赤旗記事2019年10月10日付
日本共産党の小池晃書記局長が9日の参院本会議で行った、安倍晋三首相の所信表明演説に対する代表質問は次のとおりです。
日本共産党の小池晃です。会派を代表して安倍総理大臣に質問します。
参院選で改憲勢力は3分の2割れ――民意は「期限ありきの早急な 改憲には賛成できない」
総理は参議院選挙後、「憲法の議論を行うべきだというのが民意だ」「これが国民の審判だ」と述べましたが、改憲勢力の議席が発議に必要な3分の2を割り込んだのが、今回の選挙結果です。「期限ありきの早急な改憲には賛成できない」――これが民意にほかなりません。
日本共産党は、野党統一候補として勝利した10名の議員の皆さんを心から歓迎します。
参院選をともにたたかった市民と野党のみなさんと力を合わせ、立憲主義と平和主義を破壊する改憲を断念させるため、全力をあげる決意を表明するものです。
関電役員への多額の金品は原発マネーの還流――全容解明は国政の最優先課題
原発再稼働を推進する関西電力の役員に、多額の金品が渡されていました。国民が支払った電気料金、原発マネーの還流にほかなりません。全容解明は国政の最優先課題です。
しかし菅原(一秀)経済産業大臣は、口では「言語道断」などと言いながら、関西電力に説明を求めただけで、会長や社長を呼んで問いただすこともしていません。
総理も、関電による第三者委員会の調査結果を待つとの立場を述べるだけです。
しかし、金品を受け取った当事者たちがつくる第三者委員会は、“第三者”になりえません。総理は、こんな調査で国民が納得すると思いますか。
関電の社長や会長は多額の金品を「一時保管していた」とか「関係悪化を恐れて返せなかった」などといいますが、誰がこんな言い逃れを信じますか。
原発事故が起きても責任をとらず、原発マネーを受け取っても言い逃れを図る。こんな電力会社に、住民を危険にさらす原発の再稼働など、認めるわけにいかないではありませんか。
関西電力の関係者などを国会に招致し、真相の徹底解明のための国会の責任を果たすことを強く求めます。
消費税10%強行に抗議――くらしに苦しむ国民に5%への減税こそ
安倍政権が、国会での審議も拒否して、消費税増税を強行したことに強く抗議します。
17年間5%だった消費税が、安倍政権の6年間で10%に引き上げられました。
「デフレ脱却」掲げながら13兆円もの増税強行の支離滅裂
「デフレ脱却」を掲げながら、合計13兆円もの増税を強行するのは、支離滅裂な政策ではありませんか。
内閣府が発表した8月の景気動向指数は、景気判断を再び悪化に下方修正しました。日銀短観では、大企業製造業の今後の景況感を示す指数も、3期連続で悪化しました。
今回の消費増税が、国民のくらしと景気に破壊的な打撃になることは、火を見るよりも明らかではありませんか。
総理は「増税の影響を注視し、万全の対応をとる」と述べました。
しかし、これまで「増税分はすべて国民にお返しする」としてきたうえ、さらに追加対策が必要となるならば、増税は大失敗だったということになるのではありませんか。
消費税を8%に増税して5年半、家計消費は回復どころか、増税前に比べて実質で年20万円も落ちこんでいます。働く人の実質賃金も8カ月連続、年15万円も下がりました。
8%増税が深刻な消費不況を引き起こしたのですから、景気回復のための「万全の対応をとる」というなら、5%に減税するべきではありませんか。
私たちは、最悪の不公平税制である消費税は廃止すべきだと考えます。
同時に、政府が10%増税を強行したもとで、野党が減税に向けた共闘を発展させることを心から呼びかけます。日々のくらしに苦しむ国民に、消費税を5%に戻そうというメッセージを送ろうではありませんか。
「財源は何でも消費税」から抜け出す税財政の改革を
消費税が日本に導入されて31年。この間の消費税収は397兆円の一方、法人3税の税収はピーク時に比べて298兆円減り、所得税・住民税の税収も275兆円減りました。消費税は社会保障のためでもなければ財政再建のためでもなく、大企業と富裕層の減税の穴埋めに使われたことは明らかです。
消費税減税と、くらし応援の政策を実行するためには、税財政の改革が必要です。
法人税を改革すべきです。
中小企業の実際の法人税負担率は18%の一方、大企業は10%。研究開発減税など、もっぱら大企業だけが利用できる優遇税制があるためです。こうした不公平を見直し、400兆円を超える内部留保を積み上げている大企業に、応分の負担を求めるべきではありませんか。
所得税も改革すべきです。
年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が低下していくという逆転現象をなぜ放置するのですか。OECD(経済協力開発機構)も主張するように、富裕層の株取引の20%の税率をさらに引き上げ、公平な負担を求めるべきではありませんか。
