赤旗2017年12月3日付
日本共産党の小池晃書記局長は11月30日の参院予算委員会で、財界・大企業の要求に沿って国民に雇用不安と重い負担増を強いる、安倍政権の雇用ルールのゆがみと社会保障改悪計画を真正面から取り上げました。独自調査や首相らの過去の答弁なども引用した迫力ある追及と、ほんものの改革の道を示した質問。「気持ちを代弁してもらった」(現役介護職員)など共感の声が多く寄せられた小池氏の質問のみどころを紹介します。
無期雇用「5年ルール」
トヨタの脱法行為示し法の「抜け穴ふさげ」
有期雇用で通算5年働いた労働者が、希望すれば無期雇用への転換を企業に求める権利が来年4月から生じます。2012年の労働契約法改正に伴ういわゆる「5年ルール」ですが、現行ルールには期間中に6カ月の無契約期間(クーリング期間)があると、それ以前の契約期間を合算しないという「抜け穴」があります。小池氏は「抜け穴をふさぐ法改正が必要だ」と実態を示して追及しました。
自動車メーカー各社は法改正後、1カ月だったクーリング期間を6カ月に変更し、無期雇用に転換させない脱法行為を行っています。
小池氏は、トヨタで10年以上、期間雇用で働いてきたAさんの例を紹介しました。Aさんは昨年1月の契約更新の際、上司から「次の採用まで6カ月開けてほしい」と言われました。無職となるクーリング期間が1カ月のときは寮に住み続けることが許されました。ところが、6カ月になったら会社側は「荷物をまとめて出てくれ」と求めてきました。Aさんは無期雇用に転換できる権利を奪われた上、住むところまで失うはめになりました。
小池氏は「クーリング期間が1カ月のままだったらこの人は無期雇用になれた。労働者を非正規のまま使い続けるのは法の趣旨に反するのではないか」とただしました。
加藤勝信厚労相は「無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的で雇い止めを行うのは望ましくない」として、必要な周知啓発に努めると答えました。
小池氏は「企業は意図してやっているから周知啓発では解決しない」と追及。「法律に明らかな抜け穴があるのだから、政治の責任で法改正すべきだ」と強く求めました。
低賃金で不安定な有期雇用労働者の増大に歯止めをかけるには、原則として合理的理由のない有期契約を禁止する「入り口規制」が必要です。12年の法改正時、リーマン・ショックで相次いだ雇い止めを繰り返させないため、全労連や法曹界は入り口規制を強く求めました。しかし、有期雇用労働者を雇用の調整弁としてきた財界は強く反発。政府は入り口規制を外したうえ、6カ月のクーリング期間などの「抜け穴」をつくりました。
日本共産党は当時、「抜け穴」をつくることに強く反対し、▽契約の通算期間が1年を超えれば無期契約とみなす▽クーリング期間の規定を削除する▽労働条件は同種業務の労働者と同一―などの修正案を提案していました。
法改正を求める小池氏に対し、安倍首相は「雇用の安定に向けてしっかり対応していくというのは、小池委員と同じ」と答弁。小池氏は「では年度明けすぐにやるべきだ」と追及。加藤厚労相は「見直しに当たって、今の状況も含めて検討する」と答えました。
大企業の内部留保急増
労働者1人あたり2910万円 一部回せば賃上げできる
トヨタは史上最高益をあげ、18兆円もの内部留保を蓄えています。安倍政権の下で急増した大企業の内部留保。小池氏は「大企業全体で内部留保を構成する利益剰余金は、2012年度から16年度にかけてどのくらい増えたか。1人当たりにするとどれだけか」とただしました。
麻生太郎財務相は、法人企業統計に基づき、資本金が10億円以上の大企業の利益剰余金は12年の177・7兆円から16年の245・3兆円まで、67兆円以上増えたと答弁。労働者1人当たりにすると、12年の2110万円から16年の2910万円へ、「4年で800万円の増加になっている」と述べました。
小池氏は「1年で200万円です。このごく一部でも回せば大幅賃上げができる。しかし回っていない」と指摘。大企業の利益はどう分配されているか、分析を示しました。
