日本共産党 書記局長参議院議員
小池 晃

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2017年6月7日 特別委員会 速記録

2017年06月07日

○小池晃君 日本共産党の小池晃です。
 日本共産党は、天皇の退位の問題について、これは政治の責任で国民的な議論を進めることが必要だと述べてまいりました。その議論の根本に据えるべきは日本国憲法であります。憲法の根本精神は、個人の尊厳の尊重です。個人の尊厳という精神に照らせば、一人の方にどんなに高齢になっても仕事を続けることを求めるという今の在り方は見直す必要があると考えます。
 したがって、今回、政治の責任で天皇の退位を立法化することには日本共産党は賛成であります。
 立法に当たっては、現行憲法の象徴たる天皇の退位を初めて立法化するものであり、憲法第一条は、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」としており、広く国民的議論を踏まえたものにする必要があります。さらに、憲法第四条は、天皇は、この憲法の定める国事行為のみを行い、国政に関する権能を有しないとしています。退位の立法は、こうした憲法の規定に適合するものでなければなりません。
 こうした見地から質問をいたします。まず、今回の立法の根拠であります。
 六月一日の衆議院議院運営委員会において菅官房長官は、「政府としては、天皇の意思を退位の要件とすることは、天皇の政治的権能の行使を禁止する憲法第四条第一項との関係から問題があると考えます。」と述べました。さらに、「昨年八月の天皇陛下のお言葉を今回の立法の直接の端緒として位置づけた場合には、天皇の政治的権能の行使を禁止する憲法第四条第一項に違反するおそれがある」、「そのような疑念が生じないよう、趣旨規定の中でお言葉という文言を使用しないこととした」と述べておられます。
 一方で、今回の法案の第一条にはこう書かれています。御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることに深く案じておられると。これは、昨年八月のいわゆるお言葉の内容であります。これを示した上で、国民がこの天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していることを立法理由としているわけです。
 本法案は、お言葉という文言こそ使っていないものの、間接的ではあっても天皇の意思を盛り込むことになっております。これでは、事実上天皇の意思を退位の要件とすることになるのではないだろうか、あるいは、昨年八月の天皇のお言葉を立法の直接の端緒として位置付けたことになるのではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 昨年八月の天皇のお言葉は、これまでの御活動を天皇として自ら続けていくことが困難となるというお気持ちを国民に向けて発せられたものであり、退位の意向を示されたものではなく、天皇の政治的権能の行使には当たらないと考えています。
 また、国民がこの天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感しているという現状は、この天皇陛下のお気持ちに対する国民の受け止めであり、天皇陛下のお言葉と直接関係するものではありません。
 加えて、政府としては、国民的な議論が高まったことを踏まえ、予断を持つことなく検討を開始し、衆参正副議長による議論の取りまとめを受けて、今回の法案を立案し、提出したものであります。
 これらのことを踏まえれば、憲法第四条第一項に違反するものとは考えておらず、また、この法案の趣旨規定の中で天皇陛下のお気持ちや国民の受け止めという現状を記載することについて、憲法上の問題はないものと考えます。

○小池晃君 今の答弁は、国民がお気持ちを理解し共感している現状というのは天皇のお言葉と直接関係するものではないという御答弁でした。これが政府の見解だということなわけですね。
 それならば、高齢により活動を続けることが困難になることを深く案じているという天皇自身の懸念の内容を法律に盛り込むことは適切ではないのではないかというふうに考えるわけです。
 憲法に適合するものとするためにも、やはりここは、天皇退位を実現する理由は、天皇が高齢となって活動を続けるのが困難となるであろうという客観的な事実に基づいて、天皇の退位について国民が理解を示しているという事実に置くべきではないだろうかと私どもは考えます。
 それから、もう一つの問題点として指摘したいのが、本法案の第一条に、天皇が、「国事行為のほか、」「象徴としての公的な御活動に精励してこられた」という記述があることであります。
 日本共産党は、象徴としての公的活動、これはいわゆる天皇の公的行為ということになるんでしょうが、これを法律に書き込んでその全てを肯定するということには同意はできませんし、そもそも退位の法案に書き込む必要がないと考えるわけであります。
 いわゆる天皇の公的行為については、その在り方が天皇の政治利用につながるのではないか、これまでの国会でも議論になってまいりました。一九九〇年五月十七日の衆議院予算委員会で、当時の盧泰愚韓国大統領来日に関する議論が行われた際に、天皇の公的行為について内閣法制局長官が行った答弁があります。お示しをいただきたいと思います。

