赤旗2022年10月8日付
日本共産党の小池晃書記局長が7日の参院本会議で行った、岸田文雄首相の所信表明演説に対する代表質問は次の通りです。
日本共産党の小池晃です。会派を代表して、岸田文雄総理に質問します。
憲法違反の「国葬」強行に改めて抗議する
総理は、国民の6割が反対するなか、安倍晋三元首相の「国葬」を強行しました。「国葬」後の世論調査でも、「評価しない」「よかったと思わない」という人が多数です。総理は、国民が「国葬」に納得していないのは、なぜだとお考えですか。
人の命は平等であるはずなのに、安倍氏を特別扱いで「国葬」の対象にしたことは、憲法14条の「法の下の平等」に反するのではありませんか。
総理は、安倍氏に対して「敬意と弔意を国全体として表す儀式」として「国葬」を行うとしましたが、これが国民全体に弔意を強制することは明白です。これも憲法19条の「思想・良心の自由」を踏みにじるものではありませんか。
「国葬」で総理は、安倍政権の“実績”として安保法制や特定秘密保護法の強行、消費税の2度にわたる引き上げなどを列挙して賛美しましたが、これらのことも、「モリ・カケ・サクラ」の国政私物化も、虚偽答弁もすべて肯定し、引き継ぐ立場なのですか。
「国葬」の強行で、安倍政治への礼賛を国民に求めることは、断じて許されません。
憲法違反の「国葬」強行に、あらためて抗議します。
統一協会=勝共連合と自民党の癒着をただす
自民党国会議員の約半数が関係を持ってきた、反社会的カルト集団である統一協会・国際勝共連合について聞きます。
統一協会の重大な問題点は、自らの正体を隠して接近し、信者に取り込み、霊感商法や高額献金、集団結婚などを強いてきたことです。そうした反社会的行動を覆い隠すため政治家に取り入り、政治家の側は選挙での手足に使うという、抜き差しならない癒着がつくられました。集会やイベントで政治家があいさつし、祝電を送り、自治体などが後援したことが、市民をだまして多くの被害者を生み出す結果となりました。自民党の多数の政治家が広告塔となり、被害を広げてきた責任を、総理はどう認識していますか。
政府の責任も重大です。2015年に教団の「名称変更」を認めたことは、正体隠しのために最大限利用されました。総理は、この反社会的カルト集団の名称変更を認めて被害を拡大させた、行政としての責任をどう考えていますか。名称変更は認めないという従来の行政の方針は、政治家の関与がなければ、変更できるはずがありません。名称変更に、政治家の関与はなかったのか、徹底的に調査すべきではありませんか。
総理は内閣改造にあたり、統一協会との関係を点検し、厳正に見直すことを了解したもののみを任命したと述べました。あなたが内閣の「骨格」として再任した、山際(大志郎)経済再生担当大臣は、改造にあたって自らの統一協会との関係を、どのように総理に報告したのですか。
山際氏は、ネパールでの会合参加について、「報道を見るかぎり出席したと考えるのが自然」とし、ナイジェリアの会合も、外部からの指摘で確認されたなどとして追加報告しました。
総理は、こうした山際氏の説明や対応に、国民の納得がえられると思いますか。
総理の任命責任がきびしく問われます。更迭すべきではありませんか。
安倍晋三氏は、統一協会とは「真逆の考え方にたつ政治家」どころか、関連団体の会合に、「韓鶴子総裁をはじめ皆様に敬意を表します」というビデオメッセージまで送ったのに、なぜ調査対象にしないのですか。岸元首相以来、60年以上にわたり、自民党と統一協会、国際勝共連合が深い関係にあったことは周知の事実です。しかも、8年8カ月総理・総裁を務めた安倍氏と統一協会の関係について何の調査もせずに、自民党と統一協会に「組織的関係はなかった」と、なぜ断じることができるのですか。
参院議長を務めた伊達忠一氏は、安倍氏がどの候補者を統一協会に支援させるか差配していたことを、実にリアルに証言しています。なぜ、調査しないのですか。
総理は、統一協会への解散命令について「信教の自由」を理由に慎重な姿勢です。しかし、宗教法人格がなくなると、税制上の優遇などは受けられなくなりますが、宗教団体としては活動ができます。総理は、今後も統一協会に宗教法人としての特権を付与して優遇することに、国民の理解がえられるとお考えですか。
政府は、宗教法人法に基づく解散命令を請求すべきです。それもせずに、「統一協会と関係を断つ」などと言っても、その場しのぎにすぎないのではありませんか。
「構造的な賃上げ」なら大企業の内部留保を活用して
