参院本会議
2014年6月2日
○小池晃君 私は、日本共産党を代表して、医療、介護の総合的確保を推進する法案について質問をします。
政府が強行した消費税の増税は、国民の暮らしに重くのしかかっています。総理は今回の増税を社会保障のためと言いますが、本法案に盛り込まれている新施策のうち、消費税増税分を充てるのは一体どれだけあるのでしょうか。
衆議院での審議で、政府は、消費税増収分五兆円のうち介護の充実に充てる額は僅か四十億円と答弁しました。子育て支援などを含めても、社会保障の充実に充てるのは消費税増収分の一割程度にすぎず、その一方で、本法案のように大規模な給付減と負担増が狙われています。増税は社会保障のためというごまかしは、もうやめるべきではありませんか。
総理は、衆院での審議で、日本の社会保障の現状を世界に冠たるものと述べました。しかし、日本の社会保障費は、対GDP比でドイツやフランスの七割程度という水準です。地域医療の崩壊が叫ばれ、五十万人を超える介護難民が生まれ、国民年金の平均受給額は月四万円台です。この現実の一体どこが世界に冠たるものと言えるのでしょうか。
総理は国民皆保険を世界に誇れる制度とも言いますが、国民と医療従事者の努力で守られてきたこの制度を、窓口負担を毎年のように引き上げ、百四十万世帯以上から正規の国民健康保険証を取り上げ、根底から脅かしているではありませんか。
本法案は、負担増にとどまらず、介護保険給付の対象を制限し、病院のベッド削減を強制的に進めるものであり、その結果、多くの国民を公的保険による医療・介護サービスから排除することになるのではありませんか。
以上、安倍総理の答弁を求めます。
さらに、法案の具体的な内容に即して質問します。
第一に、法案が、要支援者への訪問・通所介護を保険給付から外し、市町村の地域支援事業に置き換えるとしていることであります。
厚生労働大臣は、地域支援事業に変わっても適切なサービスが維持されると繰り返しています。
しかし、今回の制度改変により、現行制度なら五から六%の伸びで推移していく要支援者の給付費を、今後は三から四%の伸びに抑え込むため、総予算の圧縮、サービス単価や人件費の切下げ、利用者の負担増を想定しています。給付費削減の目標を公然と掲げながら、サービスを維持、改善するかのように説明するのは、明らかな欺瞞ではないでしょうか。
本法案には、各地の自治体当局からも次々と懸念の声が上がっています。中央社会保障推進協議会のアンケートに回答した五百十五自治体のうち、三割以上が新事業への対応は不可能と回答しています。全国二百十の地方議会で法案に異議を唱える意見書が採択され、そこには、市町村には受皿はなくサービスに地域格差が生じる、要支援者の重症化が進み保険財政を圧迫する、介護の社会化に逆行するなどの声があふれています。
新事業の担い手とされる自治体からこれだけ反発が出ているという一点を取っても、本法案は撤回し、一から見直すべきではありませんか。厚労大臣の答弁を求めます。
第二に、法案が、特養老人ホームへの入所を原則として要介護三以上に限定するとしていることであります。
特養待機者は現在五十二万人、うち十七万八千人は要介護一と二です。これらの人の入所の道が閉ざされようとしているのです。
この間、特養待機者が激増している根本的な原因には、高齢者の貧困の拡大があります。厚労省の調査でも、年金受給者の四八%は年額百万円以下の低年金者です。こうした方々が要介護状態となったとき、費用の心配なく入居できる施設は特養しかありません。
ところが、政府は、特養の整備、増設を抑制し、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅など、低所得者が利用できない、利用しにくい施設の整備ばかり推進してまいりました。そうした中で、行き場のない高齢者が、劣悪な条件のお泊まりデイサービスや簡易宿泊所を漂流するなどの事態が広がっています。長年御苦労を重ねてきた高齢者の人生の終末期に、こんな悲惨な暮らししか提供できない、そんな国でいいのでしょうか。
特養入所を要介護三以上に限定すれば、大量の高齢者が、今度は待機者にもなれないまま放置されることになってしまいます。安倍総理、こんな改悪は直ちにやめ、特養の抜本的増設へ国がかじを切るべきではないでしょうか。
第三に、法案は、利用料の二割負担の導入、低収入で介護施設に入所する人に対する補足給付の縮小など、在宅でも施設でも、利用料の大幅な負担増を盛り込んでいることであります。
政府が検討する二割負担導入のラインは、医療保険の現役並み所得者の所得水準よりもはるかに低いもので、高齢者全体の二割に及びます。到底、高額所得者と呼べる方々ばかりではありません。
要介護の高齢者は、定率の利用料のほかにも、医療費の窓口負担や通院費、ショートステイの食費、おむつ代など、様々な自己負担を強いられています。年金削減の被害も直撃しています。
