赤旗2018年3月4日付
日本共産党の小池晃書記局長は2日の参院予算委員会で、森友学園疑惑、「残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)」と裁量労働制、「攻撃型空母」の保有問題を取り上げ、安倍政権の姿勢をただしました。約2時間にわたった質疑と、そのなかで明らかになった問題を2回にわたって詳報します。
「森友文書」
国会が求めた資料が書き換えられていた
8億円もの値引きが行われた学校法人「森友学園」(大阪市)との国有地取引で、財務省が作成し国会に提出した交渉記録が改ざんされていた疑いが急浮上しました。小池氏が質問に立った2日付で「朝日」が報じたものです。
問題の記録は、2013~16年に学園と土地取引をした際、財務省近畿財務局が局内の決裁を受けるためにつくった文書。契約当時作成された文書には、学園との取引について「特殊的な内容」「本件の特殊性」と記述され、財務省が国会答弁で否定してきた学園との事前の価格交渉についても「学園の提案に応じて鑑定評価を行い」「価格提示を行う」との記載もありましたが、昨年2月の問題発覚後に財務省が開示した文書ではこれらの文言が削除されていました。事実なら、政府自ら公文書を改ざんし、国会に虚偽答弁をしてきたという重大問題です。
小池 元の文書を出してください
(まともに答弁できず、何度も審議がストップ)
小池 麻生大臣、この元の文書を出してください。
麻生太郎財務相 現在、大阪地検において背任、証拠隠滅、公用文書の毀棄(きき)等々について告発を受けて捜査を受けている最中だ。いまのようなご質問に答えるのは、捜査にどのような影響を与えるか予見しがたいため、差し控えさせていただく。
小池 改ざんしてないなら、「ない」といえばすむ話ではないか。「捜査に影響がある」といって文書を出せないのは、あるということではないか。
財務相 捜査に影響がないと考えられるんであれば、その段階で必要があれば調べるということとさせていただきます。
「手元に資料がない」といって明言しない麻生財務相。「(元の資料は)近畿財務局にないということですか。財務省本省にないということですか」と事実を確認する小池氏に、太田充財務省理財局長も「捜査への影響」を口実に7度にわたり、「お答えを差し控えさせていただきたい」との答弁を繰り返しました。そのたびに質疑は中断。与党理事が何度も太田局長のもとに駆け寄り答弁を調整する場面が。「証拠隠滅だ!」などの怒りの声が委員会室に響きました。
小池 捜査中だから言えないというのは元の文書があるということだ
理財局長 捜査への影響を配慮しつつ調査していきたい
小池 私は、非常に素直なことを聞いているんですよ。「改ざんなんかしていません」「元の文書なんてないんです」「お出ししたものが正しいんです」といえばいいじゃないですか。なんでそれがいえないんですか。それが「捜査に支障があるからいえない」ということは、別のものがあるということにどう考えてもなるでしょうということなんです。なんでそれがいえないのかといっているんです。
理財局長 国会のご審議、国政調査権ということは重々承知をしておりますので、捜査の影響がないと考えられる段階において、私どもとしてなお必要があれば、調べるということは責任を持って対応させていただきたいと思います。
小池 捜査に影響がないと思われる段階っていうのはおかしいんですよ。すぐに調査しなければダメなんですよ。こんなんじゃダメ。
質疑は中断し、太田理財局長を囲んで与党理事が相談。そのうえで答弁にたった太田理財局長は「捜査の最終的な影響ということも十分見極めながら、私どもとして国政調査権も重々踏まえて、適切に対応させていただきたい」と答えました。小池氏は麻生財務相に再度確認しました。
小池 文書の書き換えはやっていないなら、やっていないとこの場でいってください。やっていないんですね。
財務相 私の段階で分かるわけがありませんので、いまお答えは申し上げられない。
小池 結局、書き換えていないといえないわけですよ。いまの経過をみておられる国民のみなさんは、これはなんかやったんだなと思いますよ。
麻生財務相は2日の記者会見で、記者から今回の「朝日」報道について問われて、「この報道は『朝日』でしたかね。お宅、○○新聞は、そんな取材能力はねえだろう。残念だったね」と発言しました。これを指摘した小池氏は「『朝日』は取材能力があると、事実上認めていることになりますよ、この発言は。じゃあ、この報道、今朝の報道は誤報なんですか。どうかはっきりしてください」と質問。麻生財務相は「私どもは誤報かどうかを判断するという立場にありませんから」と報道そのものを否定しませんでした。
