報復戦争は憎悪を拡大するだけ
米国は攻撃中止し「テロ許さず」の国際世論の集結を
(全日本民医連発行「いつでも元気」12月号より転載)
テロに乗じて「自衛隊派兵も医療改悪も」の小泉内閣
激しさを増すアメリカのアフガン攻撃。世界を震撼させた同時多発テロから日がたつにつれ、「テロも戦争も反対」の声が世界に広がっています。テロ根絶に必要なことは? 日本の対応は? 浅井基文さんと小池晃さんに話しあっていただきました。
(10月14日対談)
小池 あの同時多発テロが起きたころじつはアメリカ上空を飛んでいまして。
浅井 え、そうだったんですか。
小池 参議院の超党派の調査を終えて九月一一日、カナダのオタワからシカゴ経由で帰国する予定だったのです。朝九時発のアメリカン航空シカゴ行きに乗って、三〇分くらいしたら、飛行機が急にUターンして、「アメリカで国家安全保障上の重大事態が起こった。全米の空港が閉鎖されたのでオタワに戻る」とアナウンスがあったんです。
オタワに戻ったら、もう、あの世界貿易センターに飛行機が突っ込む画像が流れていて、本当に背筋が寒くなりました。
◆ブッシュの初動ミス止められず
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小池晃さん
日本共産党参議院議員
(全日本民医連理事)
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浅井 あの映像はものすごい衝撃でしたね。「このテロは絶対に許せない」と、国際世論が大きく傾いた原因の一つに、あの生々しい映像があることは間違いありません。
小池 しかし、アメリカがテロの首謀者とみられるビンラディンを「洞くつからあぶり出し捕まえるため」といって空爆をはじめてしまったことは、テロに対する国際的な包囲網をつくるのを非常にむずかしくしてしまったと思います。
浅井 アメリカは初動ミスをした、最初の診断を誤ったと思いますね。事件が起こってすぐ、ブッシュは「これは戦争だ」といってしまった。そしてビンラディン一派とそれをかくまうタリバンは同罪だといって、アフガニスタンに対する空爆をはじめてしまったわけです。
しかしあれはテロリズムという犯罪であって国家間の戦争ではありません。
ブッシュがかーっとなって「報復戦争」に突っ走ったとき、「ちょっと頭を冷やせ」とストップをかける勇気を、どこの国ももてなかった。それがほんとうに残念ですね。あの映像があまりにもショックだったから、ということはありますが、あれに匹敵するようなむごいことは、じつは世界中で起きているんですけれど。
小池 日本共産党は、国連が中心になって国際社会が協力しあい、テロ犯罪の容疑者を逮捕し裁判にかけ、法にてらして厳正に処罰する。その道を開くべきだと主張し、各国政府に呼びかけています。
◆一般市民の被害を当然視
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浅井基文さん
明治学院大学国際学部教授
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浅井 そのとおりですね。戦争は、犯罪に対する対応じゃありません。
国際テロリズムの本質は何かというと、最重要基準は「無差別殺戮」ということです。ですからあの事件は明らかにテロリズムです。何の罪もない市民を無差別に殺戮した、許すべからざる犯罪です。
しかし、たとえばイスラエルがパレスチナに対して行なっている無差別攻撃。あれは国家テロリズムといわれますね。私は今回のアメリカの行動も、国家テロリズムではないかと思うのです。
なぜこんなことをいうかというと、軍事攻撃の標的はタリバンだ、ビンラディンだ。そこに絞って、精密兵器で攻撃するんだというアメリカの言い分を、日本政府などはそのまま受け入れてしまっているでしょう。しかし湾岸戦争でも旧ユーゴ空爆でも精密兵器が使われて、なんの罪もない市民が巻き込まれているわけですよ。
しかも今回は、ラムズフェルド国防長官が記者会見で「どのような紛争においても、意図しない損害はある」といって、一般市民の被害を当然視しているんですね。目的がはっきりしているからというだけで、こんなことが正当化できるのか。
そうしたらテロリストにだって大義名分はあるわけですよ。
一発か二発、ビンラディンの住みか目がけて撃ち込むというなら、まだ何らかの説明がつくかもしれないけど、アフガニスタンという国を対象にしたこれだけ大規模な軍事行動になってくると、これは「自衛権の行使」という範囲を完全に逸脱しているし、その本質は限りなくテロと同じだと思うのです。
