私は、健康保険法等の一部を改正する法律案に対し、日本共産党を代表して、総理、ならびに厚生労働大臣に質問します。 安心できる医療制度は、すべての国民に共通する願いです。その願いをふみにじる健康保険法改悪に怒りが広がっています。しかも、衆議院では強行採決まで行われました。強く抗議すると共に、参議院では、ルールを守って徹底的な審議を行うことを求めます。 今回、とりわけ強い批判を浴びているのが、健保本人の三割負担です。医療保険の患者負担を原則三割にしている国など、世界のどこにもありません。すでに三割になっている国民健康保険の加入者は、重い負担に耐えかねています。総理は、そもそも三割もの患者負担を適正なものと考えますか。答弁を求めます。(総理) 日本能率協会の高血圧患者アンケートによると、医療費が二割から三割負担になると、受診を控える患者比率は一三%から三〇%へ増加するといいます。 窓口負担の引き上げが受診抑制を生むことは、九七年、総理が厚生大臣時代に行った健保本人の二割負担への引き上げで、すでに実証ずみです。あの改悪で現役世代の外来患者の一二%が受診をやめたのです。さらに三割に引き上げれば、いっそう深刻な事態になるのは明らかではありませんか。それでもあなたは、必要な受診は抑制されないと言い張るのですか。(総理) 三割負担になって、体の不調があっても病院に行くのを我慢する人が増えればどうなるか。我慢すれば病気はたいてい悪くなります。重症になれば医療費は高くつきます。医療費の窓口負担の引き上げが、かえって保険財政の悪化を招くのです。医療保険財政を改善するためといいながら、これこそまさに悪循環ではありませんか。(総理) 健康保険の財政悪化が健保本人三割負担の理由とされていますが、そもそも今日の健康保険の財政破綻の原因と責任はどこにあるのでしょうか。 第一に挙げなければならないのは、深刻な景気の悪化です。 政府管掌健康保険の加入者一人あたりの医療費は、九七年から減少しているにもかかわらず、財政が悪化を続けているのはなぜか。それは、リストラと賃下げが広がるなかで、政管健保の加入者数と保険料算定の基礎となる標準報酬月額が減り、その結果、保険料収入が九八年から連続して減少しているからにほかなりません。 組合健康保険も同様です。健康保険組合連合会がまとめた今年度の健保組合の予算見込みによれば、財政悪化の最大の原因は、リストラや健保組合の解散により、保険料収入が一〇〇〇億円も減少することです。これは老人医療への拠出金の増加額である三五二億円をはるかに上回ります。 景気の悪化こそ健保財政悪化の最大の原因なのに、当座しのぎで、保険料や窓口負担を引き上げればどうなるか。個人消費を冷え込ませ、失業と倒産の連鎖を生み、健保財政をさらに悪化させるだけではありませんか。(総理) 第二に指摘しなければならないのは国庫負担の削減です。 政府は九二年に政管健保への国庫負担比率を、法の本則にある一六・四%から一三%に引き下げました。財政黒字がその理由でした。その直後から財政悪化が始まったにもかかわらず、政府はこの事態を放置しつづけた結果、この一一年間の国庫負担の削減額は累計で一兆六〇〇〇億円に及んでいます。政管健保を危機に追い込んだ最大の責任は政府にあります。そのつけを保険料と窓口負担の引き上げで、国民にまわすことなど断じて許されません。総理はこの責任についてどう認識しているのでしょうか。明確な答弁を求めます。(総理) しかも、この負担増を強行しても、政管健保財政は四年後には赤字に転落するというのですから、その場しのぎの展望なき改悪というほかありません。大型公共事業や軍事費の削減など税金の使い方を変えて新たな財源を生み出し、国庫負担を引き上げて保険財政を支えてこそ、持続可能な制度になるのではないですか。(総理) 現役世代とならんで、七〇才以上の高齢者にも、定額制の廃止と負担上限の大幅引き上げという過酷な負担増が待ち受けています。 政府は、高齢者の経済的地位が向上しているなどとして、負担増を合理化しています。しかし、先日政府自身が発表した「高齢社会白書」でも、六五才以上の女性の一七%が「所得なし」で、女性単独世帯の所得は平均でわずか一七二万円、さらに一人暮らし高齢者は持ち家率も低いことが報告されています。高齢者の所得格差は深刻です。こうした実態を無視して、日本の高齢者が豊かであるとは、到底いえないのではありませんか。(厚労相) 高齢者を直撃するのは負担増だけではありません。いったんは負担上限をこえても窓口で全額を支払い、その後の申告で返還されるという、償還払い制の導入です。このように重い負担と複雑な手続きを高齢者に強いることは、撤回すべきではありませんか。あわせて、厚生労働大臣の答弁を求めます。(厚労相) 日本共産党は、安心できる医療制度のため、次の三つの方向を提案しています。 