介護保険の 3 年間でなにが明らかになったか
政府は、介護保険導入の目的を、「家族介護から社会が支える制度へ」、「在宅で安心できる介護へ」、「サービスが選択できる制度へ」などと大宣伝しました。すでに 3 年が経過しようとしていますが、現実はどうでしょうか。
在宅サービスの利用状況でみると、利用限度額にたいする平均利用率はいっかんして 40 %程度にとどまっており、介護が必要と認定された人も 5 人に 1 人以上、約 70 万人がサービスを利用していません。これは施設サービスの利用者数に匹敵する人数です。重大なことは、低所得者の利用が低下していることです。内閣府の研究報告(「介護サービス価格に関する研究会」、02 年 8 月)によっても、訪問介護サービスの利用者数は、全体では増えているのに、低所得者は制度の導入前と比べて逆に 10 %も減っています。
政府は、利用者が増えたから、「介護革命と呼んでもよい状況」などと自画自賛していますが、実際にサービスを利用している人でも、「在宅で安心できる介護」の水準にはほど遠く、いぜんとして家族介護に大きく支えられているのが現実です。その最大の理由が、重い利用料負担にあることは、各種の調査をみるまでもありません。
こうしたなかで、この 3 年間で特養ホームへの入所を希望する人が急増しました。入所を待っている人は、3 年前と比べて各地で倍増しており、施設整備も追いつかず、いまやどこでも入所までに 2 年待ち、3 年待ちといった状況があたりまえになっています。政府の当初の看板は完全にはげおちています。在宅もダメ、施設もダメというのでは、まさに介護保険の存在意義そのものが問われる事態です。
日本共産党は、過去 4 回にわたって介護保険改善の提案をおこなってきました。その中心点は、介護給付費への国庫負担を現在の 4 分の 1 から 2 分の 1 に引き上げることです。国の負担を引き上げることは、サービス量や事業者への介護報酬が上がれば、保険料・利用料の負担増に連動するという、介護保険制度の根本矛盾を解決し、介護を受ける人も、介護を支える人も、ともに安心できる制度にするための要の課題だからです。日本共産党は、抜本的改革のためにひきつづき全力をあげるとともに、今年 4 月からの見直しにあたって、以下、緊急に次のことを要求します。
1 、保険料の値上げを中止し、免除・軽減制度を拡充する
(1)4 月からの保険料値上げを中止するため、国の負担を 30 %に引き上げる
いま各自治体で、この 4 月から向こう 3 年間の 1 号被保険者(65 歳以上の高齢者)の保険料が決められようとしています。厚生労働省の調査(02 年 6 月時点)によると、保険料が全国平均(月額)で 1 人 2911 円から 3241 円(11 ・3 %増)に上がり、高齢者の負担増は 1100 億円になります。2 号被保険者(40 歳から 64 歳)の保険料も値上げが計画され、これをあわせると、介護保険だけであらたに約 2000 億円の負担増です。国民の暮らしを痛めつけ、景気をさらに冷やすことは明白です。日本共産党は、介護保険料の値上げに反対するとともに、値上げを中止するためには、なによりも国が第一義的な責任を果たすべきであると考えます。
現在、介護保険への国の負担は給付費の 25 %とされていますが、このうち 5 %は、後期高齢者の比率が高い自治体などに重点的に配分される調整交付金です。全国市長会、全国町村会も、この調整交付金は 25 %の外枠にして、すべての自治体に最低でも 25 %が交付されるよう、繰り返し要望しています。国の負担を 5 %引き上げれば、約 2400 億円(03 年度予算)の財源が確保され、4 月からの 2000 億円の保険料値上げを中止することができます。当面、4 月からの保険料値上げをやめるために、国庫負担割合を緊急に 5 %引き上げ、30 %にするよう国にもとめます。
(2)自治体も積立金を取り崩すなど、保険料値上げを抑える努力を
介護保険開始の初年度(2000 年度)は、多くの自治体で利用が伸び悩み、当初予算の 85 %にとどまりました。そのため、使い残した予算は初年度だけでも約 1700 億円にのぼり、全国の自治体で「介護給付費準備基金」として積み立てられています。01 年度も利用が当初予算を下回っているため、2 年間の積立金は優に 2000 億円を超えるものと見込まれます。これは高齢者の保険料値上げ総額(1100 億円)の 2 年分に匹敵します。東京都下では、住民運動と日本共産党の奮闘で積立金を取り崩すなど、保険料を据え置く自治体が 13 自治体にひろがっています。それぞれの自治体によって、財政状況に違いがありますが、積立金の活用など、保険料の値上げを抑えるための可能な努力がもとめられています。
