「赤旗」2015年7月30日付
戦争法案で自衛隊が「戦闘地域」に踏み込み、米軍への兵站(へいたん)活動を行えば、どうなるのか―。日本共産党の小池晃議員は29日の参院安保法制特別委員会で、米軍の報告書や自衛隊の内部資料を駆使し、「戦闘地域での兵站」の重大な違憲性、危険性を全面的に明らかにしました。
自衛隊内部資料が示すもの
武器使用 他国から見れば「武力行使」
小池氏は、自衛隊による武器の使用は外国から見れば「武力の行使」にあたると自衛隊の内部資料に明記されていることを明らかにしました。
小池氏が示した海上自衛隊幹部学校の作戦法規研究室による内部資料では、「我が国の考え方」として、武力攻撃発生までは「武器の使用」、武力攻撃が発生してからは「武力の行使」としています。
これは、憲法が武力行使を禁じていることから、自衛隊による海外での武器の使用はあくまで「自己保存のため」のものであり、「武力行使ではない」という従来の政府の説明です。
一方で、海上自衛隊の資料は「他国の一例」として、「Military Action」(軍事行動)の全ての過程における武器の使用を「Use of Force」と記しています。これに関して岸田文雄外相は「そのまま訳せば『武力の行使』になる」と答弁しました。自衛隊による武器使用は他国からは「武力行使」とみなされることが明瞭となりました。
衆院の審議では、志位和夫委員長が、「国際法上、自己保存のための自然権的権利というべき武器の使用という特別な概念や定義はない」とする外務省文書を示して、「『武器の使用は武力の行使ではない』などという理屈は国際社会ではおよそ通用しない」と厳しく批判しました。今回は、自衛隊自身が、世界で通用しない議論であることを内部教育の資料に明記していたことになります。
小池氏は、「国会では一切説明していないことを自衛隊内で示していることは、国会と国民を愚弄(ぐろう)するものだ」と批判。「陸上自衛隊、航空自衛隊でも同様の内部資料があるはずだ」と指摘し、国会への資料提出を要求しました。
弾薬提供 敵国から見れば「交戦国」
「世界中の誰がどう見ても、米軍と一緒に戦争をやっているとしか見えない」
海上自衛隊内部文書を示して、兵站活動拡大の問題を追及した小池氏。安倍晋三首相は、文書に具体例として明記された日米共同の潜水艦攻撃作戦が戦争法案で可能になると認める一方、「(米軍の武力行使と)一体化しない」と苦しい弁明に追われました。
中谷元・防衛相は小池氏の追及に対し、海自ヘリ空母(DDH)で燃料補給した米軍哨戒ヘリが再び敵潜水艦の爆撃に向かうことも可能との見解を示しました。
政府は衆院段階で、爆撃に向かう米軍等の戦闘機への給油シナリオは認めていましたが、対潜水艦シナリオが明らかになるのは初めて。
文書には、(1)米HS(=対潜水艦哨戒ヘリ)が敵潜水艦を探知(2)米部隊HS×2 追加投入 スワップ(=任務交代)(3)スワップした米HSが海自DDHに着艦し、燃料補給―などと部隊運用のシナリオが細かく記されています。
小池氏は同事例について、「誰がどう見ても、完全に米軍と一体になった武力行使ではないか」と首相の認識を重ねて追及しました。首相は「わが国としては、これは一体化しないと判断している」と従来の答弁を繰り返すのが精いっぱいでした。
何でも輸送・提供
さらに小池氏は、今回の戦争法案で、これまでできなかった米軍等への武器輸送や弾薬提供まで可能になることを指摘。法律上、自衛隊が運べない武器があるかと迫りました。
中谷元・防衛相は「特別にはない」と答弁。「米軍のミサイルも戦車も運べる」と小池氏が指摘すると、防衛相は「除外した規定はない」と述べました。
さらに小池氏が、ロケット弾や戦車の砲弾などあらゆる弾薬の提供もできるようになると追及すると、防衛相はここでも、「特に排除している規定はない」と認めました。
政府が4月に与党協議に示した資料によると、提供可能な弾薬とは「銃弾、砲弾、爆弾、爆薬等であって、『武器』にあたらないもの」としており、防衛相答弁でこの内容が裏付けられました。
小池氏は「これらの活動は、他国の武力行使と一体の活動、もしくは武力行使そのもので、敵国から見れば日本は明らかに交戦国だ」と強調しました。
米軍の文書が示すもの
兵站 “テロに最も弱い”
「兵站(へいたん)」がどれほど危険な活動なのか、米海兵隊の「海兵隊教本」が次のように記しています。
―兵站は大量の物資、巨大な距離、短い対応時間に対応しなければならず、兵站は他の機能以上に、常とう手段、計算、さらに予測を用いる。
―これらの活動のすべては、予想外の出来事、われわれの間違い、あるいは敵の行動によって、容易に影響され、妨害される。
―兵站の部隊、設備、施設は単なる攻撃対象ではなく、軍事行動の格好の標的である。
米海兵隊の「エネルギー戦略と実施計画」(2010年)でも、「コンボイ(輸送車隊)は伝統的戦闘や非対称の攻撃(テロ攻撃など)に脆弱(ぜいじゃく)で攻撃目標になる」と記されています。
ようするに、兵站は軍事攻撃の格好の標的であって、テロのような無秩序、突然の攻撃に最も弱いということを米海兵隊がはっきりと認めているのです。