小池 「民間人の死傷者は九月一一日のテロ攻撃での米人犠牲者と比べるべきだ」とまでいっていますからね。これはもう、国連が禁じている復仇そのものです。
浅井 正真正銘の仇討ち、「やくざの果たし合い」と同じですね。
小池 どこかの国のテロリストが東京に潜んでいるからと、東京にミサイルを撃ち込む。それと同じことですからね。テロリストを追いつめる国際的合意をつくるためにも武力行使をやめなくては。
◆事件の本質に目を向けて
浅井 軍事行動では問題解決はできっこありません。ビンラディンを仮につぶしたとしても、タリバン政権をつぶしたとしても、第二第三のビンラディンが出てくる。私は今回の事件の本質を、しっかり見ておく必要があると思います。
一つは政治的本質です。ビンラディン自身が事件後に流されたビデオでもいっていますが、イスラムの聖地にアメリカ軍がいるのが絶対に許せないと。
小池 サウジアラビアの聖地ですね。
浅井 ええ。彼はもともとサウジの人ですから。これをさらにさかのぼると、アラブの人たちのアメリカの中東政策に対するものすごい不信感といいますか、敵意があるわけです。アメリカは戦後一貫して一方的にイスラエルを庇護し、アラブ諸国を不当に敵に回してきました。
その敵意がイスラムの過激派の教義に結びついたとき、自分の命を捧げても、という、アメリカに対する絶望的な異議申し立てになったと思うのです。
もう一つは経済的本質です。世界銀行の総裁が「インターナショナルヘラルドトリビューン」という新聞に、今回のテロを生み出した根本の原因の一つは貧困であるといっているのです。これは私もうなずけます。
アラブ諸国の民衆だけでなくて、パキスタンとかインドネシアとかマレーシアの民衆が、なぜウサマ・ビンラディンを支持するのか。これらの国ぐにでは、アメリカを中心とする先進諸国につごうのいい世界経済体制によって、貧しい人びとにさらに貧困が押しつけられている。その現実があるからですね。
この二つの本質に国際社会が正面から向きあわない限り、テロ問題の根本的解決にはならないと思います。
◆テロへの国際的対応は
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「戦争NO!平和を」
米英軍による激しいアフガン空爆が続いた10月13日、14日、ヨーロッパ各地で空爆反対の集会・デモがあった。イタリアで25万人、ロンドンで4万人、写真はドイツ、ベルリンの3万人のデモ(提供:ロイター・サン) |
小池 一刻も早く武力報復をやめよ。この世論も、日に日に大きくなっています。テロ犯罪に対する国際社会の対応としては、八八年のパンナム機爆破・墜落事故など、かなり蓄積がありますね。
浅井 そうです。
小池 あれは爆破されたのがアメリカの飛行機で、爆破が起きたのがスコットランド上空、容疑者はリビアにいたということでした。通常は容疑者は事件の起きたところに引き渡されて裁判を受けるということのようですが、あれはオランダで裁判をしていますね。
浅井 リビアがアメリカには絶対に容疑者を渡さないということでしたから。裁判地は第三国のオランダで、裁判そのものはスコットランドの法廷で、という非常に国際的な知恵の結晶ですね。
国際法は国内法と違って、具体的なケースを裁く確固とした法律があるというわけではないので、当事者の暗中模索によって合意点に達して、そこで解決しましょうということになるわけです。
容疑者引き渡しに至るまでには、それこそリビアに対して長年にわたって国連安保理で決議をして、経済制裁を加えた。最終的にリビアも悲鳴をあげて、何とかメンツがたつ形で容疑者を引き渡したわけでしょう。今回もアフガニスタンに対してそれをやるべきだったのです。
◆タリバンと交渉できたのに
小池 やるべきことをやらずに、もうひたすら自衛隊を参戦させたいというのが、いまの小泉内閣です。
私、アフガニスタンと日本の関係を調べてみてびっくりしました。日本の外務省は、アフガニスタンとの関係を非公式なかたちではあったけれどもかなり持っていたんですね。アメリカは、タリバンと対立関係にある北部同盟のほうを承認していますが、日本はどちらとも中立的な立場をとっている。去年もタリバンと北部同盟側をそれぞれ東京に呼んで、話し合いをもち、内戦の停止とか直接対話をとか、外部勢力による干渉の停止とか日本から積極的な提言をしているというのです。ことしも六月に外務省の審議官がアフガニスタンにいって、タリバンの外務大臣と会っていると。
このような関係をタリバンともっている西側の国はあるかと聞いたら、日本だけだというのです。日本は欧米とは違い、政治的にも宗教的にも中東イスラムを攻めたことがありませんから、中立的な国だと見られていて、タリバンも日本に対しては一定の親近感を持っていると。 唯一そういう関係を持っている日本だったなら、今回それこそ憲法九条を掲げてアフガニスタンに乗り込み、タリバンと折衝する、交渉する。そういうことをなぜしないのですかと聞いたら、少し検討したのだが、やはりできなかったと。
