2000年11月30日
健康保険法と医療法の一部改正案に対する
本会議反対討論
私は、日本共産党を代表して、健康保険法と医療法の一部改正案に対して、反対の討論をおこないます。
そもそも、今回の健康保険法改正案は、これまで定額負担だった高齢者医療にはじめて定率負担を導入するもので、医療法改正案も医療提供体制の枠組みの重大な変更です。
国民の関心も高く、今国会にも短期間で210万人を超える反対署名が寄せられました。
日本の医療保障制度にとっても、医療提供体制にとってもきわめて重大な制度改定は、法案に対する賛否はともあれ、徹底的に討議を尽くすことが、国会に課せられた責務ではありませんか。それを、短期間の臨時国会で一気に審議、採決することなど到底許されません。討論に先立ち、本日の採決そのものに強く抗議するものです。
健康保険法等の一部改正案に反対する第一の理由は、高齢者に対する定率自己負担の導入が、苛酷な負担増と、受診の抑制をもたらすことです。
11月6日の本会議で、総理も津島厚生大臣も今回の定率負担を「現行制度とほぼ同水準の負担」と説明しました。
しかし、「現行制度とほぼ同水準」というのは、昨年7月から支払が免除されている薬剤費一部負担が、今も続いていると仮定しての話です。実際には高齢者は薬剤費を負担していないのです。したがって、現状と比べれば明らかな負担増になります。これは委員会審議で厚生大臣自ら「そのとおり」と答えたことです。
政府は、定率負担になっても受診が抑制されることはないとも説明してきました。しかし、厚生省自身が定率負担により受診抑制が起こり、その額を990億円と算定していたことも明らかになりました。
以上のように、当初の政府の説明の根拠は完全に崩れており、これだけでも本法案は廃案にすべきです。
定率負担の導入による患者負担増は1460億円、医療を受ける人も受けない人もあわせて一人当り年間1万円の負担増となります。しかも、これはあくまで平均であり、外来通院中の高血圧・糖尿病の患者さんで自己負担が530円から5000円へと9・4倍になる例もあります。また、白内障の手術で入院した患者さんでは3・9倍。上限があってもこれだけの負担増になります。これを「無理のない負担」などとどうしていえるのでしょうか。
一割の定率負担がどれほど過酷なのかを、実証しているのが介護保険です。介護保険が始まってから、以前よりも介護サービスを低下させた人は、17・7%にものぼることが厚生省の調査でも明らかになっています。参考人質疑では介護保険の利用率の低さは一割の利用料負担が原因であり、医療保険にも一割負担を導入すれば、医療を受ける権利も奪うとの声があがりました。介護保険の一割負担による利用抑制の実態を、まともに検討もしないで、さらに医療にも拡大することなど、決して許されるものではありません。
社会保障の負担増は医療だけではありません。高齢者だけでも、介護保険の保険料が来年度は7700億円、利用料は6000億円の負担になります。さらに年金改悪で1兆円を超える給付の削減が行われました。さらなる医療の負担増が、高齢者の生活を直撃するだけでなく、現役世代の将来不安をつよめ、それが景気の回復をさまたげることは明白であります。
反対する第二の理由は高額療養費制度の改悪で、現役世代にも苛酷な負担増を強いるものとなっているからであります。
そもそも公的医療保険における患者自己負担比率は、ドイツ6%、イギリス2・4%に対して日本は15・5%です。さらに、欧米諸国では医療費に含まれている分娩費用や予防費用、差額ベッドなどの保険外負担をふくめると、日本の患者負担は実に21%。国民皆保険制度のないアメリカの患者負担20・2%をも上回るのです。
こうした世界でもとりわけ高い患者負担に加えて、ガンや心臓病、脳卒中などの重病になったときの医療費の負担の上限をなくして青天井にするのが今回の高額療養費制度の改悪です。政府はコスト意識を喚起するためと言いますが、参考人質疑で「連合」代表が表明した「心ならずも重病になった患者にコスト意識を持てというのか」「治療中の医師にコスト意識を持って治療を中断しろと言うのか」の怒りは当然であります。
次に医療法等の一部を改正する法律案についてです。
反対の第一の理由は、一般病床と療養病床を区分して、基準病床数の算定式によって、地域の急性期医療を支える一般病床の機械的な削減が進んでいくことです。
入院率が全国平均よりも上回る地域は、地域の実情に関わりなく急激なベッド削減が進むことになり、急性期の治療や手術ができる病院がなくなる危険があります。
第二の理由は一般病床の看護基準の患者3人に対して看護婦1人という配置基準がきわめて不十分な上、療養病床は患者6人に対して看護婦1人という世界に例を見ない劣悪な基準が法定化されることです。これでは、患者の重症化と医療の高度化にあえぐ看護現場の矛盾は深まるばかりではありませんか。
反対の第三の理由は医師の卒後臨床研修の必修化に際して、財源も、その規模も、教育内容改善のめども示されておらず、このままでは批判の強かったかつてのインターン制度の再現になりかねないことです。
さらに、今回の改悪は医療抜本改革の第一歩とされています。政府のいう医療抜本改革なるものは、介護保険と同様に扶養されている高齢者一人一人にまで医療保険料の負担を求めるだけでなく、97年の厚生省案によれば、現役世代の自己負担は3割に、大病院の外来は5割負担にするなど、歯止めなき負担増をもたらすものです。決してこのような道の第一歩を踏み出すわけにはいきません。
政府は今回の改悪を「負担をみんなで分かち合うため」と説明してきました。しかし、製薬企業大手15社の連結経常利益は99年度約9千億円、国民医療費の3%に相当する巨額の利益を上げています。こうしたところにメスを入れずに、高齢者や多くの国民に負担を押しつけるのは本末転倒です。
国民の負担増と社会保障水準の低下の最大の原因は、社会保障財源に占める国庫負担を80年の29.2%から97年の19%へと、10%も低下させていることにあります。80年代から90年代にかけて、対GDP比で社会保障への国庫負担を減らした国は主要国では日本だけであり、しかもその中で日本は高齢者人口の増加率が最も高いのです。
いまこそ大型公共事業や銀行、ゼネコン支援のむだ遣いをやめて、政治と予算の主役を社会保障にすえ、国民に負担を押しつけることはただちに中止すべきです。
健康保険法改悪は2001年1月1日からの施行が提案されています。これでは21世紀のまさに幕開けの日から、高齢者は苛酷な負担を強いられることになります。このような血も涙もないやりかたを、国民は決して許さないでしょう。国民に害悪しかもたらさない自民党政治を一日も早く終わらせて、政治の転換を実現することこそ、国民の願いであり、安心できる医療を実現する道です。
日本共産党はそのために全力で奮闘することを表明して、反対討論を終わります。
▲「国会論戦ハイライト」目次
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