第一に、削られた国庫負担の割合を引き上げることです。 深刻な医療制度の危機は、政府が国庫負担を減らし続けた結果にほかなりません。一九八〇年には国民医療費の三〇%だった国庫負担は、九九年には二五%に低下しました。一方、保険料と窓口負担をあわせた家計の負担は、四〇%から四五%に増えています。国民医療費三〇兆円のうち、一兆五〇〇〇億円の国庫負担が家計の負担に置き換えられたことになります。これを計画的にもとに戻すことを検討すべきではないですか。(総理) 第二に、高過ぎる薬価を欧米並みに引き下げることです。 医療費に占める薬剤費の比率は近年低下していますが、欧米諸国に比べるとまだまだ高い水準です。新薬に依存する構造が変わっていないからです。たとえば、九年以内に薬価収載された新薬の比率は、ドイツの一〇・四%に対し、日本は三三・六%と三倍をこえます。先日、国立病院での新薬偏重を是正する通達も出されましたが、この際、徹底的に新薬の価格と新薬依存の構造にメスを入れ、薬剤費の大幅な削減をはかるべきではありませんか。政府は今後、薬剤費をどこまで削減するつもりか、うかがいます。(総理) あわせてお聞きします。二〇〇〇年度に自民党は製薬企業から、合計二億円の政治献金をうけています。国民に痛みをというなら、公的医療保険財政に支えられている製薬企業からの献金は、まず真っ先に、禁止すべきではありませんか。(総理) 第三に、病気の予防、早期発見・早期治療を保障する態勢を確立することです。窓口負担増で早期受診を抑える健保改悪など、最悪の選択といわねばなりません。 小泉内閣が発足してから、景気は加速度的に悪化しています。失業率は五%をこえ、今年に入ってからの倒産件数は、戦後最悪を更新する勢いです。そして、消費支出は前年から二・一%の実質減少。こうした時期に、一兆五〇〇〇億円をこえる国民負担増をもたらす健康保険法の改悪を提起するなど、無謀というほかありません。 総理。あなたは九七年、厚生大臣だった時にも健保改悪で景気を悪化させました。あやまちを繰り返すのではなく、ただちにあらためるべきです。反対署名は二六〇〇万人、地方議会の意見書は六〇〇自治体にのぼります。総理はこの国民の声にこそ耳を傾けるべきではありませんか。明確な答弁を求めて、私の質問を終わります。(総理) □ (総理及び厚生労働大臣の答弁) *速記録より ○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 小池議員にお答えいたします。 三割負担は医療保険の自己負担割合として適正か、また、自己負担の引上げが受診抑制や保険財政悪化を招くのではないかというお尋ねであります。 患者負担については、制度間、世代間を通じた給付率の統一を図り、公平で分かりやすい給付体制の実現を図るとともに、厳しい医療保険財政の下、制度運営の安定を確保していくため、患者、加入者、医療機関の関係者にひとしく痛みを分かち合っていただくことが必要であり、お願いしているところであります。 我が国の場合、高額療養費制度というものがあります。患者負担に一定の歯止めを設け、重い病気などの場合に著しい負担増が生じない特別の措置が設けられているところであります。先進諸国と比べ、必ずしも我が国の患者負担が突出しているとは考えておりません。 また、三割負担の導入に当たっては、薬剤一部負担を廃止するとともに、患者負担に対する一定の歯止めとともに、特に低所得者については自己負担限度額を据え置くなどの配慮を行っていること、また、既に三割負担の国民健康保険や被用者保険の家族外来において受診抑制がなされていることはないことから、必要な医療が抑制されることはなく、また保険財政の悪化につながることもないと考えております。 保険料や窓口負担の引上げと財政悪化についてのお尋ねですが、今回の改革は国民皆保険を守りつつ持続可能な医療保険制度を構築していこうというものであります。短期的には痛みを伴うものでありますが、中長期的には保険料負担の上昇をできるだけ抑え、全体として将来の国民負担の増加を抑制するものであり、経済面も含め国民全体にとってプラスになるものと考えております。 政府管掌健康保険の財政悪化の責任についてでございますが、政府管掌健康保険については、高齢化の進展等により医療費が増加する一方、経済の低迷に伴い保険料収入が伸び悩んでいることから、近年大幅な赤字が生じております。これまでは保険料の引上げによることなく積立金の取崩しにより対処してきましたが、今年度末にはいよいよ積立金もほぼ底をつく見込みであり、改革は待ったなしの状況となっております。このため、保険料の引上げや三割負担の導入など収支両面にわたり見直しを行い、財政の安定化を図ることが政府の責任と考えております。 