浅井 アメリカが突っ走ると、外務省でほかの国を担当している局はもう動けなくなっちゃうんですね。
小池 もし日本がそういう形で乗り込めば、世界に対して「ショー・ザ・フラッグ(旗を見せる、態度を鮮明にする)」になったのにと思います。
◆恐怖状態には耐えられない
浅井 ほんとうにそうですね。
しかし、アメリカの今のやり方はそういつまでも続きません。テロリストはビンラディン一派だけじゃないし、アメリカが武力攻撃をつづける限りいろいろな形でやってきます。すでに炭疽菌パニックがおきていますが、こんな恐怖にいつまでも耐えられるわけがないのです。
小池 それなのに小泉内閣は、アメリカがアフガニスタン以外の国にも出ていこうが核兵器を使おうが、とにかくついていくという姿勢です。ストップをかける姿勢はまったくありません。
◆法を無視した小泉内閣
浅井 小泉首相の国会での答弁はひどかったですねえ。「憲法との関係を問われたら窮しちゃいますよ」とか「憲法前文と九条の間には隙間がある」とか。冗談ではない。こんな答弁を、行政府の長が国権の最高機関である国会に対してぬけぬけという。これはもう、軍国主義の精神とどこが違うのか。法による支配を完全に無視しています。憲法という最高法規を完全に無視している行為ですよ。
小池 いま日本がやろうとしている協力支援の中身は、NATOがやろうとしていることと同じです。NATOはそれを集団的自衛権の行使だといっているのですが、日本は集団的自衛権の行使ではないという。なぜかといえば、戦闘地域ではやらないからだと。もうこれだけです、小泉さんがいうのは。
浅井 防衛庁長官は「ミサイルが落ちたところは戦闘地域だが、撃つところは戦闘地域ではない」などと答弁していましたね。まったくの詭弁です。いままでは、皮一枚にしろ、国際的な目を気にしていたんです。今回恐ろしいのは、まったく主観的判断で、「他の人がなんといおうと、俺は知らないよ」と開き直っていることです。
小池 豚をイノシシだといえばイノシシだとまでいいましたから。
浅井 ええ。ですけれども決定的に間違っているのは、「集団的自衛権」という概念は、日本がそう解釈すればそうなんだということにはならないということです。これは国際法ですから。
日本が戦闘地域にいっていない、武力行使していないといったって、国際的に見て武力行使なら、タリバンにもそう見られるわけです。そのときタリバンに殴られても、文句はいえません。
小池 医療支援の問題も出ていますが、野戦病院なんていうのは戦場から遠かったら意味がない。戦闘地域のまっただ中のもっとも危険な活動になります。
◆国家機密法も医療改悪も
浅井 基本的には、五月の訪米で小泉首相はブッシュに軍事協力をする、集団的自衛権行使に踏み込むと約束してきているんですね。しかしなかなかうまくいかなかったわけです。おそらく私は今回の事件をこれ幸いと、突っ走っているのだと思います。
小池 もう一つ自衛隊法の改正もあるのですが、これは実質「国家機密法」なのです。もう懸案の課題を一気にやってしまおうということですね。
いま医療の大改悪も出てきていますが歴史をふり返ってみると、健康保険法ができたのは一九二七年、昭和二年なのです。できた当初は一〇割給付でした。
ところが太平洋戦争をはじめる昭和一七年に法改正し、翌年から一部負担を導入したんです。まさに戦争資金です。
いま、この報復戦争の動きのなかで、健保本人まで全部、三割負担にするという。戦争への道にすすむなかで国民の社会保障を切り捨て、「国家機密」で国民の知る権利や民主主義も制限する動き、ほんとうに警戒しなくてはと思います。
◆主権者として行動しよう
浅井 戦前の軍国主義の時代は私たちは「臣民」でした。だからあの時代の責任は問われようがなかった。いまは違います。私たちは主権者である。したがって、いかに小泉首相の暴走であるにしてもその法律ができ、海外派兵してしまった段階で、私たちは主権者として、それについて責任を負わなければいけないのです。
アラブ・イスラム諸国が日本に対して敵意を持つ。アジア諸国が日本を、もう徹底的に信用できないという。そのときの対象は一人小泉ではなく、私たち全員なんです。本当に他人事だと思っていたら国を誤る。そういうときに、いまきています。
小池 テロも戦争も反対、命を守れ医療を守れの声を結集していきましょう
▲ドクター小池の処方箋・目次
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