小泉第二次改造内閣が発足し、総選挙必至といわれます。国民に痛みを押しつける小泉政治を続けさせるのか変えるのか、大きなふしめになります。なかでも「年金」は、来年が五年ごとの見直しの年。社会保障審議会、坂口力厚生労働相、財務省から案が発表され、負担増・給付減のさらなる改悪が準備されています。
全日本民医連理事の小池晃さん(日本共産党参議院議員)にききました。
いま、安心の拠り所であるはずの年金制度が、逆に心配のタネになっています。
最近のニュースで、「貯蓄なし」世帯が全体の22%に上るとありましたね。貯蓄ゼロが二割をこえたのは、調査を始めた六三年に一度あっただけとのこと。老後の生活が「心配」は八割強。六〇歳未満の世帯では、じつに九割近くが貯金や年金が十分でなく、「日常生活費をまかなうのもむずかしいと思う」と答えています(金融広報中央委員会発表)。
毎年三万人以上もの人が自殺しているいまの日本。貧富の差がどんどん広がり、増えているのは経済的理由による自殺です。私はこういうのを放置しているのは国家的な殺人ではないかと思います。
このうえさらに、負担増・給付減の年金大改悪(左表)で国民に痛みを押しつけようという小泉政権の冷たさは異常としか思えません。
高齢者の年金額は来年もカット
来年すぐには、いま受給している方の年金を、今年につづいて下げるという。年金の物価スライド制は、物価というのは上がるものだということでつくられたのですが、五年前から物価が下がってきました。いままでは政府も物価は下がっても年金までは下げませんといってきたのですが、今年はじめて、年金を0・9%(昨年の物価下落分)下げたのです。
しかも年金だけではなく、障害者の障害年金も、母子家庭の児童扶養手当も、原爆被爆者の被爆者手当も、生活保護費も下げた。不況でつらい目にあっている人たちに、本当にひどいしわ寄せをしたのです。そして来年もまたこれをやる。それも、九九〜〇一年の1.7%に〇三年の見通しの0.4%を合わせて、2・1%も年金を下げるというのです。年金額にすると八千億円です。
こんなことをしたら、景気をいっそう冷え込ませてしまいます。
若い世代はもうもらえない?
若い人には、高い保険料をとられてるのに、もう僕らの世代は年金なんてもらえないでしょうという声、多いんですね。いまの政府が信用できないということが根底にあるからです。「国が責任をもつ」ということが明確にならなければ、こうした不信はなくならない。
今回の財務省方針では、年金は最低限の支給にとどめ、「負担した金額が年金として給付される制度を目指す」といっています。これでは保険会社の「年金保険」と何ら変わりませんね。
二〇〇一年、小泉総理は就任直後に出した「骨太」方針で、「社会保障の個人会計」ということをいっていますが、まさにその考えです。国は社会保障に責任をもつ必要はないという議論ですね。竹中平蔵さんなどは典型で、『みんなの経済学』という本で「これからの老後は貯金しているかどうかだ。年金も介護も本当は自分で備えるものなのだ」と。
二割をこした貯蓄ゼロ世帯は、みな個人の責任だというのでしょうか。
団塊世代から上はイナゴだ!?
そして国の責任逃れのために、「若い世代は損をする、いまの年寄りは得している」と世代間の対立をあおる。「団塊世代から上はイナゴ世代だ。食えるものは何でもかんでも全部食い尽くして死んでいくぞ」とまでいっている。これは本当に社会保障を歪めていく議論です。
いまの高齢者は、ものすごい経済成長時代を働いてきた。その間経済は急激に発展し、年金制度も国民の運動で充実してきたのだから、払った保険料より年金の額が多くなるのは当然のことなのです。
しかもいまの高齢者世代は、社会保障制度が整っていないなかで親を扶養しなければならなかった。いまは不十分ではあるけれど、年金制度も介護保険制度もできています。それを充実させることこそが、差し迫った課題なのです。
年金問題は自分が損か得かだけの問題ではけっしてないし、そもそもいまの若い人でも絶対損にはならないのです。国や事業主の負担があるから、自分が払った保険料より少ない年金ということはありえません。
財界などは意図的に年金不信をあおり、公的保険を解体して年金を民営化し、企業の保険料負担を一気になくそうと企んでいます。こうした宣伝に惑わされないことが大事だと思います。
小泉「改革」のポイント
保険料は大幅引き上げ
厚生年金の保険料は現在、年収の13・58%(労使折半)。これを年収の20%にまで引き上げる。表のように20%になるまで毎年引き上げ、そこで保険料は固定して、あとは保険料収入の範囲内に、給付を抑えこむ(保険料水準固定方式)。
国民年金も現在の月1万3300円を毎年引き上げ、1万8100円にする。ただしこの額は、基礎年金への国庫負担の割合を、現在の3分の1から2分の1に増やした場合のこと。国庫負担の割合を増やさなければ、国民年金の保険料は1万円アップされ、月2万3100円になる。
国民年金はいまでも保険料が高く、加入者の4割が滞納しているのが現状。
給付額は自動削減
保険料収入の変動にあわせ、年金給付額も、いちいち国会にかけずに自動的に引き下げられるようにする。
現在の受けとり額は、現役世代の手取り賃金のほぼ59%。それを50%台半ばから、40%程度(塩川前財務大臣)に下げる。
支給開始年齢も引き下げ!?