小池 語るに落ちたっていう話ですよ。だって、近畿財務局のことが報道されているのに、分かんないって、当事者がそういうことをいうわけはないでしょう。
間違っているんだったら間違っているといわない。改ざんしていないんだったら改ざんしていないっていわない。書き換えていませんといえばいいのにいわない。結局、これは認めているんですよ。重大です。委員長、これは当委員会が求めた開示資料が書き換えられていたという重大な問題です。直ちに委員会として調査を求め、委員会に報告を求めてください。
予算委員長 後刻理事会で協議をさせていただきます。
小池 これは重大な問題だというふうに思いますので、引き続き、この問題を取り上げていきたいと思います。
小池氏をはじめとした参院予算委での追及を受け、太田理財局長は同日の衆院財務金融委員会で、文書の存在を調査し6日までに「できるだけ限り努力し報告する」と答弁しました。
裁量労働制のデータねつ造
安倍首相の責任を問う
小池 安倍政権は3年間も偽りの答弁を続けてきた
(首相も厚労相も責任は一切言わず)
小池氏は、安倍首相が表明した「働き方改革」一括法案からの裁量労働制の全面削除に言及。「これは『全国過労死を考える家族の会』のみなさんの命がけの訴え、そして結束した野党と急速に高まった国民の反対世論の力だ」と強調しました。
そのうえで「法案切り離しで一件落着にはならない。『裁量制で労働時間が長くなって過労死が続出するのではないか』という野党の批判に対して、安倍政権として3年間、偽りの答弁を繰り返してきた。総理の責任は重大だ。それを明らかにしなければ、それこそ前に進めない」と述べ、政府の責任をただしました。
安倍首相は「私が(データにふれて)答弁したのは1回。この3年間は厚労相の答弁だ」と責任回避に躍起。一方、加藤勝信厚労相は「答弁を撤回、おわびしている。引き続き職責を果たしていきたい」。小池氏は「総理も厚労大臣も一言も責任を言わない。責任をとらなければ前に進めないではないか」と重ねて批判しました。
「働き方改革」
残業代ゼロ制度も撤回すべきだ
小池 高プロ制度は休日・深夜の労働に割増賃金は払われるか
労働基準局長 適用されない
安倍首相は、「働き方改革」一括法案から、「裁量労働制の対象拡大」をいったん削除する事態に追い込まれましたが、「残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)」については予定通り盛り込むと表明しています。
小池 裁量労働制の拡大は切り離しましたが、「高プロ」は裁量労働制と根っこは同じです。さらに危険は大きい。裁量労働制と高プロの違いを確認していきたい。時間外の割増賃金は、裁量労働制では「みなし労働時間」が8時間を超えた部分は、「三六協定」を締結し、割増賃金を払う。「高プロ」ではどうですか。
山越敬一・厚労省労働基準局長 「高プロ」は、割増賃金は適用になりません。
小池 裁量労働制では、休日・深夜に労働した場合は割増賃金を支払わなければなりませんが、「高プロ」はどうですか。
労働基準局長 深夜割り増しは適用されません。休日も適用されないことになります。
小池 毎日の労働時間に応じた休憩は取れるか
労働基準局長 (これも)適用されない
小池 有給休暇以外、労働時間の規制を適用除外し、残業代も支払われない――残業代ゼロ制度と呼ぶ以外にないではないか
厚労相 高プロは時間ではなく成果で評価されることを選択できる制度
小池 裁量労働制では、労働時間に応じた休憩を取らなければいけませんが、「高プロ」ではどうですか。
労働基準局長 休憩時間についても適用されません。
小池 つまり、「高プロ」は年次有給休暇以外の労働時間の規制をすべて適用除外とする。まさに「異次元の危険性」があるわけです(パネル1)。対象労働者を労働時間管理の対象から外して、何時間働いても残業代を支払わなくてもいい。だから「残業代ゼロ制度」と呼ぶほかない。働かせる側にとっては極めて使い勝手がいいが、働く側は何時間も長時間労働になる、歯止めがない。総理は、裁量労働制については、答弁を撤回し、法案から切り離すことにしました。ならば、裁量労働制とともに検討され、裁量労働制よりいっそう歯止めのない「高プロ」も撤回すべきではありませんか。
首相 その考えはございません。
厚労相 高プロは時間ではなく、成果で評価される働き方を選択することができる。労働時間、休日等労働時間規制は外しますが、同時に、健康を確保する措置を講じます。連合の神津会長から要請いただいた内容も踏まえて、年間104日、かつ4週間あたり4日以上の休日取得を義務付ける。健康管理時間の把握を義務付け、選択的「健康確保措置」をさらに実施する。健康管理時間が長時間に及ぶ場合は、医師による面接指導を義務付けます。
