○小池晃君 日本共産党の小池晃です。
先日の予算委員会で私、総理に質問したんですけれども、総理は今年の春闘も高い水準の賃上げを維持しているというふうに答弁されて、ちょっと私、耳を疑ったんですね。賃上げの流れが確たるものとなっているというふうに総理はおっしゃるわけです。賃上げによって景気の好循環が起こっているという、こう言うんですが、しかし、今年の春闘というのは、これは日本経団連の集計でも連合の集計でも、これは昨年を下回っていることは事実としてはっきりしている。エコノミストによる見通しも明るい材料はほとんどないわけですね。日銀短観でも大企業の景況感も悪化をしているわけです。
経済の好循環が起こっていると言うけど、そういった実感も実態もないんじゃないかと思うんですが、大臣、大臣も今春闘は高い水準の賃上げだという認識ですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 今、連合の発表のお話が出ましたけれども、四月二十九日の連合発表によりますと、正規雇用労働者の月例賃金の賃上げが五千九百四十八円、賃上げ率は二・〇三%ということで、賃上げの流れは三年連続で続いているということは間違いないわけであります。
特に、非正規の労働者の月給につきましては、本年四月一日の時点で賃上げ率は二・二二%となっておりまして、これは同じ時点の正規雇用労働者の賃上げ率二・〇九%を上回っておりまして、また昨年同時期の非正規の賃上げ率二・一一%も上回っていると。また、自動車など一部の産業分野では中小の賃上げが大手を上回っているという例もございます。
したがって、昨年を若干、先ほどお話があったように本年は二・〇四%ということで、四月十四日と昨年の四月十六日の集計を比べると、昨年二・二四%でしたから若干下回っておりますけれども、全体として達観してみれば、引き続いて、その高い水準と言っていた水準とそう変わらない水準だというふうに思っております。
○小池晃君 いや、昨年に比べれば低いと認めているんだから、そういう、あれこれあれこれ何か訳の分からない比較を持ち出して、全体としてはやっぱり去年に比べれば、これは賃上げは落ちているというのは事実じゃないですか。それをやっぱり厚生労働大臣はちゃんと認めた上で政策つくらないと、私は誤ると思いますよ、政策を。去年に比べればこれは、私はいいと言っているわけじゃないですよ、ゆゆしきことだと思っているんだけれども、やっぱりそういった実態だということをちゃんと踏まえて言っていただきたい。
総理は、高い水準の賃上げを維持していると、大臣も今ちょっとそんなことをおっしゃるんですが、現場ではどうなっているかなんですね。今日は大手電機メーカーの今の動きについてちょっと取り上げたいと思うんですが、大手電機メーカーはこの数年間で、パナソニック、ソニー、ルネサス、十三社だけで二十五万人の人員削減を進めています。働き盛りの人が大量に仕事を失っているという実態がございます。これだけでも日本経済にマイナスなときに、さらに賃金について、今新しい人事制度の導入ということが相次いでおりまして、大幅な賃金減額の仕組みがつくられているんですね。
大手電機メーカーのソニー、ここが二〇一五年七月に、高収益企業への変革を目指すとして、新しい人事制度としてジョブグレードという仕組みを導入をしております。今日、資料でお配りをしているとおりでありますが、この新等級制度というやつです。
これ、今までも成果主義賃金というのはもちろんあったんですが、特徴は年功的要素を完全に排除をしているんですね。仕事の役割に応じてジョブグレードというのが決まっていると、それに応じて賃金が決まっている等級を与えるという仕組みになっている。年齢とか能力に関係なくて、同一の役割であれば同じ賃金にすると。何だか同一労働同一賃金みたいな話かもしれませんが、ちょっと低い方にこれでどんどんどんどん流れるというような動きが今起こっているわけです。役割を基準に賃金を決定するので、評価が下がるとポストが変わるんですね、役割に応じた。それに応じて賃金も下がっていくと。企業にとってみれば、固定費だった人件費、給与を流動費化できるので、これはもう人件費削減に非常にやりやすくなるという仕組みなわけです。
旧制度から移行する際には、現在の基本給が新しい等級のベース給の上限を超えている場合は、上限の水準まで毎年現在の賃金の五%の削減が進むということになっていて、これ部課長クラスだと年収が最大七十二万円減額されるというケースも生まれてきております。今までの、前の等級よりも、もちろん中には上がる人もいるわけですが、下位になると基本給下がります。その分、退職金の減額もあります。