政府管掌健康保険に対する国庫補助の引上げ及び医療費の国庫負担割合の見直しについてですが、医療費の国庫負担については、これまでも医療保険制度の円滑な運営を図るために必要な額を確保してきており、十四年度予算においても、公共事業は一〇%削減する一方、医療費の国庫負担は、二十年前と比較すると、国の一般歳出の予算額は約一・五倍しか伸びていない中で、約二倍の七兆五千億円となっております。 さらに、今回の改革においては、保険財政の安定的な運営を確保する観点から、高齢者医療制度について、対象年齢を七十五歳に引き上げるとともに、公費負担割合を三割から五割に引き上げ、保険者にとって重荷となっている老人医療費拠出金の圧縮を図ることとしているところであり、政府管掌健康保険の国庫補助を引き上げることは困難と考えております。 今後とも、保険料、公費、患者負担を適切に組み合わせることにより必要な財源の確保を図ってまいります。 薬剤費についてですが、これまで講じてきた様々な適正化対策の結果、薬剤費比率は過去十年間で三〇%から二〇%へと大幅に低下し、外来薬剤費で見た場合、既に欧米並みになっております。 平成十四年度の薬価改定においても、市場実勢価格に基づく通常の引下げに加えて、いわゆる先発品の薬価について新たに平均五%の引下げを行うとともに、新規性の乏しい新薬についても価格の適正化を図ったところであります。また、後発品の普及促進の観点から、今般の診療報酬改定においては、後発品を処方した場合の評価を充実するなどの措置も講じたところでありますが、今後とも、更なる薬剤費の適正化を進めてまいります。 製薬企業からの政治献金の禁止についてでございますが、私どもは、企業献金は必ずしも悪とは考えておりません。政党が一定の規制の下で、政治献金を受けること自体が悪いという考え方に立つのではなくて、どのように政治活動のための資金を調達するか、透明性、これを図ることが大事でありまして、私は、その一定の規制というのはどういうような規制がいいかと、今後とも各党間で議論を進めていくべき、慎重に検討すべきものと考えております。 改革に伴う国民の負担増についてのお尋ねでありますが、国民皆保険を守っていくためには、患者、加入者、医療機関といった関係者にひとしく痛みを分かち合っていただくことは避けられません。これまでにない診療報酬の引下げを行うとともに、高齢者やサラリーマンの方々についても応分の負担をお願いすることが必要と考えております。 こうした改革は、保険料負担の上昇をできるだけ抑え、全体として将来の国民負担の増加を抑制するものであり、医療保険制度の持続可能性を高め、中長期的には経済面も含め国民全体にとってプラスになるものと考えております。 今回の改革は、将来にわたる我が国の世界に誇るべき医療制度を守っていくためのものであり、国民の皆様にも御理解いただけるものと思います。 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手) ○国務大臣(坂口力君) 小池議員にお答えを申し上げたいと思います。 小池議員からは二問ちょうだいをいたしまして、高齢者の所得等の状況についてのお尋ねと、もう一つは、併せて高齢者医療制度の患者負担についてのお尋ねがございました。類似の質問でございますので、一つにまとめてお答えをさせていただきますので、お許しをいただきたいと思います。 近年、年金制度の成熟化等によりまして高齢者の経済的地位は向上してきており、平均的に見ますと、所得水準、資産、消費など、いずれの面におきましても現役世代と遜色のないものになってきております。 もとより、高齢者の中には負担能力の低い方々も存在していることは十分に存じており、患者負担の見直しに当たりましても、低所得の方々への十分な配慮が必要であると考えているところでございます。 高齢者医療制度を持続可能なものとするためには、高齢者の方にも応分の負担をお願いをして、現役世代と負担を分かち合っていただくことが必要であると考えております。 今回の改正案におきましては、現役世代の負担とのバランスを考慮いたしまして、高齢者の医療費につきましても定率一割負担を徹底をし、高齢者の方にも応分の御負担をお願いすることといたしております。 その一方、その際には、外来におきまして入院と比べ低い限度額を設けるとともに、低所得者につきましては、入院時の自己負担について限度額を据え置きますとともに、特に低い額が適用される方の範囲を大幅に拡大するなど、きめ細かな配慮を行うことといたしております。 また、現役世代と同じく、窓口負担が限度額を超えた場合には償還をすることとしておりますが、対象者が高齢者であることにかんがみ、制度を知らない、あるいはまた手続上の過重な負担によって支給を受けられないといったようなことがないように、十分な対応をしてまいりたいと考えているところでございます。(拍手)