小池 連合は裁量制の拡大、高プロの導入反対の基本的な考え方は変わらないと声明で表明しています。修正の「要請」を出しましたが、これは懸念を少しでも払しょくするためだと。合意は何もないんですよ。
小池氏は、政府が持ち出す対応策について切り込みました。
小池 法律上年104日間休ませれば、残り年間6000時間労働でも違法とされない
厚労相 (それを)規制する規定はない
小池 健康確保措置で年104日以上の休日といったけれど、104日といえば週休2日、土日さえ休ませれば、盆暮れ正月も祝日もゴールデンウイークも全部働かせていいんだと。しかも、毎週2日を休日としなくても、4週で4日以上でいい。だから、4週間のうち最初の4日間さえ休ませれば、あとの24日間は時間制限もないわけだから、24時間ずっと働かせる。これが法律の枠組みではできるようになる。私がいったことが、法律上排除されていますか。
厚労相 自分で仕事を割り振りして、より効率的な、そして自分の力が発揮できる状況をつくっていくということであります。
小池 「高プロ」で労働時間の指示ができないという規定が法律上あるか。
厚労相 これから指針をつくります。
小池 質問に答えていない。104日を除けばずっと働かせることができる。計算すれば6000時間を超える。これを排除する仕組みが法律上あるかと聞いている。
加藤厚労相が質問に答えないため、委員会は中断する事態に。小池氏は追及の手をゆるめません。
小池 法律上、禁止されていますかと聞いている。イエスかノーかはっきり答えてください。
厚労相 それ自体を規制するという規定はありません。
追い詰められた加藤厚労相は、とうとう認めました。
小池 こんな仕組みを作ってしまっては、人たるに値する生活を労働者はおくれない
首相 年収1075万円以上の方々の制度だ
小池 残業代をもらい長時間労働をやっている労働者の年収が反映される仕組みだ
小池 実際に過労死は起きている。それを強行的に止める仕組みが労働基準法なんですよ。その第1条で「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充(み)たすものでなければならない」となっている。この労働基準法でこんなゆるいことをしてしまったら、労働者は守れない。
総理、年間6000時間働くことが違法とされない、こんな仕組みをつくってしまっていいんですか。これで「人たるに値する生活」を労働者はおくることができるんですか。
首相 「高プロ」はこれからつくる制度ですから、なにか問題がおこっているということではないわけです。(高プロの適用については)書面で本人が希望することですし、平均給与の3倍、1075万円の方々であれば、相当の交渉力がある。成果に準ずる働き方を自ら選択し、なおかつ健康確保措置はとられています。
安倍首相が持ち出した言い訳について小池氏は次のように反論しました。
小池 同意があるといったって、上司から言われたら拒否できない。年収要件が1075万円でごく一部だというけれども、経団連の榊原会長は、年収要件の緩和を繰り返し求めていました。2015年4月の経営者の会合で、当時の塩崎厚労相はこういっています。「経団連がさっそく1075万円をさげるといったもんだから、あれでまた、質問がむちゃくちゃきましたよ。とりあえず通すことだと言って、合意をしてくれると大変ありがたいと思っている」と。私はこの直後の国会の質問でこれを聞いたら、塩崎さんは「そこはぐっと我慢してくださいねといってるだけで、私はストレートに言えば、そういうことを言うのはやめてくださいということですよ」と。財界には年収要件の緩和は黙っといてください、とにかく法案を通させてくださいと。こんなことでは、年収要件などはアリの一穴でどんどん広がるではないか。
厚労相 法律要綱では、対象となる賃金額の要件を、使用者から支払われると見込まれる年間の賃金額が、平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準となっています。どのくらいかということで、1075万という数字がでています。この考え方は、法律を改正しない限り変えることはできません。
小池 1075万円はどうなのか。例えば、高橋まつりさんの過労自死が問題になった電通。有価証券報告書によれば、2015年12月31日、高橋まつりさんが亡くなった直後の電通の従業員数は7261名、平均年間給与は1200万円を超える。長時間労働も年収を押し上げているのだろう。確認しますが、例えば基本給が500万~600万であっても残業代も含めて年収1075万円超えれば高プロの対象になりますね。