物価の高騰が、国民のくらしに襲いかかっていますが、総理は、物価高騰の最大の原因が異常円安であることを認めないのですか。所信表明で総理は、「円安のメリットを最大限引き出す」と述べましたが、円安を維持すべきだとでもいうのですか。総理の耳には、物価高騰に苦しむ国民、原材料費の高騰にあえぐ中小業者の悲鳴が聞こえないのでしょうか。
実質賃金はついに5カ月連続マイナスとなりました。総理は「構造的な賃上げ」が必要といいますが、所信表明演説からは、まったく「構造」が見えません。
わが党は、かねてより「構造的な賃上げ」を提案しています。
働く人の7割がいる中小企業が賃上げできる環境をつくることと、この1年だけでも18兆円増えて484兆円に達した大企業の内部留保、これを賃上げに活用することです。
具体的には、大企業の内部留保から、賃上げや設備投資分を控除したうえで時限的に課税し、大企業の労働者の賃上げを促すとともに、5年間で10兆円の財源を生み出して、中小企業の労働者の賃上げ支援に充てて、最低賃金を全国どこでも時給1500円に引き上げる提案です。
大企業も中小企業も賃上げを可能にする、これがわが党の「構造的な賃上げ」政策です。
反対だというなら、対案を示すべきではありませんか。
国民の命を守るためにも農業にまともな財政支援を
食料は国民の命綱です。
しかし今、肥料も飼料も2年前より4割以上アップする一方、米価は2割以上下落し、農村からは「もう続けられない」と悲鳴が上がっています。このままでは、ますます農業は衰退し、食料自給率の向上にも逆行し、国民の命を守ることができなくなってしまいます。
総理には、日本農業が危機にひんしているという認識がありますか。
肥料や飼料、燃油などの、価格高騰前との差額を政府の責任で補てんすべきではありませんか。あわせて、市場まかせの農業政策をあらため、生産コストに見合う農産物の価格保障と所得補償を確立すべきです。答弁を求めます。
小中学校給食は国の責任ですみやかに無料に
物価高騰による学校給食費の値上げも家計を直撃しています。こうした中、全国で8割を超える自治体が、地方創生臨時交付金などを活用し、学校給食費の保護者負担を軽減しています。青森市や東京・葛飾区のように無償化する自治体も生まれています。しかし、消極的な自治体も少なくありません。文科省は、わが党の吉良よし子議員の質問に、学校給食法には給食費の補助を禁止する意図はなく、自治体の判断で全額補助することを否定していないと認めました。このことを、あらためて自治体に徹底すべきではありませんか。
そもそも、憲法26条は、義務教育は無償とすると定めています。本来、学校給食は国の責任で恒久的に無償とすべきものです。すべての子どものすこやかな成長のため、国の責任で小中学校給食の無料化をすみやかに実施するべきではありませんか。
物価高騰対策にもっとも効果的なのは消費税減税
物価高騰の影響が多くの商品・サービスに及ぶなか、もっとも効果的なのは消費税の減税です。コロナ禍以降、世界99カ国・地域で消費税・付加価値税の減税がすすめられています。ぜひ日本を100カ国目にしようではありませんか。コロナ下で苦しむ中小零細・フリーランスを危機に追いやるインボイス制度導入も中止すべきです。答弁を求めます。
妊娠・出産を決めるのは女性の権利――同意要件廃止を
安全で効果的な中絶方法として世界でも主流となっている経口妊娠中絶薬が、年内にも承認される見通しとされています。ところが政府は、母体保護法に基づき、服薬には配偶者の同意が必要だと答弁しました。このことに対して、「私のからだは私のものだ」「産む・産まないは女性の自己決定だ」という批判が起こっています。なぜ母体保護法では、人工妊娠中絶に配偶者の同意を必要としたのでしょうか。
妊娠や出産は、母体に大きな影響を及ぼし、女性の人生設計も大きく左右します。産むか、産まないか、いつ産むかを決めるのは、当然女性であるべきではないでしょうか。
リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ=「性と生殖に関する健康と権利」が、今日、女性の人権の重要な概念の一つとして国際的にも確立していることを、総理はどのように認識していますか。
国連女性差別撤廃委員会は、母体保護法の配偶者同意の撤廃を日本に勧告し、WHO(世界保健機関)も本人の希望で中絶を可能にするよう求めています。こうした声をどう受け止めていますか。
わが国では、刑法の自己堕胎罪と母体保護法によって、女性には中絶の決定権がありません。明治以来の家父長制の下で女性には自由も権利もなく、胎児は家のもの、家長のものという前提でつくられた法体系が、今も女性の権利を奪っています。
