赤旗2018年1月27日付
日本共産党の小池晃書記局長が26日の参院本会議で行った代表質問は次の通りです。
日本共産党の小池晃です。会派を代表して、安倍総理に質問します。
国政私物化疑惑――虚偽答弁の人物が出世納税者の理解が得られるか
森友問題でも、加計問題でも、国民の多数は総理や政府の説明に納得していません。
とりわけ情報の隠ぺいに対する不信と怒りには、根深いものがあります。
森友学園への国有地売却をめぐり、当時の財務省理財局長が「適切に破棄した」としていた交渉記録が、実は保管されていました。明らかな虚偽答弁ではありませんか。
総理は「適材適所だ」と言いますが、このような人物が国税庁長官であることに納税者の理解が得られるとお考えか、しかとお答えいただきたい。
国政私物化の疑惑をこのまま幕引きにすることなどできません。
真相解明のために、安倍昭恵氏と加計孝太郎氏らの国会招致を強く求めます。
アベノミクスの5年間で貧困は悪化――株式譲渡益に欧米並み税負担を
施政方針演説で総理は、アベノミクスで力強い経済成長が実現したと述べましたが、国民に景気回復の実感がないのは、その実態がないからにほかなりません。
第2次安倍政権の5年で、大企業の当期純利益は2・5倍となり、内部留保は80兆円積み増しされて400兆円を突破しました。
その一方で、労働者の実質賃金は安倍政権発足前に比べて、年収換算で15万円も低下しました。金融資産を持たない世帯が5年間で400万世帯も増加し、全世帯の35%になりました。
今国会で政府は生活保護費の削減を狙っていますが、その理由は「生活保護を受給していない低所得世帯の消費水準が低下したから」。これはアベノミクスによって貧困がいっそう悪化した、何よりもの証明ではありませんか。
アベノミクスで最も恩恵を受けたのは、日銀マネーや年金資金によってつり上げられた株高で潤った超富裕層です。1億円を超える所得の33%が株式譲渡益によるものであり、20億円を超えると実に76%を占めます。しかし、株式譲渡益に対する所得税率が住民税も含めて20%に抑えられているために、所得が1億円を超えると所得税の負担率が低下するという逆転現象が起きています。昨年、OECD(経済協力開発機構)の対日経済審査報告書でも、このことが指摘されましたが、来年度も是正が見送られました。
アベノミクスの5年間で、株価は2・2倍となり、上場企業の大株主上位300人の保有時価総額は9・2兆円から25・2兆円へ、2・7倍に膨らみました。この300人の金融資産は、今や日本の全世帯の下位44%が保有する貯蓄額に匹敵します。
所得税制の「改正」というなら、まずこうした深刻な格差是正のために、株式譲渡益に対して欧米並みに30%の税負担を求めるべきではありませんか。お答えください。
「健康格差」の拡大――根底に貧困と経済的な格差の深刻な広がり
「健康格差」の広がりも大問題です。
全国の大学・国立研究所の研究者による「日本老年学的評価研究プロジェクト」が2万人の高齢者を対象に行った調査で、「低所得の高齢者と、高所得の高齢者では、死亡率が3倍違う」という結果が出たことが、各界に衝撃を与えました。
年収150万円未満の高齢者のなかで、「具合が悪くても、医療機関への受診を控えたことがある」という人の割合は、年収300万円以上の人の1・4倍。生活困窮世帯の子どもが、ぜんそくを発症するリスクは、それ以外の世帯の子どもの1・3倍。「5本以上の虫歯」となる割合も、生活困窮世帯の子どもと、そうでない世帯の子どもでは2倍の格差。
これらはいずれも、大学や国の研究機関、自治体などの疫学調査の結果です。
所得、雇用形態などの社会的要因によって、食生活やストレスなどに差異が生じ、低所得者や不安定雇用の人ほど疾病・死亡のリスクが高まる「健康格差」については、広範な研究者・学会の見解が一致しています。
WHO(世界保健機関)などの国際機関も「健康格差の是正」を呼びかけ、厚生労働省も「健康日本21」で「健康格差の解消」をうたっています。
総理は、「健康格差」の根底に、貧困と経済的な格差の深刻な広がりがあることを認めますか。
この間、安倍政権は、派遣労働を恒久化する労働者派遣法改定など、非正規雇用を拡大・固定化する労働法制の規制緩和をくりかえしてきました。社会保障では、年金の削減、医療費窓口負担の引き上げ、要支援者の介護サービスの保険給付外しなど、国民負担増と給付削減を続けてきました。
これらの政策は、低所得層や中間層の生活を痛めつけ、公的医療・介護へのアクセスを妨げ、「健康格差」をいっそう拡大したのではありませんか。
社会保障の負担増と給付削減は、家計を苦しめ、現役世代の不安を増大させ、中間層の生活の安定と消費の喚起にも大きな障害となります。社会保障の自然増削減はきっぱり中止し、能力に応じた負担で財源を確保し、充実に向かうべきではありませんか。