○政府特別補佐人(横畠裕介君) 御指摘の平成二年五月十七日の衆議院予算委員会において、当時の工藤内閣法制局長官は、天皇の公的行為について、「いわゆる天皇の公的行為というのは、憲法に定める国事行為以外の行為で、天皇が象徴としての地位に基づいて公的な立場で行われるものをいう」中略「国事行為の場合にはいわゆる憲法に言う内閣の助言と承認が必要であるということになっておりますが、天皇の公的行為の場合にはそこで言う内閣の助言と承認は必要ではない。また、あくまで天皇の御意思をもととして行われるべきものではございますが、当然内閣としても、これが憲法の趣旨に沿って行われる、かように配慮することがその責任であると考えております」、さらに、「天皇の公的行為というのは」中略「いわゆる象徴というお立場からの公的性格を有する行為でございます。そういう意味では、国事行為におきますと同様に国政に関する権能が含まれてはならない、すなわち政治的な意味を持つとかあるいは政治的な影響を持つものが含まれてはならないということ、これが第一でございます。第二が、その行為が象徴たる性格に反するものであってはならない。第三に、その行為につきましては内閣が責任を負うものでなければならない」と答弁しております。

○小池晃君 政府にお聞きします。
 天皇の公的行為についてのこの内閣法制局長官の当時の答弁、この立場は政府としても今も変わらないということでよろしいか。

○国務大臣(菅義偉君) 御指摘の工藤内閣法制局長官の答弁の考え方、すなわち、天皇の公的行為について、国事行為と同様に国政に関する権能が含まれてはならない、すなわち政治的な意味や政治的な影響を持つものが含まれてはならない、象徴たる性格に反するものであってはならない、内閣が責任を負うものでなければならないという考え方は、現在においても変わっていません。

○小池晃君 法制局にお聞きしますが、先ほどの答弁の中に三つの要件がありまして、その中で、二つ目に、公的行為は象徴たる性格に反するものではあってはならないということがございましたが、これはどういう意味でしょうか。

○政府特別補佐人(横畠裕介君) 御指摘の答弁における象徴たる性格というのは、憲法第一条において「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と規定されている、まさにそのことを言うものと理解されます。これに反するものであってはならないということは、天皇の公的行為が、この憲法第一条の趣旨、すなわち主権者である国民の総意に基づく象徴としての立場と抵触する、これに反するようなものであってはならないということと理解されます。

○小池晃君 二〇一〇年、中国の習近平氏の来日の際、天皇との会見が行われたことが問題となり、当時野党の自民党が批判しております。政府を追及しております。
 自民党の下村博文議員はこう述べられました。
 「天皇の公的行為について内閣が責任を負うということは、時の内閣あるいは党派の都合や政治判断で天皇を意のままに動かしていいということを意味するものではありません。」、「我々は、明らかに今回のケースは政治利用だと考えています。」と述べています。
 こういう議論があったことを官房長官は覚えておられると思うんですが、この下村議員の主張に同意されますか。

○国務大臣(菅義偉君) 当時の平野官房長官は、御指摘の下村委員の質問に対して、国政に関する権能を有しない天皇陛下による純然たる二国間の友好親善を目的としたものであり、天皇の政治的利用ではない旨の答弁を行っていると承知しています。
 当時の政権の判断について私の立場からお答えすることは差し控えたいと思います。

○小池晃君 いや、私は、政権の判断を聞いたのではなくて、御党の議員でもある下村議員の主張に同意されますかとお聞きをしたんです。

○国務大臣(菅義偉君) いずれにせよ、天皇の公的行為については、平成二十二年二月十八日に示した政府統一見解のとおり、各行事等の趣旨、内容のほか、天皇陛下が御臨席等をすることの意義や国民の期待など、様々な事情を勘案し、判断していくべきであること、内閣は天皇の公的行為が憲法の趣旨に従って行われるよう配慮すべき責任を負っていることなどから、今後とも適切に対応することが必要であると考えています。

○小池晃君 ちょっとお答えいただけなかったんですけどね。
 今、もう先に次の話に行かれてしまったんですが、この問題、当時、自民党の谷垣総裁は、「特に天皇の公的行為は裁量の余地があって多様だから、天皇が政治的ないろいろなものに巻き込まれるようなことがないようにきちっとしたルールが要るのではないか、」という提起をされた。で、その年二月十八日の政府統一見解ということになったんですが、これ、今も、じゃ、現政権も同じ見解だということになるんでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 平成二十二年一月二十一日の谷垣委員の発言を受けて、政府において天皇陛下の公的行為についての政府の統一見解を作成をし、そして二月十八日の衆議院予算委員会理事会に提出したものと承知しています。
 その統一見解というのは、これまでの天皇の公的行為についての政府見解を踏まえ、天皇の公的行為については、各行事等の趣旨、内容のほか、天皇陛下が御臨席等をすることの意義や国民の期待など、様々な事情を勘案し、判断していくべきであること、内閣は天皇の公的行為が憲法の趣旨に沿って行われるよう配慮すべき責任を負っていること、こうしたものを示しております。
 政府においては、この考え方を踏まえて適切に判断していくべきものと考えています。