コロナ禍のもと、DVや望まない妊娠も増えています。性暴力による妊娠さえも、中絶に男性の同意が求められるケースが後をたたず、女性たちを苦しめています。
刑法の自己堕胎罪、母体保護法の配偶者同意要件は撤廃すべきです。答弁を求めます。
原発の再稼働と新増設方針の撤回を求める
総理は所信表明で、原発の再稼働に加えて、「次世代革新炉」の開発・建設などの加速を表明しました。東京電力福島第1原発事故以降、歴代政権が封印し、参議院選挙前には口にしなかった政策の大転換に踏み切るのですか。
東京電力福島第1原発の事故はいまだに収束していません。住む家も、仕事も、故郷も奪われた、被害者の10年余りの人生を取り戻すことはできません。世界有数の地震・津波国である日本で原発を推進することの危険性もはかりしれません。使用済み核燃料の処理のメドも立っていません。
それでも総理は、再稼働のみならず、新増設まで進めようというのですか。
総理が所信表明で示した「次世代革新炉」はどれも課題山積で、唯一、実用化が取りざたされる「革新軽水炉」も、その時期は2030年代半ば以降とされています。これでは、現在の「電力不足」対策どころか、2030年までの気候危機対策にも役に立ちません。結局、既存原発に依存せざるをえず、老朽原発の延長運転と不可分になってしまいます。
そのために、原発の運転期間の制限を撤廃し、60年以上の長期運転まで可能にしようというのですか。
原発依存は、再生可能エネルギーも後景に追いやり、気候危機対策にも、エネルギーの海外依存からの脱却にも逆行します。原発の再稼働と新増設方針を撤回し、原発ゼロと、石炭火力からの撤退を決断し、純国産の再生可能エネルギー大量普及でエネルギー自給率の向上をはかるべきです。答弁を求めます。
戦争の危険呼び込む軍事力強化でなく9条生かした外交努力こそ
北朝鮮による弾道ミサイル発射を強く非難します。軍事的挑発を抑えるために、国際社会が協調して外交的対応を強化することを求めるものです。
軍事的挑発に対して、軍事力の強化で臨めば、軍事対軍事の悪循環になってしまいます。しかし、来年度予算の防衛省概算要求は、「敵基地攻撃予算」と呼ぶべきもので、同能力の保有を既成事実化するものです。過去最高の約5兆6千億円が計上されたうえ、金額を示さない「事項要求」が多数含まれ、「青天井」との指摘もあります。
「事項要求」の第一の柱は敵基地攻撃能力となる「スタンド・オフ防衛能力」で、その中心である長射程巡航ミサイルは、1000発以上の保有が検討されていると報道されていますが、これは事実ですか。
岸田政権は今年5月の答弁書で、集団的自衛権の行使においても敵基地攻撃が可能であることを明確にし、8月には、環太平洋合同演習「リムパック」において、集団的自衛権行使を想定した訓練が初めて行われました。
日本が敵基地攻撃能力を持てば、軍事対軍事の悪循環がエスカレートし、一触即発の事態をもたらします。さらに、日本が攻撃されていないのに、米国が軍事行動を始めたら、安保法制=集団的自衛権を発動して、自衛隊が「敵基地攻撃」で相手国に攻め込み、その結果、戦火が日本に及ぶ。これが今、わが国が直面している現実の最大の危険です。
いま政府がやるべきことは、地域の緊張を高め、戦争の危険を呼び込む軍事力強化ではありません。東アジアに平和的な環境をつくるための、憲法9条を生かした徹底的な外交努力ではありませんか。
敵基地攻撃能力の保有や軍事費倍増の検討は、中止を強く求めます。
新基地反対の沖縄県民の意思は明白――きっぱり断念を
先月行われた沖縄県知事選挙で、辺野古新基地建設に反対の玉城デニー候補が、推進を明言し、政府・自民党が総力を挙げて支援した候補者に6万票以上の大差をつけて圧勝しました。総理はこの結果をどう受け止めていますか。新基地建設反対の県民の意思は明白ではありませんか。
この間、政府は、民意をことごとく無視し、粛々と工事を進め、既成事実を積み重ねることで県民をあきらめさせようとしてきました。「償いの心」から始まったはずの沖縄振興予算を減額するという、およそ考えられない卑劣なやり方で、県民を分断し、基地受け入れを迫ってきました。それでも新基地は絶対に受け入れないという県民の揺るがぬ意思を示したのが今回の選挙結果にほかなりません。
安倍政権以来の強権的で冷酷な沖縄政策を根本から改め、玉城知事が求めている、問題解決に向けた県との対話に応じるべきではありませんか。
日米両政府が普天間基地の全面返還に合意してから26年以上が経過しました。これ以上、危険性を放置することは許されません。普天間基地の即時運用停止、閉鎖・撤去にふみ切り、辺野古新基地建設はきっぱり断念すべきです。
総理の明確な答弁を求めて、質問を終わります。