもの対応をしっかりしたものにさせていただきたいと思っております。

小池晃君

 最後に、アスベスト問題に関する厚労省の検証の内容についてちょっとお聞きしたいんですが、厚労省が労災補償状況という報告書の中で、労災認定件数は一九七九年度以前、肺がんで十八名というふうになっているんですが、初めて労災認定されたのはこれはいつのケースになるんでしょうか。

政府参考人(青木豊君)

 石綿による肺がんについて最初の労災認定事例は、厚生労働省において調査した限りでは昭和四十八年、一九七三年ということでございます。

小池晃君

 独立行政法人産業医学総合研究所の森永謙二さんが今年出された「職業性石綿ばく露と石綿関連疾患」という本があります。この中で森永氏は、石綿による肺がんは一九六〇年ごろ初めて労災認定されたと表まで示して書かれているんですね。この本は八月の厚労省の検証でも引用されている本なんですが、厚労省の報告書でも今の答弁でも最初の労災認定は一九七三年だと。森永先生は六〇年代だと言っていますが、どちらが正しいんでしょうか。

政府参考人(青木豊君)

 たしか記憶では、石綿による原発性肺がんと合併症による肺がんの違いではなかったかというふうに記憶いたしております。

小池晃君

 そうすると、今回の一九七三年というのはどういうことになるわけですか。原発性、石綿による原発性の肺がんだということになるわけですか。分かりました。ちょっとそこが違ったので、検証の内容についてお伺いしました。

 最後、一言だけ。

 先ほどちょっと谷議員の質問の中で被爆者援護法の問題がありまして、私どもも法案を提出をさせていただいた関係があって、大臣は手帳の発行について実務上の問題だというふうに、問題があるというふうにおっしゃられて、もちろん法律上の問題があるんですけれども、実務上の問題があるということで、頭から否定されるようなことはなされなかったのかなと、私は大臣の答弁をお聞きしていてそう思ったんですね。

 私は、しかし、この手帳の問題をクリアしなければ、手当だけでは救済されない人がたくさん韓国なんかに残されているという実態があることはこれは事実としてあるわけですから、やはりその手帳の取得についても解決すべき問題だという認識はお持ちなのかどうかということだけ最後にちょっとお伺いしたいというふうに思います。

国務大臣(尾辻秀久君)

 いろいろ被爆者の皆さんをめぐる問題もございます。そうした課題の一つであるというふうには認識をいたしております。

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