赤字市町村の借金の返済期間を延長し、保険料値上げを中止する
介護保険会計が赤字になり、都道府県の「財政安定化基金」から貸付をうけている自治体も、01 年度で 390 自治体、全保険者の 14 %になっています。これらの自治体は、貸付金の返済期間が 3 年以内とされているため、今年 4 月から借入額を高齢者の保険料に上乗せして徴収することになります。自治体からも改善の声があがり、政府は昨年 12 月、都道府県が認める場合には、返済期限を 6 年または 9 年に延長できるという特例措置を決定しました。赤字市町村での保険料値上げを中止するために、これらの市町村と都道府県がこの特例措置を最大限に活用することをもとめます。同時に、市町村が一般会計からの繰り入れもふくめ、値上げ凍結のために独自の努力をすることが重要です。
(3)保険料の実効ある免除・軽減制度は制度存続の不可欠の条件
この 3 年間で、独自の保険料減免制度をつくった自治体は 431 にひろがっています。住民運動と日本共産党の奮闘の成果です。しかし、多くは、わずかな預貯金があれば減免の対象にしないなど条件がきびしく、ごく少数の人しか適用されていないのが実態です。
こうした事態を打開するうえで、厚労省のしめつけをはねのけることが決定的に重要です。厚労省は、①保険料全額免除は不適当、②資産状況等を把握しない一律減免は不適当、③一般財源の繰り入れは不適当という、いわゆる「3 原則」を自治体に押しつけています。しかし、介護保険は市町村の「自治事務」であり、ほんらい国の権力的な関与がおよばないものです。じっさい、日本共産党の追及にたいして、政府も「3 原則」は「地方自治法上従う義務というものではない」(02 年 3 月 19 日、参院厚生労働委員会)と認めています。高齢者の 76 %は住民税非課税者です。低所得者対策を確立することは、介護保険存続の不可欠の条件であり、ほんらい国の責任です。責任は棚上げして、自治体の努力に水をさすような干渉はゆるされません。全国の自治体で、政府のしめつけをはねかえし、真に実効ある保険料の減免制度をつくることがますます重要になっています。
2 、高齢者が安心して在宅で暮らせる条件を整備する
多くの高齢者は、介護が必要になっても、できることなら住みなれた自宅で過ごしたいと思っています。実態はすでにみたとおりであり、介護疲れによる悲惨な事件すら後を絶たない深刻な状況です。高齢者の願いにこたえて、在宅で安心して暮らせる社会的条件を整備することは、施設不足の解消にも役立ち、結果的には介護費用の節減にもつながるものです。そこで、当面、次の 3 点を実現するようもとめます。
在宅サービス利用料の免除・軽減制度を拡充する
一部の高所得者は別として、介護保険で在宅生活が続けられない最大の障害は、サービスごとに支払う 10 %の利用料負担です。政府は、4 月から介護報酬を改定し、施設を引き下げ、在宅を引き上げようとしています。これが利用料に連動し、「在宅から施設へ」という傾向に拍車をかけることは明白です。利用料の免除・軽減制度の整備は切実な課題です。
国がまともな対策をとらないなかで、独自の利用料減免制度は、全国の 4 分の 1 にあたる 825 自治体にひろがりました。東京・武蔵野市は、訪問介護、通所介護、通所リハビリの利用料を所得制限なしで一律 3 %に軽減しています。この結果、在宅サービスの利用率は、全国平均を約 10 %も上回っています。このときに、政府は、「特別対策」として実施している低所得者の訪問介護の利用料を、現在の 3 %から 6 %に引き上げ、わずか年間 10 億円程度の国費を削ろうとしています。絶対にゆるされません。国は計画を撤回し、当面の低所得者対策として、すべての在宅サービスの利用料を 3 %に軽減するようもとめます。同時に、市町村でも、これまでの成果のうえにたち、利用料減免のサービスと人数の対象を拡大し、実効ある減免制度を全国にひろげていくことが重要です。
昨年 10 月から高齢者医療が改悪され、負担増のため在宅医療が受けられない事態がひろがっています。在宅医療や訪問看護が負担の心配なく受けられるようにすることも、在宅生活を支えるうえで不可欠の条件です。介護と医療の連携という視点から、国、自治体が特別に負担軽減をはかる措置をとるようもとめます。
短期入所(ショートステイ)の緊急用ベッドを確保する
いま短期入所(ショートステイ)は、数ヶ月前でも予約がむずかしく、どこでも 2 ヶ月待ち、3 ヶ月待ちといった状況です。施設事業者が経営難からベッドを空けておけない事情も、利用難に拍車をかけています。これでは、家族の急病などの事態に対応できず、高齢者はますます在宅での生活が困難になります。
