「赤旗」2015年10月27日付
「戦争法廃止の政府をどうつくるか」をテーマに、上智大学の中野晃一教授と日本共産党の小池晃副委員長が対談したネット番組「とことん共産党」(20日放送)が「わかりやすい」と評判です。紙上で番組の一部を再現。司会は、朝岡晶子さんです。
新しい国民運動
「『敷布団』に『掛け布団』重なって」中野さん
「立憲主義から平和主義に広がる」小池さん
安倍政権による解釈改憲を阻止しようと各分野の学者らが立ち上げた「立憲デモクラシーの会」に参加する中野さん。今回の戦争法案廃案のたたかいは、それまでの「護憲対改憲」から「立憲対非立憲」の枠組みになった、と指摘します。
「2013年春、安倍政権が憲法96条の改憲要件を下げようとした時から、『立憲主義を守らなければいけない』となった。そうすると『護憲対改憲』の枠組みとは違ってくる。穏健保守の人たちも含めて一緒にたたかえるように、『立憲』ということが大事」と説明。空前の広がりをみせた国民運動をテーマに対談が白熱しました。
小池 学者、研究者の人たちがこれだけ街頭に出て訴えたというのは今までないですよね。それが国会論戦にも大きな影響を与えたし、運動も動かした。
中野 ほんとに驚いたのは、憲法学者の方たちが出ていって、市民に直接語りかけることをされた。しかも、みなさん、スピーチを頼まれていなくても、個人で行かれていた。自分たちが人生をかけて、自分の学識をかけて学び研究し、大切だと思っている憲法、立憲主義というのを、こんなにされてと本当に憤慨されていた。一般の市民の方たちが、忙しい生活の合間をぬってともに声をあげてくれたことに、素朴なレベルで感動したと思うんですね。
朝岡 しかもわかりやすい言葉で、誰もがわかる言葉で語ってくださった。
小池 若い世代と以前からたたかってきた人たちのコラボレーションがすごくうまくいっている。(中野さんが集会で例え話として語った)「敷布団」と「掛け布団」の話はすごく面白い。
中野 私も「立憲デモクラシーの会」から連帯のあいさつにきてくれと頼まれ、行ったときにしみじみ思ったのは、私なんかが憲法でいう「不断の努力」を怠っていたときにもかかわらず、ずっとやってこられた方たちがいたことです。
夏は、あんまり掛け布団がいらず、敷布団だけあれば寝られるんですが、冬になると、あったかい掛け布団がでてくるとうれしい。寒さって下からくるので、敷布団がしっかりあって断熱してくれるから、上の羽毛布団があれば、あったかく感じる。そう考えてみると、「総がかり行動実行委員会」の方たちなど、平和運動をずっとやってこられたような方たちは本当に「敷布団」のようなもの。その後、「立憲デモクラシーの会」とか「学者の会」とか日弁連とか、ママの会、シールズという、どんどん「掛け布団」が重なってくるところがあった。どうも「敷布団」に対する感謝が少ないなと思って(爆笑)。おわびのような思いも込めて言ったんですね。少し失礼かなと思ったら、意外と喜んでくださって。
小池 長年たたかってきている人は、自分の役割をそう言ってもらえるのは、みんな感動しますよ。先生の話を聞いて、「掛け布団」の若い人たちも、ずっとたたかってきた世代の背中をみて、今の言葉が出ているじゃないかと。
中野 ほんとにそうなんですよ。シールズの中心メンバーの人たちは、特定秘密保護法、もっと前の脱原発(運動)の時から足を運んで声をあげた。そのなかで自分たちが中心になってやるんだったら、自分たちの感性、同じような年代にアピールできる違うやり方ができるんじゃないかなと考えているわけです。もともと国会前、官邸前で声を上げている人たちがいたから、そこに行って、やることができるというのがあるんですよね。リレーのバトンが渡されている。
小池 もう一つ、湾岸戦争の時なんかにあった“日本はカネだけだして何もしなかった”という批判に対し、殺される側の立場として、「一国平和主義」というのを完全に乗り越えている。とにかく「殺されたくない」「殺したくない」と。ママの会の「だれの子どももころさせない」というのは、本当にすごいスローガンだなと思うんです。運動が立憲主義から平和主義のとこまで持って行った。