厚労相 確実に支払われることが見込まれる賃金ということであります。残業は確実に見込まれませんから、今の場合には対象にはなりません。
小池 昨日は「なる」という回答だったが、変わったのか。
厚労相 残業代を含めて1100万の方がおられる。その方が、高プロ制度ができて、1100万円払いますよということであれば、これはクリア(該当)いたします。800万で、そこから何ぼ出すかは働き方次第ですよということであれば、対象にはならない。
加藤厚労相の答弁で、年収要件が1075万円といっても、それは基本給ではなく、残業代を含めれば、長時間労働のサラリーマンなら対象になることが明らかになりました。これでは歯止めにもなりません。
小池 長時間労働をやっている労働者の年収が反映される仕組みだ。総理、裁量労働制を切り離すならば、それ以上の労働条件の悪化をもたらす「高プロ」も併せて再調査し、労政審で再検討するのは当然の筋ではないですか。
首相 高プロは、時間に応じて報酬をもらうというよりも、成果に応じた報酬をもらうことですから、形態が異なる。交渉力もあるわけで、本人がそういう働き方を選んでいくということです。
小池 1075万超えれば交渉力があるというのは全く根拠がない。
小池 裁量労働制のトヨタ自動車の実態――100時間前後の超過勤務時間、まさに過労死水準だ
首相 今回提出する法案からは裁量制は削除した
小池 「自律的な働き方」だと、裁量労働制も高プロもそうだとおっしゃるが、実態はどうなのか。裁量制というのは業務の遂行手段や、時間配分は裁量で決定できますけども業務量は裁量で決定できないですよね。
厚労相 使用者から与えられる業務量について、働き手が裁量的に決められるものではありません。
小池氏は、裁量労働制を導入しているトヨタ自動車の実態を示しました。
トヨタ労組が組合員に示した資料では、2016年10月から17年3月までの半年間で、企画業務型裁量労働でみなし労働時間1日9時間の対象者370人のうち、限度を超えた長時間労働のために適用除外になった人が11人。それ以外に健康調査票を出した人や健診を受けた人などが309人おり、実に8割が「健康状態に懸念がある」と報告されています。
半年間で超過勤務時間の最大が、企画業務型で月95・4時間、専門業務型で月100・5時間となっています。
小池氏は「まさに過労死水準だ」と指摘し、労働組合が紹介している労働者の声を読み上げました。「短納期の突発対応をすべて請け負わされるなど、次から次へ業務を付与され、まとまった業務付与となっていないため、裁量が発揮できる状態ではない」というものです。小池氏はこう迫りました。
小池 業務量について労働者に裁量権がないから、日常的に「みなし時間」との大きな乖離(かいり)が起こり、健康被害が生まれている。総理、これがあなた方がずっといってきた「自律的」な働かせ方の実態なんですよ。とても自律的に働いている環境ではありません。
今日もお見えになっていますが、全国過労死を考える家族の会の皆さんが声を寄せていて、夫である小児科医を過労自死で失った中原のり子さんから、今日手紙をいただきました。
「『働き方改革』の名のもとに、人の命を奪う、過労死を増やす法律を強行するのは絶対にやめてほしい。高プロも残業時間の上限設定も白紙撤回すべきです。私たち遺族は30年も前からこの声を上げ続けています。どれほど犠牲者がでたら政府はわかってくれるのか」―こういう声ですよ、総理。裁量労働制の拡大は先送りではだめ、きっぱり撤回すると答えていただきたい。
首相 裁量労働制は法案から削除させていただきました。その上で、現状をしっかり把握した上で判断をしていく。高プロは、時間ではなく成果で評価する働き方、自らの創造性を発揮できるような制度であるということはお伝えしたい。
「断念」とはいわない首相に対して小池氏は、首相が「データは撤回しない」といっていることをただしました。
小池 間違ったデータを撤回していない、再調査して裁量制の実態つかめ
厚労相 白紙にして新たな調査等を実施する
小池 裁量労働制の実態把握をしないといけないんでしょう。厚労省のデータは間違ったんでしょう。その間違ったデータに基づいて答弁したんでしょう。なのにデータは撤回しないなんて納得できない。
首相 精査に時間がかかるデータに基づいて答弁したことについては撤回させていただいた。他方データそのものについてはまずはしっかり精査をしてもらうということです。
小池 実態を把握しなきゃいけないというのは、今まで使っていたデータは間違ったんだから、データは撤回しないといけないじゃないですか。
首相 正確を期したいということでありまして、まずは精査をしてから判断したい。
