○小池晃君 私は、日本共産党を代表して、国民年金法等三法案について、総理並びに厚生大臣に質問を行います。 公的年金は、老後の生活を保障するため、国と国民が結ぶ約束です。当然、本法案の審議には十分な民意の反映と徹底した討論が必要であります。ところが、衆議院厚生委員会では、短時間の審議で公聴会開催を決め、公聴会の実施前に採決の日取りを決め、あげくの果ては強行採決というたび重なる暴挙が行われました。本院では、法案への賛否はどうあれ、中央・地方公聴会の開催、参考人質疑はもちろん、徹底した討論を尽くすことが国民から負託された責務です。そのことを最初に指摘をして、以下、法案の中身に即して質問します。 第一は、厚生年金報酬比例部分の支給開始を六十五歳におくらせる問題です。 政府は、九四年の制度改悪で定額部分の支給開始を六十五歳に引き上げました。今回の改悪はそれに追い打ちをかけ、六十歳代前半の年金をゼロにするというものです。 政府・与党は、この間、六十歳代前半の雇用確保を年金支給をおくらせる前提としてきました。ところが、現在、定年制が六十五歳以上の企業は全体の六・六%しかなく、大企業では労働者の四三%が定年前に退職させられています。求人年齢の上限の平均は三十七・三歳、六十から六十四歳の有効求人倍率は〇・〇六です。衆議院の地方公聴会でも労働組合の代表から、近未来に六十歳前半の雇用が多く生まれるとは思えない、支給開始の繰り延べは余りにも乱暴だという怒りの声が上がりました。 総理、政府が唱えてきた支給開始繰り延べの前提はもはや崩れているのではないですか。それは、勤労者の退職後の生活を困難にし、将来不安を増幅するだけではないでしょうか。そうではないというなら、国民にどのような約束をするのか、答弁をしてください。 第二は、賃金スライド凍結と厚生年金報酬比例部分の五%削減についてです。 厚生省は、賃金スライド制を導入するとき、これは年金受給者と現役世代の乖離を防ぎ、真の老後保障となる年金にするための制度だと説明しました。その政府自身の説明に照らしても、賃金スライド凍結は年金受給者と現役世代の乖離を広げる制度改悪ではないですか。報酬比例部分の五%削減とあわせ、まさに国民の老後を脅かすものであります。 賃金スライド凍結は、将来世代だけでなく、現在、年金を受けている人の暮らしも直撃します。厚生省の説明でも、ことし六十五歳で二十四万円を受給している人の場合、二十年後の年金は、現行制度では三十八万円のはずが、今回の改悪で三十二万円に、六万円も減らされます。給付の切り下げは高齢者のささやかな希望をも奪うものではないでしょうか。厚生大臣の答弁を求めます。 第三は、基礎年金への国庫負担についてです。 基礎年金国庫負担への二分の一への増額は、九四年に全会一致で決議され、法附則にも明記されたことです。それを実現しなかったのは、国民に対する重大な約束違反であります。それをさらに五年間も先送りする本法案に、支給先延ばしや給付カットで国民には痛みを押しつけながら、政府はまた責任逃れかと怒りの声が上がるのは当然ではありませんか。 今、国民年金の空洞化は深刻です。自営業者、学生など第一号被保険者の対象者二千百万人のうち、厚生省が保険料の確実な納付を見込んでいるのは千二百四十八万人、五九%にすぎません。二分の一国庫負担の先送りは、この空洞化をさらに進行させるだけです。 政府はこの間、二分の一国庫負担は法案の附則に明記したから必ず実行すると弁明しています。しかし、五年前の約束をほごにしたのは政府自身です。五年前の附則と決議を守らなかった政府が、また附則に書いても信用できないという衆議院中央公聴会での全労連鈴木副議長の指摘は当然です。総理、直ちに国庫負担を二分の一に引き上げることこそ国民の年金不安を払拭する第一歩だと思われませんか。 第四は、百四十兆円の積立金とその運用についてです。 年金支給額五・五年分という我が国の積立金は、アメリカの一・五年分、イギリスの一・二カ月分、ドイツの一カ月分などと比較して異常な額です。 