ソニー労働組合は、賃金、退職金など重要な労働者の権利、労働条件を不利益変更するものだと、これ厳しく批判しております。組合の春闘アンケートでも、回答した七割の人が賃金が減額されたと。係長クラスでも毎年二万円、六年間で計十三万円減額になって、一時金も下がります、前年比で総額五十五万円も下がるという、そういうことも言われている。
この配付資料を見ていただくと、改定前は一番多いのはCG1というクラスです、グループです。
これが五千七百八十人と全体の六割強を占めているんですが、この最も大きなグループからやはり全体の四七%を占めるI3、I4、ここに動く人たちは、これは大幅減額の対象になってくるんですね。四十代、五十代の労働者が多くて、住宅ローン、教育費考えると本当に大変だという声が寄せられています。今、政府は賃上げだというふうにおっしゃっているわけですけれども、まさにこういう新しい人事制度によって賃上げとは逆行することが始まっているんですね。
大臣、もうまさに大幅賃下げシステムになっていると私は思うんです。これは、大臣、こういうやり方、こういう人事制度、賃金体系についてどういう認識をお持ちでしょうか。これは、その是非についてどう評価されているでしょうか。
○国務大臣(塩崎恭久君) これは、まず第一に、あくまでも民間の企業での物事を決めるということで、賃金制度はどう見直すかというときには、各企業がその経営状態とかあるいは働く方々の暮らしなどを考慮して、労使の話合いを通じて自主的な判断を企業として行っていくというのが基本だというふうに思います。
個別企業の賃金制度の見直しの是非についてのコメントは大臣としてはなかなかできることではございませんが、問題は、きちっとした法令に従って対応しているのかどうか、手順をちゃんと踏んでいるのかどうかということが大事で、労働基準法の遵守とか、そういった面で私どもとしては監督指導、労働契約法の周知をしていかなきゃいけない中で、一般論として申し上げると、賃金制度は、今申し上げたとおり、労働条件の見直す場合の労働契約法上の定めというのはもう御案内のとおりであって、やはり働く方々と使用者の合意が原則。本当にそれを守られているのか。就業規則の変更によって、賃金等の労働条件を変えるという場合には労働組合からの意見をちゃんと聴くということが労働基準法の規定に定められているわけでありますから、そういうことをちゃんとやっているか。
特に、労働条件を不利益に変更する場合、今、小池先生からお話ありましたが、労働契約法の規定に照らして適正かつ合理的なのかということであって、どういう決め方をするかというのは、今申し上げたような手順をきちっと踏んだ上で合意ができているかということが大事なのかなというふうに思います。
○小池晃君 労働契約法は、労使合意さえあればどんな不利益変更も認められるとなっているわけじゃないですから、そのことをちょっと後でもう一回議論したいんですが。
ちょっと、これが個別企業だけの問題じゃないんですよ。この表にある左側、ルネサス、これ半導体メーカーですが、ルネサスエレクトロニクス社、これが実はモデルになっているんじゃないか、お手本になっているんじゃないかとも言われている新人事制度です。やはり、かなり減額になるわけですね。
経産省に聞きます。ルネサスエレクトロニクス社には、政府系ファンドである産業革新機構から、二〇一二年、千三百八十三億円の出資が行われております。産業革新機構の現在のルネサスの株式保有率はどれだけでしょうか。
○政府参考人(保坂伸君) お答え申し上げます。
御指摘のように、二〇一二年の十二月に産業革新機構はルネサスエレクトロニクス株式会社に対しまして民間八社と共同して千五百億円の出資を行い、うち産業革新機構からは千三百八十三・五億円の出資が行われておりまして、この結果としまして、六九・二%の株式を保有いたしました。その後、保有比率に変動はございません。
○小池晃君 もう一点、ルネサスの現在の業績どうですか。昨年二月発表の第三・四半期、二〇一五年の累積決算、営業利益及び利益率を言ってください。
○政府参考人(吉本豊君) お答え申し上げます。
二〇一五年度の第一・四半期から第三・四半期までの累計でございますけれども、営業利益八百八十一億円、営業利益率一六・八%となっております。
○小池晃君 政府全体としては企業に賃上げを求めるということをやっているわけですから、国が六割、七割、六九%、七割近くの株式を持っている企業であれば、しかも巨額の利益、今上がっているわけですから、やっぱり経産省が賃金の引上げを求めるということだってあっていいんじゃないかと私は思うんですが、そういったことはやられましたか。
○政府参考人(吉本豊君) 賃上げにつきましては、未来投資に向けた官民対話などの場におきまして、総理から直接経済界に対して賃上げに向けた積極的な取組を要請してきておるところでございます。