○小池晃君 時の政府が様々な事情を勘案し、判断して天皇の公的行為を決めると言いますが、それが政治利用にならない担保はあるんでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 今申し上げましたように、内閣は天皇の公的行為が憲法の趣旨に沿って行われるよう配慮すべき責任を負っていること、こうしたものを今申し上げたのでありまして、政府においては、この考え方を踏まえて適切に判断していきたいと思います。

○小池晃君 第二次安倍内閣の下でも天皇の政治利用は問題になりました。二〇一三年四月二十八日、政府主催の主権回復を記念する式典に天皇の出席を求めた。これは、一九五二年四月二十八日に発効したサンフランシスコ平和条約と日米安保条約によって、日本は形式的には独立国となりましたが、実質的にはアメリカへの従属国の地位に縛り付けられたというのが歴史の真実であります。
 また、沖縄にとっては、本土から切り離されて、アメリカ占領下に置かれた屈辱の日であり、その後の本土復帰運動の起点となった日です。主権回復の日というのは、歴史的事実とも異なると思います。
 このような式典に天皇の出席を求めたことは、これは、自民党の下村議員が、時の内閣あるいは党派の都合や政治判断で天皇を動かす明らかな政治利用とおっしゃったことになるんじゃないでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 御指摘の式典は、サンフランシスコ平和条約の発効による我が国の完全な主権回復及び国際社会復帰六十年の節目を記念し、我が国における国際社会の平和と繁栄への責任ある貢献の意義を確認するとともに、これまでの経験と教訓を生かし、我が国の未来を切り開いていく決意を確固たるものとする趣旨で行ったものであります。
 政府としては、このような趣旨で式典を挙行し、天皇皇后両陛下の御臨席を賜ったものであり、政治利用には該当しないと考えます。

○小池晃君 私は、これは典型的な政治利用の一つだったというふうに思います。
 これは、非常に極めて政治的な開催経緯があります。自民党の伝統と創造の会が中心となって主権回復記念日制定議員連盟をつくって運動して、野党時代の自民党方針に盛り込んで、政権復帰後に式典が行われた。沖縄では、当日、一万人以上の市民が集まって抗議の声を上げたわけです。私は、このような式典を政府主催で開催することに国民的合意は存在しなかったと思います。
 国民の意見が割れていることが明らかな式典に天皇の出席を求めたということは、これは、天皇の政治利用であるだけではなく、先ほどの答弁にもございました、この公的行為のルールの中にある、象徴たる性格に反するものであってはならない、要するに、国民統合の象徴としての性格にも反することになるんじゃないでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 本式典に当たっては、沖縄がさきの大戦において悲惨な地上戦を経験をしたこと、また、サンフランシスコ平和条約の発効以降も一定期間、奄美群島、小笠原諸島及び沖縄が我が国の施政権の外に置かれたという苦難の歴史を忘れてはならず、苦難を耐え抜かれた先人の心情に思いを致し、沖縄の方々が抱える基地負担の軽減に取り組むとともに、奄美群島、小笠原諸島及び沖縄を含む我が国の未来を切り開いていく決意を新たにすることが重要であるというふうに考えたものでありますし、本式典については、このような式典の趣旨、内容のほか、天皇陛下が御臨席をすることの意義、国民の期待など、様々な事情を勘案して政府として天皇皇后両陛下に御臨席を賜ると判断したものであり、象徴としての天皇の性格に反するものではないと考えます。

○小池晃君 今のお話には沖縄の人々は決して納得しないだろうと私は思います。
 このような天皇の政治利用が繰り返されてきたから、私どもは、公的行為を退位法案に書き込んで、その全てを肯定することにはこれはすべきではないということを重ねて申し上げたいというふうに思います。
 最後に、議論の進め方です。
 日本国憲法第二条は、「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」としています。この規定について、戦前の皇室典範は、これは帝国議会の関与できない宮務法だったわけですが、しかし、戦後の憲法の下では国会が議決する法律となって、皇室典範は法律の一種であるというふうになったわけです。これは、金森大臣述べております。
 私は、そうであるならば、これは日本国憲法の下での天皇の制度というのは、やはり戦前の天皇主権の天皇制とは原理的に異なるわけで、主権者である国民の総意に基づく象徴の制度として議論すべきであって、したがって、やっぱり退位の立法も含めて、天皇の制度をめぐる法律の在り方については自由で闊達な国民的な議論が保障されなければならないと、静ひつなということで国民の自由な議論が抑制されてはならないと考えますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 天皇の制度の検討に当たっては、憲法第一条において、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」とされていることを踏まえれば、国民の理解と支持を得られることが必要であると考えます。
 今回の天皇の退位等に関する問題についても、このような観点から衆参正副議長による議論の取りまとめが執り行われた、このように承知します。

○小池晃君 終わります。

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