日本医師会の横倉義武会長は先日、社会保障の財源について「消費税の一本足打法ではなく、新たな税財源についても併せて検討すべきだ」と述べました。
財源は「何でも消費税」から抜け出すときではないですか。総理の見解を求めます。
「大学無償化」といいながら学費値上げ容認、学生への支援削減
消費税増税で「大学を無償化する」などと言いますが、実態はどうか。
安倍政権が導入する低所得世帯の高等教育の修学支援制度と引き換えに、現在、国立大学が行っている授業料免除制度が廃止されようとしています。文部科学省の調査によれば、授業料免除や減額の対象になっている学生の半数以上にあたる2万4000人が、逆に支援を受けられなくなるか、支援額が減少します。現行免除制度は中所得世帯も対象ですが、新制度は住民税非課税世帯とそれに準じる世帯に限定されるからです。
しかも、今年度から国立大学の学費値上げが相次いでいます。今年度は東京工業大学や東京芸術大学が20%の値上げ、来年度は一橋大学や千葉大学が20%の値上げです。
安倍政権は、学費の大幅値上げを容認したうえ、新たな支援制度の対象は学生の1割程度にすぎず、差し引き2万4000人の学生への支援が削減されるのです。
いったいどこが「大学無償化」ですか。支援を打ち切られる学生に、総理はどう説明するのですか。
「社会保障のため」といいながら介護・医療大幅負担増と給付削減
消費税は社会保障のためと言いながら、大幅な負担増と給付削減も計画されています。
介護保険の利用料は原則2割へ、そして、75歳以上の医療費窓口負担も2割に引き上げようとしています。しかし、75歳以上になれば病気も増えますから、受診率は外来で74歳以下の2・3倍、入院は6・2倍です。政府は「世代間の公平」といいますが、窓口負担を引き上げれば逆に不公平になり、健康を悪化させてしまいます。
しかも、75歳以上で現役並み所得の方はすでに3割負担ですから、今度は中・低所得者を狙い撃ちすることになります。
消費増税の上に医療費の負担を増やすような非道なことは、撤回すべきではありませんか。
安心できる年金制度つくるのは政治の責任
基礎年金をこれから自動的に7兆円も削る「マクロ経済スライド」を、このまま続けることも、許されないのではありませんか。
マクロ経済スライドは、当初の想定では2023年ごろにはスライド調整が終わるとされていました。しかし、公的年金の1階部分である基礎年金のスライド調整期間が想定を超えて長引き、2046年以降まで続きます。
その結果、低年金ほど削減の割合が大きくなることを総理は認めますか。
老後の基礎的な生活を保障する基礎年金は、いまでも満額で月6万5000円であり、これだけではとてもくらせないと悲鳴が上がっているのに、3割も目減りさせていいのか。
知恵を出し合って、安心できる年金制度をつくるのが、政治の責任ではありませんか。
私たちは、具体的に提案しています。
たとえば、年収1000万円での年金保険料の頭打ちを見直して、高額所得者優遇をただすこと。200兆円もの巨額の年金積立金を、これから50年も増やし続けることをやめて、計画的に取り崩して給付に充てることです。
元厚生労働大臣の田村憲久氏は、「これから年金が3割も目減りしてしまう。そこをどうするのか」と述べ、「厚生年金と国民年金の財政を統合し、国民年金の目減りを止める」と提案しています。こうしたことも検討すべきではありませんか。
いま上げるべきは消費税ではなく最低賃金
そして、いま上げるべきは消費税ではなく、最低賃金です。
全国知事会は、昨年「地域間格差拡大につながるランク制度を廃止し、全国一律の最低賃金制度を実現」と決議し、2年連続で今年も政府に申し入れました。
地方の切実な声に応えるべきです。地域経済を活性化し、一極集中にも歯止めをかける。これこそ本当の成長戦略ではありませんか。
最低賃金の抜本的な引き上げのためには、中小企業支援がどうしても必要です。
しかし、安倍政権のもとで中小企業予算全体は削減され、賃上げのための「業務改善助成金」は、ここ3年間の予算48億円に対して執行額15億円で、3割しか使われていません。
なぜ使われていないのか。中小企業は7割が赤字ですから、税や設備投資への助成では効果的な賃上げ支援になりません。支援策として中小企業団体からの要望が強いのは社会保険料の事業主負担軽減です。赤字企業でも必ず恩恵があるからです。
フランスでは、最低賃金引き上げのために社会保険料の事業主負担を軽減しています。こうした海外での取り組みにも学び、最賃引き上げの有効な支援策として、中小企業の社会保険料への公費補てんを検討すべきではありませんか。
日米貿易協定のどこが「日米ウィンウィン」か――日本側の一方的譲歩だけ
日米貿易交渉は、トランプ大統領の要求に、日本側が一方的に譲歩するものとなりました。
