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どうみる 医療事故調査機関(上)
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―医療事故の現状は。
小池 医療事故件数について、政府は公式な統計をとっていません。『医療崩壊』の著者・小松秀樹医師は、勤務する虎ノ門病院のデータからの推計として、年間一万三千件から二万六千件にのぼるとしています。
国民的な大問題であるにもかかわらず、日本には、医療事故をめぐる問題解決を専門的におこなう公的機関が存在していません。このため、医療事故が起こると、警察による、「犯人探し」「処罰」を目的にした責任追及のみになり、原因解明や再発防止は“二の次”になりがちです。その結果、事故の教訓が普及されずに、さらなる事故を生むという悪循環になっています。
さらに事態を複雑にしたのが医師法二一条の適用拡大の動きです。同条には、“医師は、死体に異状があると認めたとき、警察に届けなければならない”とあります。この条文は、もともとは殺人事件などを想定したもので、医療事故を対象にしていないというのが、以前の政府の解釈でした。しかし、「異状」の定義がないために、混乱がおこり、現在では医療事故にも運用が拡大されるようになっています。
二〇〇六年には、福島県立大野病院で出産後の女性が大量出血で亡くなり、産科医が同法二一条違反などを理由に逮捕されるという事件が起きました。この事件に対し、産科医だけでなく多くの医師が「懸命におこなった治療行為で逮捕されるのでは診療が続けられない」という声をあげました。
こうした現状を放置すれば、医師不足や医療の危機をいっそう深刻にさせます。それは患者・国民の願いにも反するものだと思います。それだけに、医療事故に対応できる法整備と公的機関設置が求められているのです。
―日本共産党はどう取り組んできましたか。
小池 早くから医療事故のための公正中立な第三者機関の設置を求めてきました。私は、〇一年四月三日の参院厚生労働委員会で質問しました。船の事故の場合は海難審判庁があり、航空機事故などでは事故調査委員会があることなどをあげて、外国にもあるような医療事故の原因究明と再発防止を主たる目的にする第三者機関の設置を提起しました。
この間の選挙政策や、昨年二月に発表した「医師不足打開提言」でも、医療事故の第三者機関の創設を求めてきました。
―政府などの動きは。
小池 厚労省は昨年、「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」をつくり、昨年十月に「第二次試案」を出しました。自民党も昨年十二月に試案を出しています。開会中の通常国会に法案提出の動きもあります。
厚労省案と自民党案には、いくつかの論点があります。
一つは、第三者機関をどこに置くのかという問題です。両案とも、厚労省に置くとしていますが、機関の中立・公正性が保たれるか疑問です。外国では、医療行政の監督官庁とは独立している場合が多くなっています。
二つ目は、届け出の対象です。両案とも死亡事例に限っていますが、重い障害が残る医療事故も加えるべきだという議論もあります。また、どのようなケースを「事故」として届け出るのかも不明確なまま、届け出を義務にして、罰則まで設けていることも問題となります。
三つ目に、刑事手続きとの関係です。厚労省案では調査報告書が「刑事手続で使用されることもありうる」としたため問題になりました。自民党案は、刑事手続きの対象を「故意や重大な過失のある事例」に限定するとしました。「故意」は当然としても、「重大な過失」とはどこで線を引くのかという難しい問題があります。
警察の関与については、航空・鉄道事故調査委員会でも、警察の捜査が真相究明の妨げになったことが指摘されており、慎重な対応が必要です。
四つ目に、遺族・被害者・家族の声を反映させるためにはどのような仕組みが必要なのかという問題です。
このように、まだ多くの論点が残されています。(つづく)
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