8 月 23 日午後、国会内で記者会見し、以下の見解を発表しました。
障害者福祉制度が、2003 年 4 月から大きく変わります。
いまは、障害者が施設やホームヘルプなどの福祉サービスを利用する場合、措置制度によって国と自治体がサービスの提供に直接的な責任を負っています。しかし、来年度からは、介護保険と同じように、障害者本人が利用したいサービスを決め、みずからサービス事業者を選んで「契約」するしくみになります。障害者の「契約」にもとづくサービス費用のうち、本人負担(利用料)を除いた費用を、国・自治体が「支援費」として助成するというのが、来年 4 月から実施される「支援費制度」です。
「支援費制度」の対象となる福祉サービスは、身体障害者、知的障害者の各種の施設利用と在宅サービス、障害児の在宅サービスであり、およそ 360 万人の障害者・児が対象になります。
「支援費制度」にはこんな問題点がある
日本共産党は、「支援費制度」の導入を決めた法律の制定(「社会福祉法」)に反対しました(2000 年 5 月)。その理由は、行政責任を現行より大幅に後退させたため、次のような問題がでてくるからです。
第 1 は、福祉サービスの確保は原則として障害者個人の責任とされ、国や自治体は「支援費」の助成など、あくまで第三者的なものとなることです。
第 2 は、在宅、施設ともにサービスが圧倒的に不足しており、「自由に選択できる」という政府のうたい文句どころか、新制度発足の前提条件すら欠く現状にあることです。
第 3 は、障害者・家族の負担が増大する心配があることです。利用料は、障害者の運動によって、これまでどおり、負担能力に応じて支払うしくみが維持されましたが、「支援費」の水準が低く抑えられれば、結局は、利用者の負担増にならざるをえない危険があります。
このような問題をかかえたまま、今年 10 月からは、「支援費制度」にもとづいて、市町村でいっせいにサービスの申請受付が開始されます。ところが、サービスごとの「支援費」はいくらになるのか、障害者が支払う利用料はどうなるのかといった制度の根幹となる国基準は、いまだ未定です。来年度の予算待ちということです。その予算編成にあたって、小泉内閣は、障害者関係予算をはじめとする社会保障予算の大幅な削減方針をうちだしており、障害者・家族の不安がますますひろがっています。
日本共産党は、国・自治体が障害者福祉にたいする公的責任を十分に果たすことをもとめます。同時に、新制度が成立し、実施がせまったいま、障害者が安心して利用できる「支援費制度」にするために、法律の範囲内でもできる以下の対策をもとめます。
1 、障害者が自立して生活できる「支援費制度」にするために
(1)国の「支援費」は障害者の生活実態にあった額に…国は障害者の自立を保障するものにふさわしい「支援費」の全国基準を設定することがなによりも大切です。
重度の障害者は、事業者から敬遠される事態が起こりかねません。国の責任で、施設、在宅サービスとも、「支援費」に重度加算をもうけるべきです。また、強度行動障害や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人などにたいしては、特別加算を設けることをもとめます。
親・子どもなど、障害者の扶養義務者からの利用者負担金の徴収は、障害者の自立に反するものです。成人した障害者については、利用料は本人所得にもとづく徴収を原則とし、扶養義務者からの徴収はおこなわないよう、国に改善をもとめます。
国・都道府県は、指定事業者がサービス水準の向上をはかれるように、必要な財政措置をおこない、職員配置基準の改善をおこなうことも必要です。
(2)現行のサービス水準は絶対に後退させない…現在、障害者・児サービスを受けている 人たちについては、施設・在宅ともにこれまでの水準と利用料でひきつづきサービスが受けられるよう、市町村は万全の措置をとるべきです。
市町村は、国基準を参考にして、「支援費」の額を自主的に設定できることになっています。障害者の生活実態と要求に見合ったサービスの提供がおこなえるよう、自治体は独自の上乗せ措置を積極的に存続・拡充すべきです。
利用料の自己負担(利用料)についても、国の基準を上回らない範囲で市町村が自主的に決められることになっており、現行水準以上の利用料には絶対にすべきではありません。
いま、「支援費制度」への移行にあたって、東京、大阪、愛知など各地で、直営の障害者施設を民間に移譲する、民間福祉施設への人件費補助を廃止するなどの動きがでています。こうした責任放棄の姿勢をあらため、直営の施設・在宅サービスの維持、民間施設への助成を充実すべきです。
(3)障害者の生活実態を反映した認定を…「支援費」の支給審査は、厚生労働省の省令で定める「勘案事項」(障害の種類・程度、介護者の状況、利用意向など)と、それにもとづく「チェック項目」にそって、市町村が、支給の可否とともにサービスの支給量、支給期間、障害程度の区分(3 ランク)を決めます。しかし、サービスの量(ホームヘルパーの派遣時間、デイサービスの利用日数など)は、介護保険とちがって上限はありません。市町村は、最初から家族介護を前提にするのではなく、障害者が地域で自立した生活を送ることができるよう、必要で十分なサービス量を認定すべきです。