総裁選のなかで小泉首相は「年金の支給開始年齢も見直す」と明言。60歳からだったのを65歳からにしたうえ、さらに遅らせるというもの。財務省も「寿命がのびた分の財源がない」といっています。
まず国庫負担の引き上げを
やるべきことは、もうはっきりしているんです。まず国庫負担の引き上げです。
基礎年金に対する国庫負担がいま三分の一ですが、これを二分の一に引き上げる。四年前の年金改定のとき、やらねばならなかったのを先送りしたのですから今回はやらなくてはいけないのです。
ところが今度は、消費税を上げなければ財源がないといいだした。消費税でやるなんて、誰も決めていないんです。
該当する額は二兆七千億円といわれていますが、公共事業のムダを見直すとか、五兆円の軍事費を減らすとか、政党助成金をやめるとかあらゆる手段を使って歳出の見直しをし、約束を果たすべきなのです(表1)。だいたい銀行にはもう公的資金を三三兆円以上つぎ込み、うち一二兆円は返ってこないことが確定している。税金で穴埋めするんです。
表1 税金の使い道をただせばこんなに財源が生まれる!
不公平な税制をただす会の2003年試算
1. |
無駄な公共事業をやめ、公共投資の再構築をすすめる |
14兆3977億円 |
2. |
特殊法人の整理統合 |
5031億円 |
3. |
機密費の全廃 |
54億円 |
4. |
ODAを半減する |
4098億円 |
5. |
世界第2位の軍事費縮小 |
1兆2400億円 |
6. |
国債・地方債の借り換えによる支払利息縮小 |
3兆3286億円 |
7. |
政府交付金の廃止 |
317億円 |
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削減額計 |
19兆9163億円 |
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積立金を計画的に取り崩して
二つめが、積立金です。日本の積立金は諸外国と比べて異常に多く(表2)、〇二年度末で一七〇兆円もあります。これを計画的に取り崩していくことです。
日本の年金(厚生年金)ができたのは、一九四一年、第二次世界大戦の直前です。戦費調達のために年金制度をつくった。医療保険もそうですね。掛け金を集め、戦争の費用にしたのです。
戦後はというと、財政投融資にまわして大型公共事業に使ってきました。
二〇〇一年からは、積立金の一部で株式投資をはじめました。これによって去年一年間だけで三兆六〇八億円もの赤字を出した。累積の利差損では六兆七一七億円の赤字です。しかもじつは、これは大企業の株価を支えるための投資なのです。こんなばかげた話はない。
年金の積立金を株に使うことはアメリカでも否定されています。クリントン政権のときにやろうとして猛烈な反発を浴びた。老後の資金を株式投資などという危険にさらすなんて許されない。そもそも国が巨大な株主になるなんて資本主義社会のルールからしておかしいと。非常に筋の通った話ですよね。そのルール違反を日本はやっている。
積立金は国民の老後の資金です。
団塊の世代のヤマを乗り切れば、年金財政も安定します。その意味でも、年金を社会保障にするのか個人勘定にしてしまうのか、いまががんばりどきだし、チャンスでもあります。
坂口厚労相の試案では、やっと、積立金を使うといいはじめました。ただ、坂口試案は、いまの五年分を少しずつとり崩して、約百年後に一年分残すという、気の遠くなるような話です。本気で積立金を活用するなら、間尺に合わない。
表2
無年金者つくるな
もう一つ目を向けなければいけないのは、無年金者、低年金者の問題です。自営業者などで国民年金の保険料が高くて払えないという人がいっぱい出ていますし、若者も正規雇用ではなくフリーターや派遣労働などがふえ、年金を払っていないという人が多い。このままいくと、無年金や極端な低年金の人たちが大量に生まれてしまいます(表3)。
日本では保険料を二五年間払わないと年金がもらえませんが、先進国でこんな国は他にありません。ヨーロッパではその国に住所さえもっていれば、国籍がなくても最低保障の年金が出ます。日本でも、最低保障年金制度を、本気で考えていくべきだと思います。
表3
消費税増税は大企業減税だ
もちろん一定の財源が必要になってきますが、これはけっして消費税でやるということにはすべきではない。消費税を社会保障の財源にするというのは、導入時からの大ウソで、大企業の税負担を軽くするのが一番の目的なのです(表4)。