アメリカからの牛肉、豚肉などの関税は大幅に引き下げる一方、日本からの自動車や部品の関税削減は、先送り。いったいどこが「日米ウィンウィン」なのですか。トランプ大統領の一方的なウィンではありませんか。
総理は首脳会談後の記者会見で「すべての日本国民にとって利益をもたらす」と述べましたが、その根拠はなんですか。日本農業新聞が農業関係者に実施した調査では、日米貿易交渉について「米国に有利な結果になった」と見る人が66%なのに対し、「日本に有利な結果になった」と答えた人は1%にすぎません。いったいどこが「すべての日本国民に利益をもたらす協定」なのですか。
政府は日米貿易協定による日本農業への影響を試算したのですか。試算も示さずに、どうして「すべての国民の利益」などと言えるのですか。影響試算は国会審議前に当然示すべきではありませんか。
これまで総理は「日米自由貿易協定(FTA)の交渉は行わない」と説明していたのに、日米共同声明では、FTA交渉の開始で合意しました。極めて重大な約束違反ではありませんか。以上、お答えください。
農業主権、経済主権を破壊する日米貿易協定の国会承認は断じて認められません。日米FTA交渉の中止も強く求めます。
沖縄県民の審判は「新基地建設ノー」――普天間基地の無条件返還を米に求めよ
沖縄県民は、繰り返し選挙で圧倒的な「新基地建設ノー」の審判を下してきました。しかし安倍政権は一顧だにせず、辺野古の埋め立てを強行しています。
今年の沖縄全戦没者追悼式で、玉城デニー知事は「民主主義の正当な手続きを経て導き出された民意を尊重せず、なおかつ地方自治をも蔑(ないがし)ろにするもの」と語りました。
当然の批判です。総理は、これでも「県民の負担を軽減する」とか「沖縄の心に寄り添う」などと平気で言えるのですか。
政府は「普天間の危険性除去」を口実に新基地建設を強行していますが、2月の本会議で私が指摘したように、普天間基地は1945年4月、米軍が住民を強制収容している間に、民有地を囲い込んで造ったものです。これは、どんな弁明も通用しない国際法違反の行為にほかなりません。総理も本会議で、「国際法に照らしてさまざまな議論があることは承知している」と否定できませんでした。
あらためて聞きます。国際法に違反して建設された普天間基地は、無条件返還を求めるのが当然であり、安倍政権は辺野古新基地建設を直ちに中止し、普天間基地の閉鎖・撤去のためにトランプ政権と正面から交渉すべきではありませんか。
選択的夫婦別姓制度を――法律で夫婦同姓強制は世界でも日本だけ
総理は所信表明演説で、「新しい時代に求められるのは多様性」と述べました。ならばお尋ねしたい。
参院選の党首討論会で、選択的夫婦別姓制度について、賛成に手を上げなかった党首は、総理ただ一人でした。法制審議会が選択的夫婦別姓の答申を出してから23年が経過しています。この間、国連の女性差別撤廃委員会が再三にわたって勧告しています。法律で、夫婦同姓を強制しているのは、世界の中でも日本だけです。
所信表明で金子みすゞさんの「みんなちがって、みんないい」を引用しながら、昨日総理は「さまざまな意見がある」と選択的夫婦別姓を否定しました。矛盾していませんか。
さまざまな意見があるからこそ、夫婦別姓を選択できるようにすべきなのではありませんか。
歴史をゆがめる安倍首相――「植民地支配への反省」を土台にしてこそ
最後に、歴史認識について聞きます。
1998年に当時の小渕恵三首相と金大中(キム・デジュン)大統領のもとで結ばれた日韓パートナーシップ宣言では、小渕首相が「韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫(わ)び」を述べました。
総理はこの立場を、今日も引き継ぐのですか。
総理は所信表明演説で、日本が1919年のパリ講和会議で「人種平等」提案を行ったことをあげて、「世界中に欧米の植民地が広がっていた当時、日本の提案は、各国の強い反対にさらされた」などと、日本があたかも植民地主義に反対していたかのように述べました。
しかし1919年とは、いったいどういう年だったか。日本が不法・不当な「韓国併合」で植民地化した韓国で「三・一独立運動」が始まり、当時わが国は、これを武力で徹底的に弾圧したのです。日本が植民地主義に反対していたかのように描くのは、歴史を一方的にゆがめるものではありませんか。このような主張が、総理が「重要な隣国」だという韓国の政府や国民に理解されるとお考えか。しかとお答え願いたい。
安倍政権が、村山談話や日韓パートナーシップ宣言などにも明記された「植民地支配への反省」という、歴代自民党政権のとってきた立場も投げ捨てる態度を取り続けていることが今日の日韓関係悪化の根底にあります。過去の植民地支配への真摯(しんし)な反省の立場を土台にしてこそ、日韓両国間の諸懸案の解決の道が開かれます。
そのことを政府に強く求めて、質問を終わります。