「働き方改革」というが、法案は「残業代ゼロ」や「過労死の合法化」
総理は、今国会を「働き方改革国会」だと述べました。
しかし、準備されている法案は、労働者が望む働き方とは正反対です。
日本の財界はこの20年間、ホワイトカラー・エグゼンプションなど、労働基準法の労働時間の適用を除外することを、繰り返し政府に求めてきました。今回の「高度プロフェッショナル制度」、いわゆる「残業代ゼロ制度」も、まさに財界の要求そのものです。
これのいったいどこが、労働者・国民が願う「働き方改革」なのですか。
これまで日本の労働団体が「労働時間の適用から除外してほしい」と要望したことが一度でもありますか。逆に一貫して反対し続けてきたではありませんか。
さらに、「企画業務型裁量労働の拡大」は、どれだけ働いても「みなし時間分」の残業代しか払われない労働者を、これまで禁止されてきた営業分野にまで広げるものです。これには年収制限もありません。厚生労働省は裁量労働制の実態把握すらせずに、この制度を拡大しようとしていますが、低賃金と過労死の温床を広げるだけではありませんか。
残業代ゼロ制度とともに、きっぱり撤回することを求めます。
労働時間の上限規制に関して聞きます。
電通の高橋まつりさんの過労自死の後も、過労死の例が後を絶たず、上限規制は待ったなしです。しかしなぜ、残業時間の上限を月100時間までとするのですか。
トヨタ自動車の系列子会社で働き、2011年に37歳で突然死した三輪敏博さんは、亡くなる直前に月85時間の残業をし、名古屋高裁は昨年「過重な労働だった」と認定。政府も受け入れ、判決が確定しました。
厚労省の報告では、安倍政権の4年間、三輪さんと同様に月の残業時間が100時間未満で過労死認定された方は、毎年、全体の52%から59%で過半数です。
残業を月100時間まで可能にする政府案は、「過労死の合法化」ではありませんか。
「過労死をなくす」というなら、大臣告示の週15時間、月45時間、年間360時間を、例外のない残業時間の上限として法令化すべきです。
総理は「柔軟な働き方を可能にする」と述べますが、実際には労働者にとっての「柔軟な働き方」ではなく、経営者にとっての「柔軟な働かせ方」にほかなりません。
日本共産党は広範な労働団体や野党各党と力を合わせ、労働法制の歴史的大改悪を阻止するために全力をあげます。
4月からの無期雇用への転換――脱法行為を許さぬ指導と抜け穴をふさげ
改定労働契約法により、この4月から、雇用期間の定めのある労働者が、同じ会社で通算5年以上働いた場合に、本人が申し込めば無期契約に転換できるようになります。ルール通りならば400万人の有期労働者が正社員になれるはずです。しかし、5年になる前にいったん雇い止めし、6カ月以上の雇用空白期間を設けることで、無期転換できないようにする脱法行為が広がっています。
昨年末、厚労省が自動車大手10社を調査し、空白期間を設けた7社中5社が、労働契約法の施行後に、空白期間を6カ月に変更していた事が判明しました。
このような脱法行為が広がれば、無期転換権を行使できる労働者はいなくなってしまいます。
総理は施政方針演説で「非正規という言葉を一掃する」と述べましたが、一掃するのは言葉だけなのでしょうか。
総理は特別国会での私の質問に対して「無期転換ルールを避ける目的で雇い止めすることは望ましくない」と答弁しました。ならば、脱法行為を許さない厳格な指導とともに、法の抜け穴をふさぐ改正に踏み出すべきではありませんか。明快な答弁を求めます。
沖縄米軍基地――「普天間」無条件撤去、新基地建設中止、海兵隊撤退こそ唯一の解決策
沖縄ではオスプレイや大型ヘリなど米軍機の事故が相次ぎ、県民の不安と怒りが広がっています。
重大なのは、事故原因の究明もされないままに、米軍が飛行を再開していることです。
12月に相次いだ米軍ヘリの部品、窓枠落下事故では「人的ミスで機体には問題ない」などと強弁して、6日後に飛行訓練を再開しました。今年続発したヘリの不時着事故でも、沖縄県の飛行訓練中止要求に耳を貸さず、事故機を含めて直ちに訓練を再開しました。
政府は、なぜ米軍に対して事故を起こした全機種の飛行中止を求めないのですか。
沖縄県民や日本国民の安全よりも「日米同盟」を優先する、主権国家にあるまじき態度ではありませんか。
こうした米軍の横暴勝手の根底にあるのが、屈辱的な日米地位協定です。ドイツやイタリアなどと比較しても、米軍に治外法権的な特権を与える植民地的なものですが、基地の外での日本の警察権行使まで拒否することは、地位協定上も許されないのではありませんか。
米軍の無法を許さないためにも、地位協定の抜本的な改定が必要ではありませんか。
総理は施政方針演説で、辺野古新基地建設をあらためて強調し、「移設は三つの基地機能のうち一つに限定」「飛行経路が海上となることで安全性が向上」「普天間では1万数千戸必要だった住宅防音がゼロに」などと述べました。
