内閣総理大臣の諮問機関である社会保障制度審議会が、省庁再編に伴い50年間の活動の幕を閉じることとなりました。私は、98年参議院選挙での躍進により、日本共産党の国会議員としては22年ぶりの審議会委員となり、2年半にわたり参加してきました。 審議会活動の終了にあたって、今年3月に刊行された「社会保障制度審議会五〇年の歩み」に寄稿した文章を紹介します。 社会保障制度審議会50周年によせて 参議院議員 小池 晃 社会保障制度審議会50周年にあたり、”原点”である1950年の「社会保障制度えの勧告」をあらためて読み返してみました。 この「50年勧告」は、日本国憲法25条を高く評価してこう言います。 「これは国民には生存権があり国家には生活保障の義務があるという意である。これは、わが国も世界の最も新しい民主主義の理念に立つことであって、これにより旧憲法に比べて国家の責任は著しく重くなったといわねばならぬ。」 新憲法のもとで、新しい社会保障制度を確立する、理想に燃えた息づかいが伝わってくるような文章です。 それから50年後の今日、日本の社会保障制度は、まさに「危機的」ともいうべき状況にたちいたっています。この危機は社会保障の根幹である4つの社会保険に共通したものです。 年金保険はどうか。98年度に厚生年金の保険料収入が、史上初めて対前年度で減少しました。1943年の制度発足以来のことです。被保険者数、適用事業所数、標準報酬月額などが軒並み低下していることが原因です。低賃金とリストラ、倒産による保険料の減少が起こっています。 国民年金は、保険料を払えない免除者が98年度だけで41万人も増加、保険料納付率は対象者全体の6割を切り、ますます空洞化が進行しています。 医療保険はどうでしょう。政管健保は厚生年金と全く同様に被保険者数が減少しています。中小企業の倒産で、加入者が国保に流出しています。保険料収入の減少で、2000年度には積立金枯渇の恐れがあるとされています。 雇用保険は、いうまでもなく失業者の増加により、年間9000億円もの赤字を抱え込んでいます。 このように日本の既存の4つの社会保険制度は、軒並み危機的状況に陥っています。この春、5つ目の社会保険として介護保険が誕生しようとしていますが、ここでも、高すぎる保険料・利用料に対して国民からは悲鳴の声があがっており、前途は闇の中です。 こうした事態の底流に共通しているのは、社会保険の支え手である労働者、国民の生活の危機にほかなりません。雇用破壊がついに、社会保障制度の基盤まで掘り崩しはじめているのです。 しかし、今の政府が示す一連の制度改革が示す方向は、「給付と負担の均衡」の名の下に、負担増と給付減の連続です。弱っている社会保険の支え手に対して、さらに負担をかぶせ、給付を切り捨ててこの危機を乗り切ろうとする道をまっしぐらにばく進しています。これでは誰が見ても悪循環に陥ることは明らかではないでしょうか。 1979年度の社会保障制度への国の負担割合は29,9%でした。これが97年度には19,0%と約3分の2に切り下げられました。ここに今日の危機のみなもとがあると同時に、危機を乗り越えるカギを見いだすこともできます。大型開発優先の公共事業に、社会保障予算の2,5倍もつぎ込むという、世界に類をみない日本の財政構造を変えることこそ、今の深刻な事態を打開する唯一の道ではないでしょうか。 私は社会保障制度審議会に、日本共産党の国会議員としては1976年以来22年ぶりの参加となりました。98年参議院選挙の躍進をうけて審議会にその席を得、労働者、国民の声を代弁するべく意見表明に努めてきました。しかし、その審議会も今年で廃止となります。決して「歴史的使命を終えた」とは言いがたい情勢のもとで、残念なことであると思います。 21世紀に向けて、この日本という国に、国民が希望を持てるかどうか。その大きなカギを握っているのが社会保障制度です。日本国憲法25条の本格的な実現で、この国に生まれてきてよかったと言えるような社会めざし、今後とも全力をつくす決意です。
(「社会保障制度審議会50年の歩み」より)
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