厚労大臣には、介護利用料の負担増が、サービス利用の抑制を引き起こし、重症化をもたらし、更なる介護保険財政の悪化を招くという認識はないのですか。はっきりお答えいただきたい。
第四に、法案には、都道府県主導で病床の再編、削減を推進する仕組みが盛り込まれています。衆議院で参考人として陳述した日本医師会の中川俊男副会長は、都道府県が病床計画を持つことには賛成しつつ、決して強権的なペナルティーを発動することがないよう要請されました。
ところが、我が党議員の質問に対し、厚労省は、都道府県の病床計画に病院が従わない場合、医療機関名の公表、各種補助金や融資対象からの除外などの制裁措置をとるとし、懐に武器を忍ばせていると答弁しました。
まさに、医療機関に脅しを掛け、いざというときには強権を発動することの宣言であり、その結果、国民が医療機関を選択する権利を奪うことになるのではありませんか。日本の医療制度の根本原則であるフリーアクセスに対する重大な挑戦ではありませんか。総理の答弁を求めます。
本法案には、ほかにも、医療事故調査組織の創設、看護師による特定医行為など様々な制度改変が盛り込まれています。これらは、本来なら別々の法案として、十分な時間を掛けて慎重に審議すべきものであります。十九本もの法案を一括して提出したことは、国会の審議権を奪うものだと言わざるを得ません。参議院では、各会派が法案に対する賛否を超えて、徹底的な審議を行うことを求めるものであります。
総理は、この間、社会保障の基本理念として、自助自立と家族の支え、地域の助け合いを強調してきました。しかし、憲法二十五条は生存権を保障し、社会保障増進の責務は国にあると定めています。
社会保障の基本は自助自立でなく、公的責任なのではありませんか。それが、世界人権宣言などにうたわれている世界の社会保障制度の根幹を成す理念なのではありませんか。総理にはそういう基本的認識はあるのでしょうか。明確な答弁を求めます。
要支援者を介護保険の枠外に追いやり、要介護一、二を特養から排除し、入院患者を病院から追い出して家族や地域に押し付けようとする本法案の内容は、憲法二十五条で定められた社会保障に対する国の責任を投げ捨てるものにほかなりません。
日本共産党は、社会保障の充実、応能負担の原則に立った税・財政の改革、国民の所得を増やす経済改革を一体に行うという抜本的対案を掲げています。日本の医療、介護の危機を一層深刻にする本法案は廃案とし、社会保障、財政、経済の未来を切り開く真の改革の実現のために奮闘する決意を述べて、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 小池晃議員にお答えいたします。
消費税率の引上げと社会保障の充実についてお尋ねがありました。
消費税率引上げによる税収は、全額、社会保障の充実と安定化に充てます。社会保障の充実に向ける金額は、消費税収の増加に応じて段階的に拡大していくこととしており、三%引上げ分については、平成二十七年度には一・三五兆円程度を向け、介護サービスの充実を含め、更なる介護保障の充実に活用します。
急速な少子高齢化の進展により、今後とも社会保障費の増加が避けられない中、消費税率の引上げにより安定財源を確保しつつ、制度の充実と重点化、効率化を同時に進め、持続可能な制度を確立していきます。
日本の社会保障の現状認識についてお尋ねがありました。
国民皆保険・皆年金を根幹とする我が国の社会保障制度は、国民に世界一の長寿と生活の安定をもたらしました。世界に冠たる制度であると考えています。
年金により老後の生活の安定を保障しつつ、医療、介護を必要とする方が適切なサービスを受けられる仕組みが将来にわたって持続可能であることが重要であり、社会保障給付費の対GDP比で単純に制度の良しあしを比較することは適切でないと考えます。引き続き、プログラム法に沿って、受益と負担の均衡が取れた制度へと不断の改革を進め、社会保障制度をしっかりと次世代に引き渡してまいります。
医療・介護制度改革についてお尋ねがありました。
急速な少子高齢化の下、国民皆保険を堅持していくためには、負担の公平を図る観点から、医療保険における適切な患者負担の在り方を検討していくことや、保険料を確実に納付していただくための対応は必要であると考えます。
また、本法案は、患者の状態に応じた適切な医療が提供されるよう医療提供体制の見直しを行うとともに、要支援者の多様なニーズに対応するため、従来と同様、介護保険の財源を用いつつ、より柔軟かつ効率的なサービス提供ができるように見直しを行うものであり、御指摘は全く当たりません。
特別養護老人ホームへの入所についてお尋ねがありました。