そこで、高齢者・家族の緊急事態に対処できるように、自治体がショートステイのベッドを一定数買い上げるなど、常時確保しておくことが重要です。そのために国・都道府県の財政支援をもとめます。また、通所介護(デイサービス)の時間延長など、高齢者・家族の実情に応じた改善も必要です。
利用限度額を見直し、必要な介護サービスを受けられるようにする
介護保険の導入前までは、60 万円、70 万円に相当するサービスを受けて、在宅で生活をおくる重度の高齢者もめずらしくありませんでした。しかし、介護保険制度のもとでは、サービスの利用限度額は最高でも 36 万円であり、限度額を超える費用は全額自己負担です。そのため在宅生活を断念する人も少なくありません。長野・泰阜村は、限度額を超える費用を村が全額支給し、高齢者の在宅生活を支えています。
当面、重度の高齢者(要介護度 4 、5)については、利用限度額を撤廃するよう国にもとめます。同時に、都道府県・市町村が限度額を超える自己負担分の助成措置を検討することをもとめます。
3 、量・質ともに介護サービス基盤の整備、充実をはかる
在宅か施設かを真に選択できるようにするためには、施設整備もまだまだ遅れているのが実態です。向こう 3 年間で、在宅で生活できる条件を整備するとともに、地域の実情にあわせて施設整備をすすめることや、サービスの質の向上にとりくむことが重要です。
特養ホームなどの増設を計画的にすすめ、地域の生活を支える基盤を整備する
特養ホームは、在宅で生活する高齢者にとっても、介護を支える家族にとっても、いざというときの支えであり、中核的な施設です。ひきつづき特養ホームを計画的に増設し、待機者の解消をはかることが重要です。
政府は、今後 3 年間の施設整備については、高齢者人口比で 3 ・5 %を整備するという目標(参酌標準)をしめし、自治体への指導をつよめています。このうち、特養ホームは 1. 5 %という水準です。この指導に従えば、地域によっては、いまでも足らない特養ホームを減らさなければならなくなります。各自治体は、政府の参酌標準によってではなく、地域の実情に即して特養ホームの整備をすすめるべきです。そのさい、自治体として、高齢者や家族の緊急事態に対処できるよう、一定数のベッドを確保することも重要です。特養ホーム以外にも、グループホームや生活支援ハウスなどの多様な生活の場をまちなかに整備することが必要であり、自治体の積極的な努力をもとめます。
介護職員の労働条件を改善する
登録ヘルパーやアルバイトなど、介護職員の非常勤化がすすみ、低賃金、無権利な非正規職員が急増しています。介護保険の 3 年が、家族と介護職員の犠牲のうえにあるといっても過言でない状況です。登録ヘルパーは、財政的な裏づけがなく、自宅と要介護者宅を往復する、いわゆる「直行直帰」の勤務形態をよぎなくされ、介護の引継ぎがされないなど、サービスの質にも影響が生まれています。介護職員が誇りをもって、最善のサービスを提供できるようにするためにも、介護職員の労働条件改善は避けて通れない課題です。
そのためにも、国は 3 年計画で国庫負担を引き上げ、介護報酬を適切に引き上げることをもとめます。また、事業者の指定の厳格化や住民による第三者評価などをおこなうとともに、サービスの向上につとめた事業所が報われるような支援制度も重要です。国、自治体は実態を把握し、積極的な改善策をとるべきです。
4 、介護・福祉にたいする自治体の公的責任をとりもどす
介護保険の導入とともに、市町村が公的責任を放棄し、介護サービスの提供から撤退する、介護の相談、訪問、助言をケアマネジャーに丸投げするという傾向が主流になっています。そのため、ケアマネジャーも深刻な悩みをかかえています。
こうしたなかで、痴呆症や精神障害者、家族に判断能力がない人など、いわゆる「処遇困難」な高齢者は、民間事業者の手に負えず、介護保険から抜け落ちたまま放置されるという事態が生まれています。東京・世田谷区や大田区などは、自治体がみずから「訪問介護事業者」になり、こうした「処遇困難」な高齢者に直営のサービスを提供しています。こうした困難なケースは、介護、医療、福祉などの連携が不可欠であり、自治体以外の対応は不可能です。介護保険のもとでも、措置制度の活用が老人福祉法で規定されており、これは自治体の責任です。また、実践を通じてこそ、自治体もケアマネジャーなどの苦悩がわかり、介護職員を支える体制づくりの重要性も認識できます。
自治体は、いまこそほんらいの役割を想起し、介護サービスの提供もふくめ、すべての住民が必要な介護・福祉サービスを受けられるよう、その先頭に立つことをもとめます。
地域で高齢者の生活を支えるためには、介護保険だけではきわめて不十分です。自治体独自の福祉施策がますます重要になっています。自治体が公的責任を最大限に発揮することが、いまあらためてもとめられています。