中野 私もそこは一番、正直驚いたところです。運動がどんどん大きくなっていく。自分の頭で考え、自分の足で考えて行動している人たち。そのなかでも、とくに女性は、身体性を帯びた言葉で語っている。「戦争したくなくてふるえる」とか。政府が上から目線、国家権力でぐいっと押しつけるのに比べて、あくまでも踏みつぶされる側が、懸命ににらみ返している。リアリティーのあるミクロの視点が出ていると思うんですね。
小池 「女性活躍社会」とか「1億総活躍社会」とか、「子どもを産んで国家に貢献してください」とか、よくも女性の気持ちを逆なでするような言葉がでてくるなという感じがします。
「国民連合政府」提案
「共産党は一緒に伴走していた」中野さん
「訴えに応えて共産党も変わらねば」小池さん
「戦争法廃止の国民連合政府」を呼びかけた「提案」について「率直にどんなふうにみていらっしゃいますか」とたずねた小池さん。中野さんは「私は非常に期待しています。動きが早かった。野党との連携を模索していく中でも非常にいいことだったと思う」と語り、続けました。
中野 国会前に行き、見ていてはっきりしていたのは、民主党は(戦争法案反対のたたかいが)始まった段階では、どこを向いているかよくわからなかった(ということでした)。しかし市民社会のうねりにお尻をたたかれて、最終的に頑張ったと思うんですね。頑張ったことは率直に評価したい。しかし共産党は最初から(国民のたたかいと)一緒に伴走していた。場合によっては、かなり己を殺して頑張って応援をしてくれていた。だから、こういうこと(提案)ができるんだなと思ったんですね。
われわれも「(戦争法案=安保法案を)絶対止めるぞ」と思っていましたけれども、この政権をみれば、(強行採決を)やるときはやっちゃうかもしれないと。その場合にはどうするのかという議論は当然あった。「(共産党は)やっぱり同じことを考えていたんだな」というのが、あの段階でわかったということだと思うんです。
「共産党よりも民主党が先にやったほうがやりやすかったんじゃないか」みたいなことをおっしゃる方もいます。私はそれと意見が違います。共産党が何もしなかったならば、維新の党が分裂しだしていることもありましたから、「民維(民主党と維新の党)合併」議論が野党再編の切り口になっちゃう可能性があった。永田町の論理で、「民維合併」がさも大事件なことのようにされていたら、いったいわれわれは、国会前で何を頑張っていたんだろうかと、むなしい気持ちになったと思うんですね。そこに共産党が先手を打つことによって、民主党に「本気だぞ」というのを見せたわけですね。政権交代をやって、(集団的自衛権行使容認の)「閣議決定」撤回までちゃんとしなければ立憲主義は守れないという決意が、(共産党の「提案」で)ほんとに出てきたということで、評価しています。
小池 シールズが戦争法案を「本当に止める」と言ったじゃないですか。これを聞いたときに、「自分はそこまで真剣にたたかってきたか」と考えました。彼らの訴えに応えるために、共産党も変わらなければいけない。国会前のたたかいに出ていったぼくら党の議員・幹部は、みんなそれを実感した。
中野 そこは共産党が、金曜官邸前の脱原発運動もそうですけれども、いろんな方がずっと頑張って一緒にやってきたというのがある。民主党系の方は「政治家というのは路上に引き出すと変わるんだ」といっていました。そういう意味では、共産党はそういったことをいろんな方がされていましたし、小池さんもそうですけれども…。
小池 というか、もともと路上にいましたからね。
中野 そうです、そういうことなんですね。(笑い)
小池 路上にいた人が国会議員になってますからね。
中野 志位さんも、ロックスターみたいな感じになってきた(笑い)。「この盛り上がりはなんだろう」って思うぐらいのときもあって、「カズオ」とかいわれていますから。
国民のたたかいのなかで「政党も鍛えられていく」と発言した小池さんに、中野さんは、2009年の自公から民主党への政権交代は「社会に根ざしていなかったから、あっという間にふらふらになってだれも支えなくなった」と指摘したうえで、「土台から、社会から政権交代に結び付けていく、そのための野党共闘、市民社会との連携を考えるようになってもらいたい」と率直に提起しました。
野党間協議
「立憲主義回復の一致で他の政策でも」小池さん
「個人の尊厳守るためにも連合政府実現を」中野さん
一部マスコミは“(野党間に)政策的違いがあるのに国民連合政府というのは無責任だ”といっています。この考えを問いかけた小池さんに、中野さんはずばり答えました。