経産省としましても、経産大臣を先頭に、省を挙げて五百を超える業界団体に対してお願いをしております。ルネサスが加入しております業界団体でございます電子情報技術産業協会、JEITAと申しますけれども、JEITAに対しましても経産大臣より賃上げ要請を行っておりまして、その会員企業であるルネサスエレクトロニクスにもこの要請は届いているものというふうに認識をしております。
○小池晃君 そんな業界団体を通じてじゃなくて、これだけ国が関与している企業だったら直接言ったらどうかと思うのに、言っていないわけですよね。
ソニーも、今年三月決算で純利益千四百七十七億円、ソニーグループの連結内部留保は二兆四千億円、国内十五位です。ルネサスも営業利益率で一七%で高い業績を上げている。ところが、この人事制度、新しい人事制度で大幅賃下げが続いております。ルネサスは、これは一人十五万円の減額を二〇一一年にやり、二〇一二年には年末一時金支給を停止し、一万四千人の人員削減を行い、残った労働者に対しては百億円に上る人件費の削減が恒久的な労働条件の不利益変更として提案されています。具体的には、家族手当、食事手当など各種手当を廃止、縮小、基本給は一律七・五%カット、この新しい人事制度の改定による新賃金レンジの上限より高い場合は上限まで下げるという内容です。その結果、減額が一〇%を超える人も出てきている、あるいは関連会社への転籍で基本給が減額になる人も出てきていると、そういう状況なんですね。
これ、ソニーもルネサスもパナソニックなども、公然と人件費コスト競争力の強化ということをうたって、次々にこういう人事制度を導入して、もう年功的要素を全く排除した形での大幅賃金引下げをやられているわけです。経営状況を改善しても更なる賃下げをやられているんですね。
ソニーは、労使協議の申入れの中で、社員の皆さんにとっては一時的に厳しい施策となる側面もあるというふうに言いながら、新しい制度の説明では、今回の制度においては人件費に係る高コスト体質を改め、結果として現行と比較した人件費総額が抑制されることを予想していると、公然とこの導入の意図を経営者側は語っているわけですね。
大臣、改めて聞きますが、こうやってちょっと紹介をしてまいりましたけれども、やっぱりこういう人事制度というのは、政府を挙げてやはり賃上げをとやっているときに、それを阻害するようなことになっていませんか。これ、このままでいいんだろうかと私は思うんですが、どうですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) 先ほども申し上げたことを繰り返すわけでありますけれども、賃金制度そのものは企業の中でどう見直すかということで、それの言ってみればコンプライアンスが守られているのか、そのことが一番大事で、労使の話合いを通じて自主的に判断をしていただくというのが法律的なフレームワークの中で行われるべきことで、個別企業の賃金制度の見直しの中身の評価というのは私どもがすべきことではないんだろうと思います。
我々がやはり関心があることは、きちっと賃金を上げられるだけの競争力を持っていただける企業に生まれ変わってもらえるかどうかというところが大事であって、生産性の向上、生産性革命と言っているのは、まさに競争力があるためには生産性が他の競合、他企業との競争に勝てるというところでないと高い賃金は払えないわけでありますから、そこのところをどうつくっていくかということは、我々は、やっぱり経済の好循環で賃下げを行うとか、実質的に今おっしゃったようなことが起きないような企業になってもらうというのが大事なんだろうというふうに思いますので、そういう意味で、全体としては、先ほど、高いか低いかの評価はいろいろありますけれども、ベアが三年連続で起きているということは、それなりにやはり競争力をバックに行われていることなんだろうというふうに思いますので、我々のやるべきことは、そういった企業の競争力強化のために応援ができることは全てやっていくということじゃないかと思います。
○小池晃君 いや、大臣、だって経産大臣じゃないんですよ。厚生労働大臣なんですよ。今の発言、経産大臣だったら、私、分からないでもないけれども、やっぱり厚生労働大臣がそういった視点だけで、そういった視点ももちろんなきゃいけないと思いますよ、でも、そういった視点だけで物を言ったら、厚生労働省なんかなくてもいいということになりますよ。やっぱり労働者をちゃんと守ってくれなきゃ。
しかも、じゃ、余裕がないのかといったら、ソニーは、社長の総報酬は三億六千万円というふうに、この直前ですけれども一・七倍に上げているとか、そういったことだってあるわけですよ。やっぱりそういったこともちゃんと見直さないといけないじゃないかと私は思う。