しかし空中給油機は岩国移駐後も、頻繁に普天間基地に飛来して訓練を継続し、騒音をまき散らしているではありませんか。「飛行経路が海上になる」と言いますが、今でもオスプレイは沖縄県内に多数の着陸帯があるために、集落上空を縦横無尽に飛び回っています。
なによりも、普天間基地所属のオスプレイやヘリは、この1年余で名護市、久米島町、伊江村、石垣市、東村、宜野湾市、うるま市、読谷村、そして3日前には渡名喜村(となきそん)と、沖縄全土で事故を起こしています。普天間基地を辺野古に移しても危険性は除去されないどころか、弾薬搭載エリアを持ち、F35B戦闘機の運用も想定される巨大基地となって、危険性をいっそう増大させるのではありませんか。
普天間基地の無条件撤去、辺野古新基地建設の中止、海兵隊の沖縄からの撤退こそ、沖縄県民の命と安全を守る唯一の解決策です。総理の見解を求めます。
「トランプ・ファースト」を見直し、言うべきことを言う当たり前の外交を
総理は昨年、首脳会談後の記者会見で「日米は100%ともにある」と述べました。トランプ大統領に言われるままに高額の米国製武器を次々購入し、軍事費は史上最高となり、国民生活を圧迫しています。
しかし今、世界の主要国は、米国のトランプ政権とは距離を置いて付き合っています。わが国が、世界でも異常な「トランプ・ファースト」の外交でいいのかが問われています。
総理は施政方針で「パリ協定の戦略策定に取り組む」と述べました。ならば、米国にパリ協定への復帰を求めるべきではありませんか。
中東を不安定化させるエルサレム首都認定も、各国首脳のようにきちんと批判すべきではありませんか。
北朝鮮の核・ミサイル開発は断じて許されません。経済制裁の強化と一体に、対話による解決を目指すべきです。ペリー元米国防長官は、核戦争になった際の被害は朝鮮戦争の10倍に、日本の被害も第2次世界大戦に匹敵すると警告しています。
戦争は絶対に起こしてはなりません。
しかし総理は、「すべての選択肢がテーブルの上にあるという米国の立場を支持する」と、先制的な軍事力行使まで公然と支持しています。こうした対応を、根本からあらためるべきではありませんか。
北朝鮮に核開発の放棄を迫るうえで国際的にも大きな力になるのが、核兵器禁止条約です。「核抑止力論」ときっぱり決別し、核兵器を法的に「禁止」し、「悪の烙印(らくいん)」を押すことによって、それをテコにして核兵器の「廃絶」に進もうという、最も抜本的かつ現実的な道を示した歴史的条約への参加こそ、唯一の戦争被爆国の政府の責務ではありませんか。
トランプ大統領のすることがどんなに無法なものであっても、批判せずに追随するという態度を根本的に見直し、言うべきことを言う、当たり前の外交政策をとることを強く求めるものです。
市民と野党の共闘を広げ9条改悪発議を許さないために全力
最後に、憲法について聞きます。
総理は施政方針演説で、今年が明治維新から150年であることを強調しました。しかし、この150年の前半には、侵略戦争と植民地支配に向かった負の歴史もあり、戦前と戦後をひとくくりにして、良い時代であったなどということはできません。
総理はそうした戦前の歴史も含めて、すべてを肯定的に評価しているのですか。
第2次世界大戦が終結し、日本国憲法、とりわけ憲法9条のもとで、わが国は新たな歩みをはじめました。昨年3月のNHKの世論調査では、「憲法9条が日本の平和と安全に役立っている」と答えた方が、初めて8割を超えました。多くの国民が高い価値を見いだしている、憲法9条のもとでの戦後日本の歩みを、総理はどのように評価しているのですか。
総理は、侵略の歴史への反省を語らず、「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法9条を敵視し、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪と、数の力で憲法破壊を積み重ねてきました。こうした姿勢に多くの国民が不安と疑念の目を向けているからこそ、各種世論調査で、「安倍政権のもとでの憲法改定には反対」という声が多数になっているのではありませんか。
総理は年頭記者会見で「今年こそ憲法のあるべき姿を示す」と述べましたが、憲法99条は大臣、国会議員その他公務員に、憲法を尊重し擁護する義務を課しています。多くの国民が憲法改定を望んでいないもとで、「あるべき姿を示す」などと言うこと自体が、憲法と立憲主義を全くわきまえない発言だと言わざるを得ません。
憲法に基づく政治の実現こそわれわれの責任です。
日本共産党は、市民と野党の共闘を広げ、憲法9条改悪の発議を許さないために、全力をあげる決意を表明して、質問を終わります。