「データ撤回」も拒む安倍首相に対して、小池氏は、「データなるものが精査に耐えうるものなのか論証をしたい」といって追及を続けました。
企画業務型の裁量労働制を導入した企業には、半年ごとに定期報告の義務があります。そこでは「1日の労働時間として平均的なもの」(パネル2)を報告するようになっています。
山越労働基準局長は、「使用者が、1日の労働時間として平均的なもの、労働時間の状況を報告する」と説明。小池氏は、「なんの基準もない。使用者が労働者を並べてこれが平均的なものだと判断すればそれが報告になるのか」「こういうでたらめなことだから結局あれだけのデータの間違いが出てくるのではないか」と批判しました。
さらに小池氏は、「平均的なものの労働時間には休憩時間が入るのか」と質問。山越労働基準局長は、「出退勤時刻、入退室時刻の記録等によりまして、いかなる時間帯、どの程度の時間在社し業務を提供しうる状態だったかなど、対象労働者の勤務状況を指すものだ」と答弁。小池氏が「休憩を含むものもあれば含まないものもある。バラバラなんですね」と確認すると、山越労働基準局長は「労働時間の状況とは必ずしも実労働時間と一致しない。実労働時間が、休憩時間を含んだものになっている場合もある」と認めました。
しかし、労働政策審議会(労政審)で厚労省は「実労働時間を調査する」と表明していました。小池氏は、次のように迫りました。
小池 労政審で約束している。それをやらなかったということですね。
労働基準局長 労政審で調べるといっておりましたものは、今申しましたような意味での実労働時間を調べることということになっていたのではないかと思います。
小池 何言っているんですか。実労働時間に実労働時間A、Bがあるんですか。こんな、でたらめな答弁、だめだ。
山越労働基準局長は答弁に立てなくなり、委員会は中断。加藤厚労相は、「最終的にお示しさせていただいたのは、労働時間の状況ということ」と認めました。
小池 やってないんですよ、まともな調査を。これはいくら「精査」をしてもだめ。根本的にだめなんですよ。定義もでたらめなんですよ。裁量労働制とはそういう仕組みなんです。労働時間を把握しなくてもいい仕組み。だから調査しろっていったって、できない。だからこういうバラバラの数字が出てくる。このデータは撤回をして、もう一度調査のやり方から含めて根本的に考え直す。それをやらない限り裁量労働制の実態をつかむことができない。
首相 もとのデータについては精査をしているということでございます。裁量労働制についての実態調査は、今までのアプローチ、調査の仕方でいいのかということも含めて、加藤厚労大臣のほうからお答えさせていただきたい。
厚労相 現在把握しているものを、ないものとしてというふうに受け止めさせていただいている。新たな形式による調査などを考えていきたい。
小池 データは撤回して再調査するといってください。
厚労相 白紙のものとして新たな調査等を実施し、そして改めて実態を把握し、その上にたって議論をし直していく。
加藤厚労相は事実上、撤回すると表明。このデータにもとづいて労政審で議論してきた前提が完全に崩れていることが浮き彫りとなりました。
厚労省のデータを撤回したのであれば、労働者の実態を調査したデータは、労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した調査しかありません。同調査では、一般労働者より裁量労働が長くなっていました。(パネル3)
小池 短いという答弁を撤回した。ならばこれしかデータがないんだから、「裁量労働制のほうが労働時間が長い」と答弁すべきではないか。
厚労相 JILPTのアンケート調査で、1カ月の実労働時間の平均については、通常の形で働いている方は186・7時間、企画業務型裁量労働制は194・4時間ですから両者を比較すれば、通常企画業務型裁量労働制のほうが長いということではあります。
小池 長いんですよ、裁量労働制のほうが。大臣、再調査するんだったら労働者に聞いてください。
厚労相 今のご指摘も踏まえて具体的にどうやるかはこれから検討していきたいと思います。
小池 重要なデータが労政審に示されず――首相の強引な政策変更があった
首相 まともな答弁できず
小池 職場全員の労働時間把握の義務を罰則付きで設けるべきだ
労政審には、このJILPTの調査は報告されませんでした。なぜか。小池氏は経過を指摘しました。(パネル4)
2012年12月に第2次安倍政権が発足し、2013年6月に「日本再興戦略2013年」が閣議決定されます。その閣議決定で、「裁量労働制について早急に実態把握調査・分析を実施」するとしました。そして労政審労働条件分科会では、「実労働時間を調査する」と厚労省が報告していました。そしてJILPTは同時に、労働者に対する調査をその間実施。翌年14年5月30日にJILPTのこの重要な結果がでました。