いま政府税調も消費税は最低10%といっていますが、これも法人税減税との抱き合わせです。
大金持ちの所得税や大企業の法人税などをどんどん減税するのをやめ、持っているところからしっかり取る。そして税金のムダづかいをなくし、財源を確保していくべきです。
表4
年金“危機”の大前提は失業増と少子化。
この前提にメスを入れてこそ
リストラ・少子化が前提では
大前提として、年金問題の最大の危機というのは、出生率が落ちて子どもがどんどん減っている、倒産・リストラで働く人が減っているということでしょう。この現状を前提に設計すると、削減という勘定しか出てこないのです。
しかし厚生年金の加入者が減ったのは、政府が率先してリストラを奨励し失業者が増えたためですからね(表5)。ここにこそ、メスを入れるべきです。
子どもを育てながら安心して働ける条件づくりをし、女性の働き手を増やしていく、高齢者でも元気な人は働く場をしっかり保障していく。そうすればその人たちが、掛け金を払い、年金制度の支え手になっていくわけです。子どもが増えていけば将来の年金の支え手も増えていくのです。
本当に、日本をどんな国にしていくのかという問題なんですね。
表5 2年間で6兆円ものマイナス
(99年度に立てた政府見通しと比べて)
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リストラで減税!?「産業活力再生法」
リストラすれば金融・税制上の優遇措置が受けられる「産業活力再生法」。99年、自民・公明・自由の賛成で成立し、ことし4月には保守新・民主も賛成し適用が拡大されました。減税額が大きかったのは大銀行グループで、みずほ・三井住友・三菱東京・UFJ・りそなの5グループだけで、650億5100万円も減税。人員削減は3万3000人(予定ふくむ)に。
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9条かえねば米国の要求に応じきれないところまできた
明文改憲へ超タカ派人事
小泉さんはうまくマスコミを利用して「自民党をぶっ壊す」といって総理になり、自民党内部に「抵抗勢力」という敵をつくって、それとたたかっているような雰囲気を演出し続けてきた。今回の総裁選もそうですね。
ところが、改革、改革といって、実際にやったのは、医療費の負担増。国民に痛みを押しつけることだけは徹底的にやった。そして今度は年金です。消費税増税も三年後にはやる準備をしている。
小泉さんのいう構造改革は徹底した弱肉強食路線で、国民の暮らしを壊す、日本を荒廃させる政治です。このことにみんな少しずつ気づきはじめています。
憲法も、〇五年一一月と期限を決めて改憲案づくりを指示しました。自民党役員人事で、自民党幹事長に安倍晋三氏、副総裁に女性スキャンダルで敗訴している山崎拓氏をあえて据えたのも、改憲路線推進のためです。安倍氏は現憲法を「戦後の呪縛」と攻撃し、核兵器の保有や使用までよしとする超タカ派です。
明文改憲しなければアメリカの要求に応えきれないところまできたんですね。追い込まれているのは自民党のほうだと思います。
属国日本でいいのか
これまでずっと「日本は武力行使をしない、戦場にはいかない」といいつづけ、それを最後のよりどころにしていたのですが、アメリカに一喝されてイラクにいかざるをえなくなった。しかし、イラク攻撃に何の正当性もなかったことが明らかになり、米兵への襲撃も毎日のように続いています。国民は、自衛隊のイラク派遣に、きびしい目を向けています。
政府ももう、かなり開き直って、アメリカいいなりだと自認していますね。
久間章生元防衛庁長官は「朝日」紙上でこんなことをいっている。「日本は米国の何番目かの州みたいなものだから」「正しいことだけ言っていればいいのではない。実力から言って今は米国について行かざるを得ない」…。
こうまでいわれたら、みんな「いや、そうじゃないんじゃないの」と思うでしょう。こんな「属国日本でいいのか」と。私はやはり日本の世論というのは、劇的に変わる可能性があると思います。
社会保障は、国民の権利であるだけでなく、平和と人権をまもる積極的な保障です。医療費の負担増を一つ一つ押し返し、暮らせる年金にしろと大きなたたかいをしていきましょう。