今回の法案では、特別養護老人ホームへの新規入所については、より必要性の高い中重度の方に重点化することとしています。また、軽度の方ではあっても、認知症の方で在宅や他の施設での介護が困難である場合には入所できるようにするなど、一定の例外も設けることとしています。また、必要な特別養護老人ホームの整備や在宅サービスの充実を進めるとともに、有料老人ホームの確保を支援するなど、高齢者のニーズに応じた多様な住まいの確保に努めてまいります。
今回の法案における都道府県の権限についてのお尋ねがありました。
病床の機能分化、連携については、都道府県に協議の場を設置し、医療機関等の協議により、自主的な機能分化、連携を推進することとしています。
このような自主的な協議を前提としつつ、都道府県が一定の役割を果たすことにより、患者の状態に応じた病床の機能分化、連携が効果的に推進され、地域に必要な効率的かつ質の高い医療提供体制が確保されるものと考えています。これは、むしろフリーアクセスを維持するためのものであり、御指摘は全く当たらないと考えます。
社会保障制度の理念についてお尋ねがありました。
今後の社会保障制度の方向性としては、若者も女性も高齢者も、国民一人一人が持てる力を最大限発揮し、健康で自分らしく生きることができるよう、その取組を支援する観点が重要と考えています。
改革に当たっては、自助自立を第一としつつ、共助と公助を組み合わせ、弱い立場に置かれた方々にはしっかりと援助の手を差し伸べることとしており、憲法二十五条に基づき、国が社会保障の向上、増進に努める責務をしっかりと果たしてまいります。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
〔国務大臣田村憲久君登壇、拍手〕
○国務大臣(田村憲久君) 小池議員にお答え申し上げます。
予防給付の見直し後のサービスと費用についてのお尋ねがありました。
今回の改正はサービスの抑制ありきで行うのではありません。要支援者の多様なニーズに対応するため、市町村を中心とした支え合いの体制づくりをこれまで以上に推進し、既存の介護事業者によるサービスに加えて、住民が担い手として参加するサービスの拡充を進めます。その中で、市町村が多様なサービス内容に応じたふさわしい単価を設定することといたしております。
あわせて、高齢者が主体的に参加する体操教室など、介護予防につながる取組の強化を通じて、健康を維持し続ける高齢者や、生活機能が改善して要支援から自立する高齢者を増やしていきます。
これらの取組により、利用者の選択の幅を広げつつ、費用の効率化を図っていきたいと考えております。
続きまして、予防給付の見直しについてのお尋ねがありました。
今回の見直しにより、予防給付の一部を地域支援事業に移行することとしていますが、地域支援事業の実施主体は市町村であるため、これまでも見直しの趣旨や枠組みを市町村に丁寧に説明し、その御意見も反映させ、理解をいただきながら法案を提出いたしております。また、見直し後の事業の財源構成は予防給付と同様とするなど、市町村財政を支援するとともに、事務負担の軽減にも配慮いたしております。
施行に向けても、引き続き市町村と意見交換しつつ、ガイドラインの策定などを通じて市町村の取組を最大限支援してまいります。
最後に、介護保険の利用者負担についてのお尋ねがありました。
今後、介護費用の増大が見込まれる中、保険料の上昇を可能な限り抑え、介護保険制度の持続可能性を高めるとともに、高齢者世代による世代内の負担の公平性を図っていくことが必要であります。
このため、今回の法案においては、これまで一律一割であった利用者負担について、一定以上の所得のある方は二割とすることといたしております。その基準については、高齢者の消費支出等を考慮して負担可能と考えられる水準を基本としており、また、利用者負担の月額上限額は基本的に据え置くこととしていることから、必要なサービスの抑制にはつながらないと考えております。
以上でございます。(拍手)
○議長(山崎正昭君) しばらくお待ちください。
答弁の補足があります。内閣総理大臣安倍晋三君。
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 消費税増収分の活用についてのお尋ねについて答弁が抜けましたので、補足をさせていただきます。
本法案に基づき各都道府県に設けられる新たな基金については、消費税増収分を活用することとしており、平成二十六年度では地域の医療機能の分化、連携等を進める事業について、国、地方合わせて五百四十四億円を確保します。
このほか、平成二十七年度以降の施策として、今申し上げた基金のうち、介護分による基盤整備の実施、在宅医療・介護連携や認知症施策の推進等の地域支援事業の充実、低所得者の介護保険料軽減の拡充を本法案に基づいて図ることとしていますが、具体的な金額等については平成二十七年度予算編成過程において検討することとしております。
以上であります。(拍手)
○議長(山崎正昭君) これにて質疑は終了いたしました。