中野 (共産党の「提案」は)呼びかけだったわけですよね。しかも(戦争法強行成立直後の)あの早い段階ですぐにやっているわけです。できるだけハードルを下げ、共産党としてはここまで譲るつもりです、というようなことで呼びかけた。立憲主義、民主主義を回復させる一点でいく呼びかけは、逆に、それ以上の何を期待しているんだろうという気が私にはするんですね。
そこで他の政策のことを言いだしたりしたならば、まず入り口に来れないわけですね。民主党の側も、「いや、それだけで足りない」というんであれば、逆に「これでどうですか」と言えばいい。そこから対話していくわけで、何もこれで決まったということを共産党が言っているわけではなくて、第一歩をバンと出してみましたということなわけですから。当然、その敷居をできるだけ低くし、最大公約数を選んでいって、そこからもっと詰めていけるのかどうかが今後の話です。ですから、一夜にして共闘ができたら奇妙ですよね。
小池 そうですよね。お互い別の政党なわけですから。
中野 お互いここはちょっと合わないなというところは、「棚上げしましょうか」「棚上げできないならどうやって議論しましょうか」と検討しなければいけないわけです。「総がかり行動」は、共通点を土台にして、おとなの関係をやりだしている。市民社会の側でその先例がもうすでにできている。だとしたならば、政治家、プロの政治家たちも頑張ってください、そういうことだと思いますね。
小池 なるほどね。民主党との政策的な一番の違いで思うのが安全保障政策。そこのところで「戦争法廃止」が一致できれば、政策的一致点が広がっていく可能性は十分あるんじゃないかなと思って。
中野 ほんと、そうだと思います。他の部分に関しては、すでに野党共闘で労働法制に関してであっても、さまざまな分野でも実績もあるわけですし、向いてる方向はだいたい似ているところってあるわけですから。それを育てていくつもりでやっていけば、相当明確に自公政権のやり方と違いは出てくるのではないかと思っています。
小池 先生がよく言われている「個人の尊厳」というような考え方っていうのもありますよね。
中野 国家権力がほとんど専制主義のような振る舞い方をする。その中で、グローバル企業の利益を最優先させ、生活を踏みにじっていくようなことに対して、野党の連合の方では、あくまでも個人の尊厳、個人の自由、個人の権利を守るために立憲主義も、民主主義もあるわけですし、そのためにきちんと尊厳のある生活が送れるような経済の仕組みを前に持っていこうじゃないかというポジティブな言い方を出したほうがいいと思うんですね。なんで反対するかと言ったら、違う未来を描きたいから反対しているわけです。どういう未来を描いていくのかを出していかないと、なんか怒って、人の足を引っ張っているだけの人たちみたいにフレームアップ(でっち上げ)されちゃう。それはそれで損ですよね。個人の尊厳、個人の権利、個人の自由を守るために、われわれは連合をつくるんだというようなことをやっていただければ、相当程度政策もすりあわせができてくるんじゃないかと期待しています。
小池 立憲主義を取り戻すということが、単に安全保障政策上の一致ということだけじゃなくて、社会保障政策なども含めて、個人の尊厳という切り口で、さまざまな政策の方向性を決めていくんだと明確にする。
中野 そう思うんです。
「共産党アレルギー」
「本来の自由の味方」中野さん
「乗り越えたところに進化・発展」小池さん
野党共闘にかかわって、「共産党アレルギー」をどうみるか。中野さんがツイッターの投稿で、「共産党アレルギーって言っている人は、日本会議アレルギーはないんだな、僕なんか…日本会議政権の方が、はるかにまずいんだと思うんだけど」と問いかけていることが紹介され、やりとりに。「日本会議」とは、過去の日本の侵略戦争を肯定・美化する改憲右翼団体です。
中野 「共産党アレルギー」で、何を言おうとしているのかは漠然と私もわかるんですね。だけど、そこかなぁというのがある。共産党もずいぶん変わってきたし、政治状況も随分変わってきた。その中で日本会議というようなものが政権を牛耳るようなことになっている。海外の研究者、ジャーナリストにその話をすると、みんな絶句するんですね。