小池氏がこうした兵站の実態を一つひとつ示して認識をただしたのに対し、安倍首相は「安全が確保されない限り、後方支援(兵站)を行うことはない」などと答弁。小池氏は「対テロ戦争の実態に目を背けた議論だ」と厳しく指摘しました。
燃料・水の補給 死傷者数 深刻
兵站の危険性を示す具体的なデータがあります。米陸軍環境政策研究所が2009年9月にまとめた報告書です。書き出しはこうです。
「戦場での燃料・水の補給は命がけ」
同報告書によると、2003~07米会計年度の5年間だけで、イラクとアフガニスタンでの補給任務での死傷者数は、陸軍だけでイラクで2858人、アフガンで188人、あわせて3000人を超えています。補給物資の50%は燃料、水が20%、その他30%です。
そのうち、アフガンで07年度に行われた燃料輸送と水輸送では、それぞれ24回に1人、29回に1人の割合で死傷者がでています。
報告書は「イラクとアフガンにおける補給任務での死傷者数は深刻である。米陸軍の死傷者の10から12%を占めており、その大多数は燃料と水の輸送に関係している」とはっきり記しています。
小池氏はこうした現実を突きつけ、「対テロ戦争の現場では、兵站ほど狙われやすい。この実態を認めないのか」と追及しました。これに対して、安倍首相は「自衛隊が現実に活動を行う期間について戦闘行為がないと見込まれる場所を実施区域に指定したうえで、後方支援を行う」と答えました。
しかし、法案は「円滑かつ安全に実施できるように」区域を指定すると書いてあるだけです(「重要影響事態法案」第6条の3、「国際平和支援法案」第7条の3)。
そこで、小池氏は「自衛隊が現実に活動を行う期間について『戦闘がないと見込まれる場所』という言葉はどこに書いているのか」と問いただすと、政府は答弁不能におちいり審議が中断。中谷元・防衛相はしぶしぶ「記述はない」と認めました。
小池氏は「条文にないことをあるかのように発言する。こういう態度が国民の不信を招いている」と厳しく指摘しました。
即席爆発装置 死者の60~80%
安倍首相は「安全を確保したうえで、後方支援(兵站)を行うことは可能」と言いますが、対テロ戦争の現場で通用する話ではありません。
対テロ戦争の現場では、アフガンでもイラクでも最も多くの死傷者を出しているのは、路肩などに仕掛けられるIED(即席爆発装置)による突然の攻撃によるものです。
独立系ウェブサイト「アイカジュアルティーズ」は、アフガン戦争でのカナダ軍の死亡者(事故や自殺など非敵対的理由を除く)131人のうち105人(80%)がIEDと自爆テロによるものとし、ドイツ軍、デンマーク軍、イタリア軍でも60~75%がIEDなどによる死亡者と報告しています(下表)。銃撃などによる犠牲者はむしろ少数です。
イラク戦争時に「非戦闘地域」だとして陸上自衛隊が駐屯していたサマワでも、自衛隊の車両がIED攻撃を繰り返し受けていたことが、陸自が作成した「イラク復興支援活動行動史」に記録されています。
トラックを走らせていたら突然の爆発で吹き飛ばされる―あらゆる場所が一瞬に「戦闘現場」となるのが対テロ戦争の実態です。
それでも安倍首相は「イラクではIEDや自爆テロによって諸外国に犠牲者は出ていたが、わが国は一人も犠牲者は出ておらず、安全確保の仕組みは十分に有効だった」などとして、今後も同様に安全確保すると強弁しました。
小池氏は「イラクでは犠牲者が出なかったと言うが、(イラクで自衛隊の活動範囲を)『非戦闘地域』に限っていたものを『戦闘地域』まで拡大するのが今度の法案だ」と反論。「対テロ戦争の兵站で『安全な場所で行うから大丈夫』などという議論は成り立たない」と指摘しました。
対テロ戦争 犠牲者 10倍に拡大
アフガニスタンでの対テロ戦争は何をもたらしたのか。小池氏は「第一に無辜(むこ)の市民の甚大な犠牲だ」と指摘しました。
国連発表のアフガン戦争で犠牲となった民間人は14年末までで2万1415人(07年から発表)。今年も4カ月間で1000人近くが犠牲となっています。
アフガン戦争が生み出したこうした悲劇は、憎悪を呼び新たなテロを世界中に拡散させています。14年の世界におけるテロの死者数は4万3512人で、アフガン戦争前の2000年の10倍にもなっています。(グラフ)
そしてアフガン戦争は今なお戦火を広げ続けています。米軍は同国にいまだ約1万人が駐留。戦争の期間は、ベトナム戦争を超え米国史上最長となっています。
日本が戦後初めて海外で行った兵站支援は、アフガン戦争での米軍支援のためのインド洋での給油支援でした。しかし、この活動は「非戦闘地域」に限られ、一人の死者も出しませんでした。
小池氏は「法案が成立すれば、米国はアフガン戦争へ支援を求めてくるのは間違いない。現実に今も続いている戦場に自衛隊の若者が入っていく。これが法案の最大の現実的な危険性だ」と強調。「ひとたびこのような活動に自衛隊が入れば、海外での武力行使に道を開くことは明白だ。明らかに憲法違反であり、廃案にするしかない」と主張しました。