4年間で法人税は4兆円減税。その半分をトップ100社が占めています。法人税減税などにより当期純利益は11・1兆円増加しました。内訳は、およそ半分が内部留保(5・6兆円)として積み増しされました。残りの約半分が株式の配当金(2・8兆円)や、自社株の消却(2・1兆円)に使われました。従業員の給与に回ったのはわずか3千億円、3%程度にすぎません。
小池氏は「総理は4年前、法人税減税が全部内部留保に行ったのでは意味がないと答弁したが、そうなっている。この間の法人税減税が賃上げに結びつかなかったと認めるか」と追及しました。
2013年10月24日の参院予算委員会
安倍首相「(復興特別法人税の廃止について)それが全部内部留保に行ったんでは、われわれも意味がないというふうに考えております」
麻生財務相は「この4年間で、約101兆円が内部留保(として増えた)。企業の設備投資が約8兆円、個人のベースアップなどで約4兆から5兆円」と統計を示し、「基本的には賃上げとかに配当すべきだ。内部留保に偏りすぎているのではないか」と認めました。
内部留保が増えた理由は、正社員をパートや派遣に置き換えるなど労働法制を規制緩和したため、利益が労働者の賃金に回らなくなったことにあります。
小池氏は「内部留保を賃上げに回す。正社員の雇用を増やす。下請け中小企業にきちんと代金を払う。法人税の減税をやめて能力に応じた負担を求める。そのことで社会保障の財源をつくり、財政再建の道も開く。これこそが経済の好循環だ」と共産党の経済再生の提案を紹介しました。
75歳以上医療費2割負担
所得平均82万円、ゼロも53% 生活実態示し撤回迫る
安倍政権は総選挙が終わるやいなや、医療・介護・福祉などあらゆる社会保障での国民負担増と給付削減の策略を加速化しています。11月末には、経団連会長の榊原定征氏が会長を務める財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が建議をまとめました。「高齢化」などを口実に、75歳以上の人が加入する後期高齢者医療の窓口負担を現行1割から2割に引き上げるべきだと求めました。
小池氏は、後期高齢者医療制度を08年に導入した当時の首相がいまの財務相である麻生太郎氏であり、「1割負担を維持したい」と答弁(別項)していたことを示し、「当時の答弁とまったく違うじゃないか」とただしました。
2008年10月3日の参院本会議で市田忠義書記局長(当時)への答弁
麻生首相「長寿医療制度は、医療費自己負担を現役世代より低い1割負担とし、保険料の軽減も行うなど、高齢者が心配なく医療を受けられる仕組みとなっています。こうした良い点はぜひ維持していきたい」
麻生財務相が「1割負担にしたい希望があるのは確かだ」としながらも「財政制度と両立しなきゃ意味がない」と居直ったのに対し、「これは豹変(ひょうへん)だ」と厳しく批判しました。
なぜ1割負担の維持が必要なのか―。
75歳以上の人の所得(15年)を見ると、1人当たり82万8千円にすぎず、所得ゼロの人は全体の53・2%を占めます。一方、一定期間に医者にかかった人の割合を示す「受診率」を74歳以下と比べると、75歳以上の人は入院で6・3倍、外来で2・4倍も受診率が高いのが実態です。年齢を重ねれば当然、病気にかかりやすくなるからです。
これらのデータを厚労省に説明させた小池氏。「所得が少なく病気にかかりやすい年齢層の医療費負担を2倍に引き上げれば、暮らしに大打撃になり、(お金がなくて医者にかかれない)受診抑制で健康破壊を引き起こす危険が大いにある」と強調しました。
首相は「保険制度の持続可能性」をあげながらも、高齢者の実態を否定できず「後期高齢者の所得や受診率の状況もふまえつつ、きめ細やかな検討を行う必要がある」と答えざるをえませんでした。
政府は「持続可能性」とともに「世代間の公平化」を口実に使って、高齢者と現役世代の負担をどちらも次々引き上げてきました。