いま、こんなに立憲主義をないがしろにして、民主主義を踏みにじって、もうどこまで行っちゃうんだっていうようなところになっているときに、それをとめなきゃいけない。そのための野党連合のときに、(「共産党アレルギー」という)そういうところから議論をするのかなとやっぱり思いますね。
小池 異物が入ればアレルギー反応が起こるわけですよ。それ、当然なんですよ。別の政党がくっつくわけだから。アレルギーを乗り越えたところに、進化、発展があると思う。
中野 本当にそうですね。やっぱり(共産党への)誤解などは、ある世代以上なんです。とくに「冷戦」の記憶がある。旧ソ連との抗争だったり、中国の共産党独裁ということの連想で考えている。「自由の敵」「多様性を嫌う」「悪平等みたいな感じで、成功した人をたたく」というイメージがあると思うんですね。だから、弱者に寄り添って、より平等な社会をつくろうということを考えていれば、個人の自由、個人の尊厳、そのための立憲主義を回復させることは、むしろ本来の意味での自由の味方なわけですよね。それがより伝わるような形にしていけばいいんじゃないかと思うんですね。
続けて中野さんが「私も大学で『先生』と呼んでもらっている立場ですから、実は共産党と似ているんですよ」と表現したことに小池さんも「えっ?」と。
中野 「先生アレルギー」と「共産党アレルギー」は似ている。いつも解答があって偉そうみたいな(笑い)。議論しようと言っても、「勝つことがわかっているくせに」とか、独善的だってみられるところってあるわけですね。自分がやっていることは正しいとか、自分が教えることっていうのが正しいと思っているからといって、伝え方の工夫を怠ってしまうと、そこは問題になってくるのかなと思うんですね。
シールズは、その点非常にすごいと思うんですよ。彼らは自分たちのメッセージに確信を持っているんですけども、そこから仕事が始まっているんです。「どう伝えようか」というところに、ものすごい時間かけるわけじゃないですか。プラカードをどうつくる、ユーチューブだとか、フライヤーをどうつくるとか、デザインをどうするか。メッセージは伝わって初めて力になる。むしろ、確信を持っているのであれば、どう伝えるかということを気にしなければいけない。共産党はすでに努力を始めていると思うんですが、もっとその方向で頑張っていってもらいたい。
小池 先生から見て、もっとこうしたらいいとか、注文はあります?
中野 多様な人材を登用することが非常に大事だと思います。若い(党国会議員の)方たちを中心に、多様でちょっとヤンチャな感じもして。共産党はぶれない安心感はあるけれども、ちょっと説教くさいみたいなところがやっぱりあるわけですね。それに対して、ちょっと危なっかしい感じの若い人がでてくると、「あっ、ちょっとなんか、人間味があるな」「しかも楽しそうじゃない」って。要は、楽しそうだったり、笑ってることの敵みたいに見られなくなってくる。
小池 今後の野党の動きをさらに前に進めるために、どんなことが必要になってくると。
中野 「婚約時間が長すぎるのはよくない」と言った人がいて、そういう要素は政治なんか余計あるわけですね。時間が展開していくなかで、何がどのタイミングで起きるのか、よいアイデアであってもタイミング悪いと、それだけでうまくいかないことってあるわけですから。適当な時に適当なことが起きなければいけない。われわれ市民社会から見ると、野党に対して、「われわれは見ているんだぞ」「お尻たたいているんだぞ」「決して自分たちだけの世界に入ることは許さないからな」ということをずっとやっていこうと思っているんですね。
その上で中野さんは、次のようにいいました。
中野 共産党の側で努力していただきたいのは、いわゆる「共産党アレルギー」をもっている人たちに対して、私たちはこうやって個人の自由、尊厳、多様性のある日本の社会のあり方、一人ひとりの尊厳を守るための政策を考え、そのための立憲主義を考えていることを伝える工夫です。それを工夫し続けることをやっていただければ、どんどん、それを拒む言い訳っていうのがなくなってくるんだと思うんですね。
小池 今回の共産党の「提案」も、全部これで行きましょうって言っているわけじゃなくて、この方向性を共有していくことをやっぱり僕らは期待しています。それができれば前に進むと思っているので、ぜひ、そういった方向で実らせていきたいなと思っています。実らせなければ、本当にこの日本は大変なことになってしまいますよ。