それから、もう一つ別の角度で聞きたいんですが、ルネサス労働組合の団交時に確認した会社の最終提案を見ますと、さっき言った人件費の恒久的百億円減額という規模での改定の必要性について、会社が策定した変革プランの中で、経営環境悪化の場合でも自力で会社が存続可能とする必要があって、このボトムケースは産業革新機構などの出資などの前提になっている計画でというふうにあるわけです。つまり、ルネサスの七割の株を保有している産業革新機構が人件費百億円減額という不利益変更を含む変革プランを出資の条件にしているということになるわけですよ、これ。
私、ちょっと経産省に聞くんですけれども、賃上げを求めていながら、政府系ファンドの出資の条件が大幅賃下げになっていると、こんなこと許されるんですか。
○政府参考人(保坂伸君) お答え申し上げます。
まず、議員御指摘いただきました機構につきまして、出資の段階で個別の費用削減策を出資の条件とした事実はございません。しかしながら、ルネサスエレクトロニクス株式会社におきましては、設立当初の二〇一〇年度より、出資は二〇一二年にしたわけでございますが、純損失が継続してございまして、機構の出資のいかん以前に、企業を存続するために収益構造の立て直しが経営課題と当時なっておりました。したがいまして、収益構造の改善策は同社の経営判断としてまず行われたものと認識してございます。
産業革新機構につきましては、出資の原資の大半は公的資金でありますので、出資に当たりましては、出資により得られたキャッシュが成長投資に活用され、これにより一定の出資の回収の蓋然性が担保される必要があると考えておりまして、このため機構は、資金の投入に際しまして、当然の対応として収益構造の改善策の内容の妥当性の確認は行ったというふうに言っております。
○小池晃君 でも、それ、出資当時はそうだったかもしれないけれども、その後、収益がこれだけ改善しているわけですよ。それに対して、先ほどの質問でも、やはり企業に対して賃金改善ということを言っていないわけですよね。私、これでいいのかなというふうに思うんです。
大臣は繰り返し、それは労使合意なんだ労使合意なんだと言うけれども、労使合意があればどんな不利益変更も許されるということになりませんよ、これ。
例えば、労働組合は、ルネサスでも当初はこれ到底応じることはできないと言っていた。しかし、これ押し切られてしまったわけですよ。労働基準法の九十一条では、就業規則で減給制裁を求める場合、総額が賃金総額の十分の一を超えてはならないと言っているのに、これ二〇%超が三割強という異常な事態になっているわけですね。私、こういうことを認めてしまったらいけないと思うんです。
大臣、これ、出資の問題はこれは経産省でしょう。しかし、政府を挙げて、こういったやり方についてはいかがなものかということをやっぱり政府内で大臣がイニシアチブを発揮すべきじゃないでしょうか。私はそれやっていただきたいと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(塩崎恭久君) おっしゃるように、労働契約法を見ても、使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することによって労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないということでありますから、それは先生の御指摘のとおりだと思います。
厚生労働省として、先ほど私が説明したことは、必ずしも、それは経産省でいいじゃないか、経産大臣でいいとおっしゃいましたが、厚生労働省でありますから、労働生産性を上げるということに関しては我々は責任はあるものだというふうに思っておりますし、労働生産性を上げていくことが賃金を上げられることのベースになるわけでありますので、そういう意味で、私たちは労働生産性を上げて企業の言ってみれば競争力も増しながら、その中で賃金を、つまり付加価値を上げていくということをしっかりと確保していくということは大事だということで、好循環というのはやはり、成長と分配の好循環と言っていますが、ある意味、今申し上げていることはそのとおりだろうというふうに思いますし、厚生労働省も様々な政策ツールがあるわけでありますので、それを例えば、今お話がありましたが、金融機関の企業再生とかあるいは企業支援策との連携をしていくということも企業で働く人たちの付加価値、つまり賃金に結び付くものだというふうに思いますので、そのためにも労働生産性の向上のために何が厚生労働省としてもできるのかということを考えるのは全くおかしいことではないというふうに思います。
○小池晃君 もう質問しませんけど、分配をやっぱり通じた成長でしょう、厚生労働省がまずやるべきことは。私はそう思いますし、こういうやっぱり悪辣なやり方にきちんと物を言わなけりゃいけないということを申し上げて、質問を終わります。