小池氏はこの“公平化”に触れ、「病気になりやすい高齢者の窓口負担を引き上げれば、負担は現役世代を上回る。現役世代より負担率を低くしなければ逆に不公平になる」と主張。「2割負担への引き上げは絶対にやるべきではない」と声を強めました。
介護保険改悪
要支援・介護の6割が給付外 制度の信頼 根本から崩れる
財政審の建議は、介護保険で要介護1、2と認定されている人の在宅サービスを保険給付から外し、市町村が実施する地域支援事業に移行することを要求しています。
安倍政権が2014年に強行した法改悪により、すでに要支援1、2の人の訪問介護(ホームヘルプ)と通所介護(デイサービス)は保険給付から外され、支援事業に移行しました。また、同改悪により、要介護1、2の人は、特別養護老人ホームの入所からも原則として除外されています。
小池氏は、それらの改悪に続き要介護1、2の在宅サービスまで保険給付から外されれば、要支援・要介護と認定された人の6割が保険でサービスを受けられなくなると述べ、「これでは介護保険制度に対する信頼が根本から崩れる」と政府を追及しました。
安倍首相は「サービス取り上げではない」「自治体が適切にサービスを提供」などと弁明しましたが、実際には、地域支援事業は予算に上限がつけられ、すでに要支援1、2の介護の現場では、サービスの後退や担い手不足が深刻な問題となっています。
小池氏は、要介護1、2の保険給付外しを要求する財政審の建議が、自ら、要支援1、2のサービスの現状について、「当初想定された多様な主体によるサービス提供は進んでいない」と述べている事実をしめし、首相の答弁の欺まんを明らかにしました。
この5年間に安倍政権によって削減された社会保障費の自然増が、小泉内閣の時代を上回る1兆4600億円に達しているという小池氏の指摘に対し、安倍首相は「社会保障を効果的・効率的にする観点から改革を行い、結果、小泉政権より抑制できた。大変いい結果が出た」と強弁。小池氏は「大幅な削減に国民が苦しみ、悲鳴が上がっている。その反省がまったくない」と批判しました。
診療・介護報酬下げ
プラス改定で賃上げを 高すぎる薬価こそ下げよ
安倍政権が社会保障費の抑制路線を続けるなかで、医療・介護事業者の経営悪化、労働者の長時間過密労働や低賃金による人手不足などは深刻です。にもかかわらず安倍政権は、医療・介護サービスの公定価格である診療報酬・介護報酬を18年度改定で引き下げようと狙っています。
小池氏は、安倍首相が「働き方改革」のひとつとして企業に労働者の賃上げを求めていることを指摘したうえで、「企業には賃上げを求める一方で、日本の労働者の12%を占める医療・福祉労働者の賃下げにつながるような報酬の引き下げを行うのは、支離滅裂だ」と迫りました。この追及に、首相は国の「財政状況を踏まえつつ」と言いながらも「医療・介護現場を十分勘案して判断したい」と答えました。
小池氏は、人件費などにあたる診療報酬「本体部分」の引き下げに反対する一方、薬価部分について「新薬創出等加算制度」を例にあげ、「財源と言うなら、高すぎる薬価を引き下げるべきだ」と追及しました。
この加算は米国の要求で10年から試行導入したもので、必ずしも“革新的”ではない新薬を含め幅広く適用しています。年間2530億円もの財政影響がある一方、加算対象上位10社のうち8社が外資企業です。加算対象を厳格化する厚労省案に、「落胆した。(米国の新薬開発に)ただ乗りする危険性がある」(米国研究製薬工業協会、11月)と激しい圧力をかけています。
小池氏は「薬価を高止まりさせる制度はやめるべきだ」「企業の圧力に屈せず、薬価の引き下げ分(の財源)を本体部分にまわすべきだ」とプラス改定を提案。首相がかつての国会質問(97年4月、別項)で、薬価を引き下げて本体部分にまわすことを主張していたことを示し、決断を迫りました。
首相は「かつて言ったことはその通り」などと答えざるをえず、小池氏は「(医療・介護の)危機を打開するのは政治の最大の課題だ」と力説しました。
1997年4月9日の衆院厚生委員会
安倍議員「薬価差の1兆円がそのままお医者様の懐に入っているのではなくて、その根底には、現在の診療報酬が果たして適正なものであるかどうかということにもなる」