支給決定の公正を期すために、市町村ごとに、専門的知識をもつ人たちによる集団的な審査体制を確立し、家族や施設職員の声も審査に生かすことを提案します。
市町村は、情報提供・相談窓口の体制を充実するとともに、申請待ちではなく積極的に障害者を訪問し、要求を掘り起こす手だてをとるべきです。介護保険にならって、ケアマネージャーを配置するなど、体制を確立することも急務です。
(4)現行の措置制度を柔軟に活用すること…市町村は、申請や契約が困難な障害者にたいして、サービスから落ちこぼれる事態を起こさない手だてをとることが必要です。新制度のもとでも、「虐待」等により本人からの申請ができない場合は、措置制度を適用してもよいことになっており、個々のケースは市町村の自主的な判断にまかされています。この柔軟な活用がもとめられます。
(5)自分で契約が困難な障害者への支援策を拡充すること…国は、自分で契約が困難な障害者には、「成年後見制度」や「福祉サービス利用援助事業」で対応するとしています。しかし、財産管理などを目的とする「成年後見制度」は、申立てにかかる費用が 10 万円程度もかかります。社会福祉協議会が障害者の契約手続きを援助する「福祉サービス利用援助事業」も、金銭管理 1 回につき 1000 円から 1500 円程度の自己負担がかかるなど、気軽に利用できる制度ではありません。
「成年後見制度」や「福祉サービス利用援助事業」を障害者が気軽に利用できるよう、国・自治体の責任で利用者負担の大幅な軽減・免除をおこなう措置が必要です。
2 、遅れている福祉サービスの基盤整備に全力をあげること
どんな新しい制度も、障害者が必要なサービスを受けられなければ、まったく絵に画いたもちです。じっさい、成人期障害者の法定施設がある市町村は、3200 余の自治体のうち、わずか 4 割程度にすぎません。知的障害者施設をみても、東京都で 1154 人、大阪府で 881 人、埼玉県で 798 人などと、入所・通所待ちの障害者がたくさんいます。しかも、重大なことは施設が近くにないことです。東京都の場合、現在の入所者 8149 人のうち、3481 人、約 43 %が青森、秋田、岩手など都外の施設に入所をよぎなくされています。在宅でもサービス不足は深刻です。「支援費制度」のもとでは、事業者は障害者の利用依頼にたいして、「契約」を拒否できない「応諾義務」を課しています。しかし、肝心のサービスがなければ、「応諾義務」はないも同然です。基盤整備の遅れを打開することは緊急の課題です。
新「障害者基本計画」を実効ある計画に―― 3 年で緊急基盤整備を
政府は、「障害者プラン」7 ヵ年計画が 2002 年度で終了するのを受けて、来年度から在宅・施設サービスの整備を目的とする新「障害者基本計画」(2003 年〜 2012 年)をスタートさせます。新「計画」の実施にあたっては、実績の検証が必要です。これまで「計画」をつくった市町村は 75 %であり、そのうち具体的な数値目標をもっている市町村はわずか 38 %程度にすぎません。もともと「計画」そのものが低い水準のうえに、この有様です。新「計画」は、現状をふまえて、障害者の全面参加の理念と自立保障にふさわしい計画にしなければなりません。そのために、数値目標と財源のうらづけを明確にした実効ある計画をつくることが必要です。
現状を打開するために、政府は、前期 3 年(2003 年度〜 2005 年度)を緊急整備の重点期間に設定し、施設・ホームヘルパーの増員などの基盤整備を集中的に推進するよう提案します。
市町村みずからが指定事業者になることもふくめて、地域の生活支援ネットワークづくりをすすめるようにすべきです。国・都道府県は、人口規模の小さい市町村が連携して広域的なサービス提供をおこなう場合もふくめて、市町村にたいして十分な財政および人材支援に責任をもつことが重要です。
なお、「支援費制度」の対象外となる事業(小規模授産施設、無認可小規模作業所、精神障害者施策など)については、国が各種補助事業のいっそうの拡充をはかることは当然です。
3 、国は障害者予算の大幅な増額をおこなうこと
政府は、財政負担の水準をふやさず、障害者サービスの種類増も水準の引き上げもおこなわないという姿勢です。「事業者間の競争でサービスの質の向上をはかる」というまったく無責任な態度です。これでは弱い立場にある障害者のいのちと暮らしは守れません。
「障害者プラン」は、障害者にどの程度のサービスを用意するのか、福祉サービスの総量をしめすもので、「支援費制度」の存在意義にもかかわる根幹をなす施策ですが、その予算額は、2002 年度でわずか 3050 億円、一般会計予算の 0.4 %程度にすぎません。
せめて 1 %程度に増額しただけでも、障害者の自立を支援する施策は飛躍的に拡充できます。この程度の予算は、年間 50 兆円規模の公共事業費のムダを見直すだけでも十分に確保できます。要は、障害者が人間らしく生きる権利を保障する姿勢があるかどうかです。「支援費制度」の移行にあたっては、政府が障害者予算の思いきった増額をおこなうことを強く要求します。
ことしは、国際障害者年 10 年につづく「アジア太平洋・障害者の 10 年」の最終年です。障害者の全面参加と平等、くらしを真に保障する法制度を確立・充実するときです。日本共産党は、障害者・家族のみなさんとともに、その実現のために全力をつくします。