ところが6月24日に「日本再興戦略 改訂2014年」が閣議決定され、次期通常国会に高プロも裁量制拡大も法案提出するというふうに決められました。結局、JILPTのデータは無視され、そして突き進んでいきました。
2月22日の野党の合同ヒアリングで、当時の労働条件政策課長は、「大きなターニングポイントは『日本再興戦略 改訂2014』、これで一回リセットになった」「JILPTの調査をどう活用するかとか、最初に考えてたところから大きく変わった」「JILPTの非常に貴重な調査を十分使えなかったというのは、一担当官としては反省の念を持っているが、環境の影響も大きかったというのは言い訳をするつもりはないですが、そういったことがある」と述べています。小池氏は、こうただしました。
小池 産業競争力会議の議長は総理。総理が閣議決定した。労政審やJILPTで進めていた調査が「リセット」された。実態調査も不十分なまま、1年後にはまた、産業競争力会議で裁量労働制(の拡大)、高プロを決めた。閣議決定した。こういった経過の中で、「JILPTの非常に貴重な調査を使えなかった」と当時の課長はいっている。まさに今回の事態は、政策決定の積み重ねを無視した、官邸、安倍首相による、強引な政策変更、政策決定という大きな圧力の中で混乱し、データの誤りが次々に見つかり、結局答弁の撤回まで追い込まれた。総理自身の責任は極めて重大ではありませんか。
首相 産業競争力会議において裁量労働制等々の提案をさせていただいたところでございますが、しかし、労政審にかけるということになっている。労政審において判断をしていただく。そこはまさに労働者の皆さんの代表も入っている。JILPTの調査で、企画業務型は約8割弱の方は、やや満足も含めれば満足しているという実態もある。
小池 JILPTの満足度の調査は各事業所に2人ずつ、任意で事業主が選んだ人が答えている。それでも労働時間が長いという結果が出ている。結局、今回の混乱の根本にある、裁量労働制というものが持っている労働時間が全く把握できない実態が今回の実態になっていると言わざるをえない。
小池氏は、「労働基準法には職場全員の労働時間の客観的な把握管理を義務付ける規定はあるか。裁量労働制の労働者や管理監督者は対象外ですね」と質問。山越労働基準局長は、「必ずしも管理監督者までカバーするものではございません」と認めました。
小池 職場全員の労働時間を管理する把握する義務がない。ガイドラインしかない。罰則規定もない。全労働省労働組合が労働基準監督官を対象として行ったアンケートでは、労働時間規制で最も有効な対策は「実労働時間の把握義務の法定化」。その次が「時間外・休日労働にかかる上限規制の導入」です。野党4党は2016年に「長時間労働規制法案」を提出しましたが、そこでは「労働時間管理簿の義務付け」を含んでいました。総理。この間の経過を踏まえれば、「実労働時間の把握義務の法定化」ということをやるべきではないか。
厚労相 裁量労働制を含めて、労働時間の実態を把握することは大変大事だと思っている。このため今回の働き方改革では裁量労働制で働く方も含めて、客観的な方法によって労働時間を義務づけることとしておりまして、そのための(労働)安全衛生法に基づく省令改正を考えているところでございます。
小池 省令だから罰則ないですね。
労働基準局長 罰則は想定していない。
小池 罰則がない。だからそれじゃだめだといっているんですよ。義務化すべきじゃないかと。やっぱり、本気で長時間労働を是正する、そこに踏み出すべきなんですよ。大臣告示通り、週15時間、月45時間、年間360時間を例外のない残業時間の上限として法令化する。EUで行われているようなインターバル規制、勤務が終わって次の勤務が始まるまで連続11時間休める。そして管理監督者やみなし労働制の対象者も含めて、全ての労働者の労働時間管理を法で義務付ける、罰則規定をおく。こういうことをやるべきではないですか、総理。
首相 働く方も含めて使用者が実労働時間を把握し、管理することは健康確保の観点からも大変重要であると考えております。裁量労働制で働く方も含め、客観的な方法によって、労働時間を把握することを使用者に義務づけることとしております。
小池 もっときちっとした罰則つきの規定をつくらないとだめでしょと言っているんですよ。真剣に検討すべきだということを申し上げます。
2日の参院予算委員会での小池晃書記局長の質問のうち、海上自衛隊の「いずも」型護衛艦の攻撃型空母化についての詳報は、あすの紙面に掲載します。