政府は、財政再計算のたびに、まともな理由もなく積立金の目標を膨張させてきました。高齢化のピークとされる二〇五〇年の積み立ては、八九年試算では一・四年分でしたが、九四年は二・四年分、今回は三・三年分となっています。積立金をふやせば保険料が上がるのは当然ではないですか。 しかも本法案は、この積立金を、厚生省が監督する年金資金運用基金にゆだね、市場で全面運用するとしています。既に、厚生省所管の年金福祉事業団が二十七兆円の資金運用に失敗し、簿価で一兆八千億円の赤字を出しています。二十七兆円の運用に失敗し、その責任を一切とろうとしない厚生省に、百四十兆円の全額運用などどうして任せることができるでしょうか。 連合の桝本生活福祉局長は、保険料という形で民間から資金を吸い上げ、積立金をふやして金融市場に投資するよりも、個人、法人に還元して経済の成長を図るべきだと指摘しています。 アメリカでも、クリントン大統領がことし一月、公的年金の株式運用を提案したとき、FRBのグリーンスパン議長から、株価が下落すれば年金財政が不安定になる、政府による市場介入は好ましくないなど、厳しい批判が出され、大統領は提案を撤回しました。 総理、国民の財産である年金資金を金融市場にゆだね、巨額の損失を出した場合、だれがどのように責任をとるのですか。将来世代の負担を減らすための積立金だと言われますが、運用に失敗したら逆に負担がふえるだけではないですか。 結局、はっきりしていることは、これまでの十二年間で三千億円もの運用手数料を得た金融機関だけは今後も確実にもうけ続けるということではないですか。明確な答弁を求めるものです。 第五は、無年金障害者についてです。 障害者団体によれば、そもそも障害年金の受給者は障害者全体の三割。受給できている人も、その八割は生活保護基準以下の年金額。結局、就労が困難な障害者は生活保護に頼らざるを得ないのが現状です。当面、少なくとも、九四年の附帯決議に沿って福祉的措置を含め速やかに検討することは、政府の責任で緊急に行われるべきではないでしょうか。総理の答弁を求めます。 本法案の施行は、将来のことで現在の問題ではないという政府の言い分は、事実を二重にねじ曲げるものです。 第一に、今回の改悪は、賃金スライド凍結などで現在の年金受給者の暮らしを直撃します。 第二に、現役子育て世代の将来不安をかき立てることであります。 今回の制度改悪が完成するのは二〇二五年です。私は二〇二五年に六十五歳になります。三月の委員会で、私以降の世代の改悪の影響はどうなるのか質問したところ、厚生省は、二〇二五年に夫が退職する夫婦の場合、厚生年金で平均五千三百万円の生涯給付が四千三百万円に、一千万円減ると答えました。遺族年金の削減分と九四年改悪での定額部分の支給開始繰り延べを加えれば、優に一千五百万円を超える支給が減らされます。 総理、このような改悪が、年金生活者に打撃を与えるとともに、現役世代、子育て世代の将来不安をあおり、一層の少子化へと悪循環を加速させることは明らかではありませんか。 基礎年金に対する国庫負担を直ちに二分の一に引き上げ、巨額の年金積立金を計画的に取り崩し、高齢者や女性が働きやすい環境づくりを進めれば、今回のような年金の負担増も給付の削減も全く必要ありません。 元東大医学部長の黒川清氏は日経新聞で、「高齢化社会を迎えた日本で、いま国民が求めるのは安心して住める社会づくりである。それは医療・福祉の充実であって、決して国土のコンクリート化ではない。」と述べておられます。 日本共産党は、国民年金法等三法案の廃案を要求し、公共事業偏重の財政構造を転換して、すべての国民が安心して老後を送れる年金制度の確立のために全力を挙げることを表明し、私の質問を終わります。(拍手) 〔国務大臣小渕恵三君登壇、拍手〕
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